6 おやすみ瑠樹と那岐
彼の手にはクナイにも似た武器が両手に二本ほど治まっていた。刃の形状が
彼は瑠樹と那岐に向けて投げ飛ばされた。二匹は避けて那岐が地面をけり、棍棒に黒い炎を宿す。瑠樹が数個の
「
言霊が放たれると共に、ぱちんと指が鳴らされる。
瑠樹は戸惑うと。
「っ!?」
「那岐っ!?」
仲間の悲鳴が聞こえ、瑠樹が首を向ける。八一が那岐の目の前で深々と胸に刃物を指していた。
「
言葉と共に那岐の全身が発火する。瑠樹は八一を切り裂こうと爪を鋭くして、後ろから襲いかかる。
「っ八一さん!?」
「どうした。お嬢さん」
奈央は声をあげ、隣から八一の声が聞こえた。首を横に向けると無傷の八一がいた。少女の間抜けた顔に彼は楽しそうに微笑みを浮かべる。
「やっぱり、お嬢さんはいい反応するなぁ」
「え、ええええっ!?」
驚く奈央の反応を八一は楽しそうに見つめる。
[あれは、分身ですよ]
麹葉は呆れたあと、瑠樹のいる方を見た。奈央も目線に気付いて目を向けると、
「
八一からは人の魂と説明を受けている。黒い蛍の光もあった。悪霊の魂だ。黒い光は消えて、普通の蛍の光となる。那岐の体を薪として燃えている炎で浄化されたのだ。
炎が消えると那岐の姿は灰となっていた。八一は地面に着地した。瑠樹は慌てながら起き上がり、
「那岐……──っ!」
焦げた痕と灰しかなく、那岐の姿はない。瑠樹は
「聞きたいことがある。なんで相手を思う心があるのに人の魂なんか食った?」
疑問を言う前に、瑠樹は怒りを露にして狐火を出そうとする。
「──生まれのいい、半妖なんかにわかるものかっ!」
勢いよく蹴りを入れてくる。八一は驚いて、片腕をあげて
[結界が……破られた……!]
麹葉は驚いた。八一は深い溜め息を吐き、奈央の目の前に現れる。彼女を抱き上げて、奈央本人は驚いた。
「えっ、ちょ、八一さん!?」
「危ないから、お嬢さんを一人にするわけにはいかないんだ。すまない。しっかりと私に抱きついてて」
八一の言葉は正しく、彼女は戸惑いながらも頷く。
「麹葉さん、後追ってきて。お嬢さん、舌を噛むなよ。いくぞ!」
「は、はい!」
返事をした瞬間、彼は風のように駆け出した。車の速度より早く60キロは余裕で出ているだろう。瑠樹は
駿府の外側に逃げようとしているのだろう。背後から八一達が迫っていると知り、瑠樹は急いで走る速度をあげた。建物が無くなったところで地面に降りて川へとむかう。八一と麹葉も降り立ち、川の上を走ろうとする瑠樹を見た。
瑠樹が
「
八一は言霊を吐くと共に手を振りかざす。撃ち落とされたかのように、瑠樹は川へと落ちた。大きな水音に驚きながらも奈央は下ろされる。麹葉は感嘆していた。
[なるほど。あの木葉は八一様の力で身代わりしたものだから、操れたのね]
貼り付いた木葉に重みを加えて落としたのだろう。麹葉の説明に奈央は感心しながら、川の方を見る。
川の浅瀬に落ち、痛そうだ。こめかみからは赤い流れ、表情が痛みで
「もう一度聞く。あんた、那岐を心配して声かけたよな?
何故、そう相手を思う心があるの魂なんか食った。力をつけなくとも普通に修行していればなれたはずだ」
彼の問いに瑠樹は恨めしく
「っ……お前達上位狐が我ら下位の狐を
私と那岐がどれだけ苦しんできたのかっ……生まれのいい半妖なんかにわかるわけ無いっ!」
那岐と瑠樹は一番低いくらいの
「そうさ、わかるわけ無い。そして、あんたは私の苦しみを理解することはできない。当然だよな? 私達は立場が違うのだから」
「瑠樹。お前を殺す。那岐のように狂ったままなのは勘弁だからな」
「はっ……? ……那岐が、狂う?」
驚愕を表に露にした。まったく知らなかった様子に八一は驚き、片手で頭を押さえる。
「……まさか、知らずに悪霊を与えられたのか」
瑠樹は
「……嘘……だ……夜久無が私達に悪霊を……?」
体を震わせて、瑠樹は考えたくもなかったようだ。
魂を食うのは良くない。それは、輪廻の循環を保つがゆえの禁忌。悪霊を食べると言うことは、人の悪い想いすら食べること。食えば確かに力は得るが悪霊は質悪い。妖怪によって阿片のようなものになる。妖怪によっては平気なものもいるが、中には麻薬のように摂取をするものもいる。那岐と瑠樹は力が弱いため、いつか狂い始めてしまうのだ。
瑠樹と那岐は禁忌は知っていたようだが、悪霊まで与えられていたとは知らなかったようだ。夜久無は恐らく二匹が瀕死の内に与えたのだろう。
「……お前達は捨て駒か」
八一の一言で瑠樹ははっとして顔を俯かせる。どんな顔をしているのかは、計り知れない。自分達は利用されたのだと瑠樹は気付いたのだ。
「そんな、夜久無は私達を
「友の元に逝きたい炎に触れろ。楽に逝かせてやる」
「…………っ!」
瑠樹は泣きそうになりながら、八一の炎に手を突っ込む。
「
八一の出した炎は白く変わり、瑠樹の体には燃え移る。川の中に関係なく、彼の体に燃え移る炎は消えることない。瑠樹は悔しげに涙をこぼしながら、白い焔の中に消えていく。
彼の体の中からは黒い蛍が現れて、白い焔に焼かれて黒さが消えていく。白く戻ると魂は空へと上っていき、最後に残った白い魂は空へとゆっくりと登っていった。
[……酷い]
やり取りを見ていた麹葉は悲しげに呟き、奈央は同意する。
「本当に、酷い。まさか、瑠樹と那岐が利用されていただけなんて。夜久無のやつは何処にいるのですっ……!」
八一は頭を強く掻いて、怒りを含んだの声を上げる。
「部下を殺さぬように回収したから少しは善良かと思いきや、まさか純粋な悪役とは恐れ入った。向上心があると聞いていたが、その方向性は最悪だなぁ! 夜久無!」
誰も居ない場所に声をかけ、麹葉と奈央は驚いた。
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