1 遊園地の悪夢

 誰かが悲鳴をあげる。ぼうっとしている向日葵の少女は自分がたっているのだと自覚した。何が起きているのかは、わからなかった。だが、段々と把握できてくる。

 目の前には遊園地の門がある。手にはチケットを持っており、少女は呆然としてそれを見た。門に取り付けられた看板に書かれている遊園地の名はわからない。奥を見るとジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車。様々な娯楽施設がある。園内の方から陽気な音楽が聞こえてくる。


《ハローハロー、南無と唱えれば極楽浄土なのかい?

踊って唱えてHAPPYかいな? ここはえくせれんと楽しい遊園地。レボリューションで斬新な娯楽お届けぇー♪》


 歌詞が狂っている。遊園地の扉が開いており、血濡れの動物の着ぐるみが火炎放射機を手に誰かを焼いていた。

 一人の男が遊園地から慌てて出てきており、着ぐるみが乗った可愛いミニカーにはねられた。遊園地の中では数体の着ぐるみが男を血が出るまで殴っており、一人はそれに恐怖して逃げ出して崖から転落した。


 声がはっきりと聞こえ人の悲鳴だと理解した。

 彼女は目を丸くする。「やだ。早く動いて」と向日葵の少女が身じろぎした。体が動き、こんな気味の悪い場所から逃げ出そうとした。しかし、足に重りがついているようで動きが鈍くなる。

 後ろを向くと多くの着ぐるみが使い古した斧と鉈を持って、手招きしている。複数の手でおいでと言っているようだが、向日葵の少女は近づきたくなかった。

 いつのまにか、隣には見知らぬ男がいた。

 男は顔色を真っ青にして首を横に振っている。勝手に足が動いているようで、彼は遊園地の中へと入っていく。男は着ぐるみに押されて倒れる。男は鉈や斧を振り下ろされて悲鳴をあげて絶命をした。


 この夢がどんなものなのかを思い出す。


 オカルト板で見た怪談であり、少女は手にしたチケットを手放そうとする。しかし、手の動きも鈍く全身に重しがかかったように感じた。

 手を開こうとすると、背後から足音が聞こえた。振り替えると、着ぐるみたちはゆっくりと近付いてきていた。

 嫌だと首を横に振っていると、少女の横で何かがものすごい勢いで通りすぎる。風が起きて、手にあるチケットは飛ばされる。遠くからバイクの音が聞こえた。



 その音で向日葵の少女ははっと目が覚める。



 気付けば、掛布をはいでいた。アラームがうるさく響いている。額には前髪が張り付いており、汗を掻いたのだ。下着とパジャマも汗をかいて張り付く。少女は喉の乾きを感じた。ゆっくりと起きてると、顔に光が当たる。時計のアラームを切って、カーテンから外の明かりが漏れて少女はカーテンを開けた。

 朝日がある。鳥の声がある。いつもの住宅街があり、道路がある。時々新聞配達の人が通るバイクの音だろうと考える。時計を見ると、今すぐ起きないと登校に間に合わない時間であった。


「やばいっ! 急げっ!」


 服を脱ぎ捨てて、田中奈央は学校へいく準備をした。



 夏休み入る前日。■■■■は昼前でありながら、帰る支度をしていた。いや、彼女だけではない。周囲の生徒も帰る身支度をしているからだ。通学バッグと持って帰るものを大きなバックに詰め込む。

 名前を盗られた少女は教室中を見回した。

 彼女のいるクラスの生徒は減っている。三つは空席であり、担任が用意した幾つかの花束が乗っていた。

 今日の朝に行方不明になった四人の死亡した旨を全校に伝えられた。ニュースでは四人と小学生二人を殺した犯人として逮捕されていたが本当ではない。だが、逮捕された容疑者は死罪を免れぬほどの犯罪をしていた。その容疑者に彼らは濡れ衣を着せた。

 彼女は本当の事を言いたくて口を開きかけたが、頭の中にある言葉がよぎる。信じるはずもない。様々な気持ちが絡み合って口を閉ざした。

 直文は彼女の両親から帰ってくるまでの間、滞在の許可をもらっている。彼女の両親は急に仕事が立て込み、八月の上旬まで帰ってこれないようだ。

 彼女は奈央に目がつく。顔を見ると疲れたような顔をしており、近づいて声をかける。


「奈央ちゃん。大丈夫?」

「……えっ、あっ、はなびちゃん」


 顔を見せて奈央は疲れたように答えた。

 この少女に目元に濃い隈ができている。間近で見るとよくわかるほど疲れているのがわかり、■■は慌てた。


「って、奈央ちゃん。そのくまどうしたの!?」

「……はなびちゃん。ここ最近夜よく眠れなくて」

「何で眠れないの?」


 聞くと、奈央は欠伸を噛み締めて答える。


「ふあぁ、実はとても怖い夢を見たんだよね。一週間お母さんと一緒にホラゲやりまくったり、ホラー小説読んだり、掲示板サイトの怪談や本にある怪談を見てたのがよくなかったのかなぁ……」

「……絶対それだよね? 奈央ちゃん。怖いの好きでも、限度あるよ?」


 彼女は注意をする。名無しの少女はもみじ兄から命知らずなオカルト好きがいる話を聞いたことある。話を聞くと趣味で危ない曰く付き場所によく行くらしく、常に伴侶が手綱を握っているらしい。この話を聞いてから、彼女はオカルト好きな友達を心配していた。

 奈央は苦笑をしている。


「流石に、はなびちゃんの話す命知らずのオカルト好きさんまではいかないよ。精々、ホラー映画を見て、ホラゲを遊ぶ程度」

「だ、だよね……。でも、どんな怖い話を見たの?」


 聞いた瞬間、友人は詳しく話す。


「色々みたよ。柘植矢さん、くねくねと猿夢も怖かった。最後に見たのは『死因:入園』かな。チケットを持っている人間が、夢の中で何かで死ぬと現実でも作用してそれで死ぬ話。チケットを手放せば大丈夫だけど難易度は高いって話」

「……奈央ちゃん。昼間から何て話を」

「聞いたのはなびちゃんじゃん!」


 突っ込まれて■■は笑う。名無しの少女は柘植矢さんは聞きたくない。しばらく怪談は懲り懲りであった。

 奈央はあくびをする。


「ふぁー、そのせいか、最近その遊園地の夢を見るんだよ」

「自業自得でしょう」


 突っ込むと奈央は不思議そうにバッグを持つ。


「うーん、でも、何か妙にリアルっぽいんだよなぁ……。あっ、リアルって言う洒落怖があるよ」

「怖いのは十分だからいいよっ! あっ、今日からしばらく私の家に泊まりに行くんだよね? 準備できた? 家族に許可得た!? お父さん、お母さん、直文さんはオーケーだって!」


 ■■は慌てて、話を変える。

 名無し状態で怪異に遭遇したせいか、あの日から立て続けに家の周りで怪奇現象が多くなったのだ。近所で変な噂が出てない分まだ良い。たまに怪奇現象のお祭り、家の電子機器がエレクトリカルなパレードになるぐらい。■■の話に奈央は嬉しそうに頷いた。


「うん、休みの期間毎年恒例だもん。許可とってあるよ。さぁ、はなびちゃんにはたくさん聞きたいことがあるから、お覚悟ね!」

「お手柔らかお願いします!」


 頭を下げる彼女に、奈央は「容赦しないよー」と笑う。奈央は直文の話はよく聞いてくるが、どんな人物なのかは知らない。放課後に部活があり、奈央は姿を見れてないのだ。

 今日は夏休み前で部活はない。奈央の所属は運動部であるが、彼女は大会にでない。鍛えるつもりで所属しており、補欠要員としている。

 彼女たちは賑やかに話しながら歩いていく。

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