13 狐のお祓い4
奈央は堀近くの歩道を走り切り、狭い道に入る。住宅街の道を通り過ぎるが道は広くない。車や自転車に当たらないように屋根へと飛び乗った。神通力が作用して身体能力も上がっている。上に移動して駆け抜けていった。
飛ぶタイミングは、麹葉に教えてもらっている。声は分からないが、何となく感覚的なものが伝わってくるのだ。
電線や鳥に当たらぬよう、足に力を込めて飛ぶ。神足通の練習、いわゆるパルクールの練習に休みの間であり八一に付き合わされた。
【神足通はどこまでも行ける力というが、奈央の場合は軽度だ。アニメの中の忍者のように屋根の上を走れるぐらいにはしよう!】
と言った。条件として八一の美味しい御飯につられて、何度かパルクールをやらされたことがある。
神通力なしの基礎を何度もやらされて、応用をやらされた。休みの練習の成果が出てきていた。練習しているさなか、彼からのアドバイスを奈央は思い出す。
まず恐怖心よりも真っ先に目的を果たす為に走れと。
運動が得意な奈央はパルクールは問題なくできていた。問題は恐怖心などの精神面からだ。パルクールは全身を使う上に、着地点の見定め、タイミング、受け身の取り方など練習しなくてはならない。
神足通のおかげでもあるが、基本的には彼女についている麹葉の手助けがなくては屋根と屋根を飛び乗るという方法はできない。
「っ過去の森のようにうまく行かないかっ……!」
足場になれるような枝などのない。鳥のように電線や電柱に止まれればいいが、そこまでの技量はない。
電線と電柱、道路の上を飛び越えながら、奈央は親友のために急ぐ。高校、小学校、中学校の近くを通り過ぎる。目的地の菓子屋が見え、奈央は近くに降り立った。
着地の方法も教わってり、地面に着地したがなれずに奈央は腰をつく。尻餅をつき、奈央は小さな和菓子屋を見る。
大事にされているならば、その家に座敷わらしは生まれる。地元からも愛用されている和菓子屋なのだろう。その証拠として黒い靄が和菓子屋から発しているのが見えた。
「っ……!」
尻餅から立ち上がって、奈央は開いている店の入口の前に立つ。
店員と客人は身隠しの面により、奈央に気付いていない。彼女はさらに罪悪感をいだきつつ、中に入る。
店内を見ていると、壁に札が張り付いているのが見えた。黒い札から僅かに黒い物が吹き出ている。普通の人には見えていない札らしく、陰陽師や特殊な人間でないと見えない仕組みのようだ。あっさりと根源が見つかった。奈央は驚きつつも、八一から貰った札を掲げて言葉を吐く。
「……解」
札が光ると、札は灰となって消える。店に漂っていた靄は札が光っている間に消える。靄が完全に消えると、札も灰となって宙に消えた。
「っ……これで終わり……かな?」
奈央は恐る恐る壁から離れて、店内から出ていく。手を伸ばす人物がいることに奈央自身は気付いていなかった。三つ編みを引っ張られ、やっと気付いた。
「いっ……!」
「おい、お前。札を消しやがったな? どうやって消した!?
お前は何者なんだっ!?」
髪を引っ張っているのは、奈央と同じように布型の身隠しの面をした男だった。親友を助ける事だけ考えていた為、陰陽師の存在を忘れていた。当の陰陽師は生成する札を消されて戸惑っているようだ。相手からすると、見知らぬ少女が急に札を消したのだ。戸惑うのも当然だ。
奈央は強く引っ張られるが、抵抗しようと陰陽師の手を掴む。
「っいたい、離して!」
「できるかっ! お前はあだっ!?」
誰かの手が奈央の髪を掴んだ手を勢いよく叩く。
奈央は離れると、奈央と陰陽師の間に人が立つ。奈央からみて背後には九本の尾をゆらしている背の高い男性がいた。
八一である。八一は陰陽師の男の襟を強く掴んでおり、苛立ちを見せている。また狐の耳と尾にも怒りを顕にしていた。
「はっ、女の髪を引っ張るなんて、最近の陰陽師は教養がなってないんだなぁ。あれじゃあヤンキーと同じだ」
「っおま、なっ……!?」
襟を捕まれたまま陰陽師は持ち上げられ、そのままコンクリートの地面に叩きつけた。エグい場面に奈央は息を呑む。明らかに痛そうであり、陰陽師は苦しみの声を出す。倒れている相手に向けて、八一は記憶を消す術を放つ。
「消憶」
言葉とともに、陰陽師は言葉を発揮なくなる。八一は陰陽師の身隠しの面を取ると、自らも仮面を取った。取ると同時に変化を解いた。仮面を消すと携帯をバッグから出し、八一は操作をして耳に当てる。
電話らしく、八一は手慣れたように話す。
「もしもし、はい……倒れている人を見つけました。場所は……はい。すみません。よろしくお願いします」
場所を述べて、八一は通話を切る。倒れている人と聞き、救急車を呼ぶ手配をしたのだと察する。奈央は顔にある身隠しの面を外した。
「八一さん……ありがとう。助かった……」
顔を奈央に向け、八一は安心したように息を付き申し訳なさそうに頭をかく。
「悪かった。無理させた。奈央」
「大丈夫! 八一さんが助けてくれたから!」
両手を後ろに回して、にっこりと笑って見せる。震えをなんとか隠そうとしていると、八一が頭を優しく撫でてきた。顔を見ると、暖かな稲穂の思わせる微笑みを浮かべていた。
「無理をするな。君は普通の女の子なんだから怖がっていい」
見抜かれていた。奈央は申し訳無さそうに彼の服を掴む。
「……ごめんなさい。八一さん」
「気にするな。私が悪いんだ。美味しいものを奢って美味しいお菓子買ってあげるから、一緒に食べような。今はすべきことしよう」
八一は倒れている相手を見つめた。
救急車が来ると、八一と奈央は乗って近くの病院へと向かう。
加減はしてあるらしく、打ち身だけで済んだ。目覚めた陰陽師は八一と奈央から倒れていた旨を聞き、感謝と謝罪をしてきた。
先程の一蓮の記憶を忘れている。陰陽師である以外は普通の人間であり、奈央は拍子抜けてしまった。治療を受けと得たあとは共に病院から出て、陰陽師は二人に謝る。
「本当に何から何まですみません。助けてくださり、ありがとうございます」
「気にしないでください。お互い様ですよ」
「あの、よろしければお礼をさせていただけませんか?」
「本当にお気になさらず。生きているだけで十分なお釣りですよ。……ああ、あと、この携帯。近くで落ちてましたので、落とさないように気をつけてくださいね」
スマホを陰陽師に渡す。彼は自身の携帯を受けとり、申し訳なさそうに頭を下げた。
「……っ本当に助けてくださり、ありがとうございます!」
頭を下げた陰陽師に、八一は愛想よく手慣れたように対応する。陰陽師を怪我させた本人は八一だ。目の前で起きていることを、奈央は複雑そうに見ていた。
陰陽師の男は八一を心広い相手だと思っているだろう。心情は『厄介事になる前にさっさとされ』だ。奈央は彼をよく知るがゆえに、何とも言えない。
二人は陰陽師が去っていくのを見る。遠くなっていく背を見届けた後、奈央はジト目で八一を見る。
「いけしゃあしゃあとこなせるよね……八一さん」
「妖狐は化かすものだ。お嬢さん。それに私は根っからまともな人間じゃないし、本職はヒトデナシさ」
妖しく笑う彼に、奈央は唇をとがらせる。人でなしなことをしていても、八一は人情がある。奈央はあまり卑下しないでほしいと思っていた。
「……やっぱり、私も半妖になりたいなぁ。そうすれば、八一さんの負担も減らせるのに」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、駄目だ。奈央は奈央のままでいてくれ」
再び頭を撫でられた。優しく心地よく撫でられる八一の手に、奈央は頬を赤く染めて頬をを膨らませる。
撫でられるだけで流される自身のチョロさに、不服さを感じていた。
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