🎆ex 私は頭を冷やして 俺はご飯の準備をする
(※こちらは一人称。依乃と直文の視点となります)
とある休みの日。勉強の休憩として、私がお昼寝をしたんだけど……ど、どうしよう。ベッドの上で少し眠るつもりが、だいぶ眠ってしまった。私はたぬき寝入りをしている。動けないからたぬき寝入りをしているんだ。
だって。だって!!
直文さんがベッドの脇に座って、私を見ているから!!
目を開けようとしたら、彼がいて慌てて薄めで見てる。な、何かしたかな。何で寝顔を見ているのかな。起きて謝ろうかと考えたけど、何もしてない。
し、心臓がドキドキする。顔が赤くなって、直文さんにバレてないかな。寝返りうつふりをして、顔を隠そう。
「んっ……」
声を上げて、直文さんから顔をそらす。これで少しは……大丈夫かな……。と思いきや、直文さんは体を動かして私の顔を見てきた。体に少し影が覆う。
えっ、えっ。えっ!? か、顔見るの!?
どどどどどうして!? あっ、いや、そもそもなんで直文さんが部屋に入ってきて私を見ているかなんだけど。勝手に入ってきたわけじゃないと思う。
ノックしたけど反応がなかったから、様子を見て入ってきたんだよね。
そう、だと思う。
顔を見るのをやめたらしく、彼は微笑んだ気がした。私は髪をおろしている。その髪を、触られている。
髪を指でなぞられている気がして……変にむず
指で髪をなぞられて頭まで来る。すうっと動く直文さんの指がくすぐったくて身をよじる。だ、だめだ。くすぐったくて……笑いそう。
だ、誰か助けて……! 奈央ちゃん! 澄先輩……!
指が頬まで来ると、指でつんつんと頬を突かれる。上から笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、いつまで狸寝入りしているんだい。俺の相方みたいなことしないでくれよ」
……バレていたらしい。なんだか可笑しそうに笑われて恥ずかしいけど、私は目を開けて身を起こす。
「……気付いていたのですか……直文さん」
心臓が激しくて顔も熱い。直文さんは頷いて、申し訳無さそうに笑う。
「うん、途中で起きたの気づいたんだ」
「……部屋に来たのは」
「ご飯ができたから、呼びに行こうと思っていたんだ。そしたら、気持ちよさそうに寝ていたから、声かけられなかった。君の寝顔を見ていたら、起こすことが頭から抜けちゃって見続けてしまったんだ。ごめんね?」
謝られて、私は動揺しながら気にしないでと返す。
ず、ずっと寝顔を見られていたとは。なんでかわからないけど恥ずかしい。どうしよう体温が上がった気がする。片手で頬を押さえつつ、ベッドから降りようとするけど……直文さんは心配そうに頬に手を添えてきた。
「どうしたんだ? 顔が赤いが、熱でも出ているのか?」
額にコツンと合わせられ……って、あああああ!!
直文さんの顔近い近い近いぃ! 綺麗でかっこいい顔が……あっうっ。
私は彼から離れて声を上げる。
「そ、そうですね!! ご飯!! 食べないとですね……! 熱なんてないないです! 風にあたって目を冷ましてきます!」
自分でも何を言っているのか、わからない。立ち上がって、直文さんをおいて私は部屋を出た。
とりあえず……私は……冷たいものを飲んで落ち着きたい!!
慌てて去った彼女を見送り、俺は瞬きをする。熱がないならいいのだけど、なんで顔を赤くしたのだろう。
不思議に思い立ち去る前にふっと俺は彼女の寝ていた場所を見つめた。手で触れると、そこには彼女のいた名残りの温もりとシワがある。
……ここで生きている証がある。
あの子は、生きているのだ。
あの子の寝ていた場所を指でなぞってみる。例えが不謹慎だけど、事件現場のように寝ているあとの線を作ってみた。
寝ているあとを見つめ、横になる。
ここで彼女が寝ていた。寝転がって、寝息を立てて。……眠そうな彼女を抱きしめたら、腕の中で消えないかな。
不安がこみ上げるけど、そんなことない。
だって、彼女は、あの子は、はなびちゃんは……依乃はここで生きている。だから、消えない。消えないよう俺が守ればいい。
君を守る。ただそれだけで俺はここにいる。
身を起こして、俺は立ち上がった。
「油を売っている暇はないな。……彼女のためにもご飯の準備をしないと」
今日はかぼちゃと小豆で煮た従兄弟煮を用意した。あんこと小豆が好きなあの子が喜ぶといいな。
俺は足をキッチンに向けた。
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