12 啄木の夜の買い物

 各個人で昼をとり、仲間と共に夕食を取り終えた頃だ。

 入浴する前に、啄木は海辺にある薬局で熱中症対策や怪我したときのための買い物をしていた。籠を手に商品棚を見ていると、啄木は商品棚をじっと見ている人物がいた。

 そこの商品棚はカップルの男なら必要となる必需品とも言える。悩ましげに見ている友人兼仲間がいた。啄木は何やっているんだと呆れながら声をかけた。


「何やってんだよ。茂吉」

「っ! ……って、なんだ。啄木か」


 茂吉はビクッと震え、ほっとした息をつく。

 ハニートラップを仕掛けるならば茂吉は専門店で買うか、通販をする。一般の薬局で買うことはしない。対策をするにも、茂吉はなかなかエグい方法で防いだりしている。が、その茂吉自身にいつもの余裕さがない。

 彼をよく知るが故、啄木は面白そうに笑う。


「へぇ?」

「……なに?」


 いぶかしげに見つめられ、啄木は微笑む。


「いや、思えば受付で部屋の案内されたばいいけど……茂吉だけ仲居さんに別の部屋に案内してもらってたなぁーって」


 上記の行動を茂吉は行っていた。仲居さんと別の部屋に案内されるというのは、如何わしい香りしかしない。啄木達は知っているがあえて、口は出していない。告げられた途端に、茂吉は陽気に笑う。


「あははっ、見ててわかってるなら言わなくていいじゃん♪

ああ、咎めるなら咎めれば? 俺はいつでも来るもの拒まず──」

「ばかもん。不倫やハニトラする呈を装うな。仲居さんとは何もない。不倫小説とか昼ドラみたいな展開はない。本当に部屋を案内してもらっただけだろ」


 言葉をさえぎり、啄木は楽しげに話す。


「それ以外の目的だってこと、ここに来てる時点でバレバレだぞ。準備のいいお前が忘れるわけ無いだろう。となると、余程のイベントがこの日にあって浮かれてたか、動揺してたかで忘れた。考えればわかる」

「………………」

「ちなみに、お前のサイズはここにはないと思うぞ。本当にラブラブだな」


 指摘されて茂吉はしばらく黙っていると頭を項垂れた。


「……はぁ……もう、ここ最近からかわれ続きだ」

「朝の仕返しだ。今まで揶揄やゆしてきたツケがきたと思え」


 啄木は茂吉の後ろを通り過ぎて、別の商品棚に向かっていく。スポーツドリンクを買い足し、熱中症対策が出来るようなグッズを見る。

 必要な物品を揃えたあとは、会計レジに向かっていく。

 会計を店員が済ましている最中、レジカゴに見覚えのない箱が入っていた。会計する前の店員を止めた。赤い顔で間違えて入れたと理由をつけて外してもらった。見覚えのない箱とは、茂吉が見ていた商品である。後で啄木が商品棚に戻した。明らかに茂吉の仕業だ。

 買い物をし終えて外に出ると、後ろから声がかかった。


「やぁ、たくぼっくん☆ いい買い物。出来た?」


 振り返ると、茂吉はペットボトルの入ったビニール袋を片手に意地悪く笑っている。その姿を見て、啄木も意地悪く笑ってやった。


「余計なもんをおいてきただけで、目的のものは買えたよ。お前は、見たところいい買い物ってやつできなかったんじゃないのか? 茂吉」

「殴っていい?」

「へぇ、一応お前に見合うサイズのやつ持ってるけどいらないか」

「……いや、いるけどなんで持ってんの」

「医師としてですよ。月に男は二桁ぐらい抜けば、がんの予防になるって話を聞いた。正しい性知識を持っての健全な性行為なら俺は推奨するぞ」

「……萎える話題やめてくれ」


 嫌そうな顔をする茂吉に、啄木は意地悪くは微笑む。仲間の様子に茂吉は嬉しそうに微笑む。


「けど、軽口言えるぐらいは元気になったみたいだね。啄木」

「お前もな」


 言われ、互いに笑い合って二人は歩き出す。近くの海岸を通るのではなく、道路の歩道を歩いていく。夜の海辺を避けでいるからだ。海からくる風が啄木たちに当たる。

 海に首を向けながら口を開く。


「茂吉。朝のフェリーの件で礼を言いたい」

「……………………えっ。啄木、ドMだっけ…………?」


 言った瞬間に明らかにドン引かれ、啄木は嫌そうな顔をして首を横に振る。


「違うわ。真弓と俺が互いを少しだけ知れたきっかけになったってことだよ。茂吉」

「ああ、なるほど。でも、啄木。俺悪いことしたんだから、礼は言わなくていいんじゃん」

「荒いけど、きっかけ作りなんだろ? だったら、少しぐらいは感謝しても」


 海の風が吹く。普通の海風ならいい。しかし、邪気を含んだ風ならば啄木と茂吉は反応を示す。真顔となり、同じ方向に首を向ける。風に含まれた邪気の量は多く、海岸の近くだと即把握。


「茂吉。まさか復権派の陰陽師か?」

「どうだろ。澄と一緒に直文と有里ちゃんに変化して、撹乱したけど……確かめる必要があるな」


 啄木と茂吉は隠れるように、身隠しの面を手にし顔にかぶる。

 買い物の荷物は消え、代わりに啄木と茂吉のそれぞれの手には武器がある。通行する車や人物は啄木達の姿を見えてない。彼らはコンクリートの地面を蹴り、建物の上に飛び乗った。

 海岸を見ると、海辺に人の気配はなく人もいない。しかし、邪気を感じる。啄木と茂吉は周囲を見回し気配を探るが、出処は海にしか向かない。


「……フェリーに乗っているさなか、呪術を行った気配はないけどな。撹乱したとはいえ、海に術を仕掛けるのは膨大な時間がかかる。一人二人じゃ無理だ」


 茂吉は話し啄木は海を見つめ、かつての『海原百鬼夜行』の話を思い出す。ある日の大災害の影響で通常よりも海の妖怪が強かった。『海原百鬼夜行』は啄木の手助けがなければ超えられなかった。

 組織に報告し、魂の回収を早めてもらった。粗方回収をしてもらい三途へと導いたが、まだ回収をしきれていない可能性がある。


「……まだ海のあの世とこの世の境界が整っているとは言えない。陰陽師の件も含め、警戒をしておこう。茂吉」

「……そうだね」


 啄木と茂吉は片手で刀印を作り、言霊を呟く。海岸一帯に一日だけ効果がある結界を張っておく。今夜と明日だけは、彼女達が楽しめるよう被害を出したくなかった。




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