ep 終幕 その強請り声は来年への厄呼び
ドアを開けるが、おぼつかない足で直文がベッドに向かおうとしている。電気をつける間はなく、依乃は直文をベッドまで案内した。
一緒にベッドに座る。
「直文さん。ほら、寝ましょう」
「……ん」
子供のように頷き、直文は言われた通りにベッドに入る。
子供のように甘えたり、素直になったり。あの酔い方は依乃がいたからであろう。直文が酔うと普段より子供らしくなるようだ。幼少期という幼少期がなかった反動なのか。依乃は考えてみるが、わからず直文に声をかける。
「ん、入りましたね。すみません、直文さん。私、もういき」
「──待って」
寝ている直文から手を掴まれる。驚くと、彼は真面目な表情で依乃を見つめていた。ゆっくりと上半身を起こし、依乃の頬に手を添えた。
「今回は迷惑をかけてごめん。ありがとう、依乃。でも、酔った勢いじゃなくて、ちゃんと、普通の時に……俺の気持ちを、っ言うから……待って……て……」
段々と眠気に勝てず、腕が下がっていく。頭も枕の上に置かれ、瞼が閉じられる。聞き耳を立てれば聞こえるほどの寝息。直文のセリフに驚きつつ、次第に依乃は優しく笑みを溢したとき。
「──ㇹㇱぃな」
遠くから聞こえてきた声に、依乃は驚いて後ろを向く。
部屋はただ暗いだけの普通の部屋。彼女はポケットにあるお守りを触ると、僅かに熱を発している。
今の声は何なのか。何が欲しいのか。よくわからない。声の主が、白い着物を着た『前の自分』でないと言い切れる。だとしても、間違いなく良くない声だ。不安を抱いて、依乃は手を強く握る。
「あげられないよ。私も、直文さんも、人のものじゃないもの」
はっきりというと、お守りから熱が発しなくなる。シェアハウスの中から悪い気配はない。隠れているような気配もないだろう。飲んでいるさなかでも、彼らは真っ先に気づく。先輩である澄も気付くはずだ。
可能性としては、外部からの干渉か。
シェアハウスの結界を通過するほどの何かが、蠢いているのか。彼女は不安げな顔をしながら、直文の部屋から出ていった。
部屋借り出るとその不安げな表情の意味を澄に問われ、依乃は包み隠さず話した。今晩は、安全のためにシェアハウスで全員泊まることとなる。親に一報を入れて許可をえたと誤魔化して、全員はシェアハウスに一泊した。
翌朝、半妖の彼らに依乃が遭遇した声について話すことになる。前に、直文切腹事変が起きた。依乃が来て止めるまで啄木と八一、茂吉で力づくで止めていたそうな。
「──ㇹㇱぃな」
この見知らぬ声が聞こえた意味。それはまだ物語は終わらないと意味していた。
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