ex 大酒乱ヨイドレナカマーズ(又の名を駄目な大人たち)2

 澄は呆れながら、茂吉に水のおかわりを用意した。


「うーん、この様子だと……味噌汁を飲ませるか。

たしか、倉庫にしじみのインスタントがあったはず。三善さん!

インスタントの味噌汁四人分作っておいてほしい。私は追加であさりとしじみをした処理して、それぞれの味噌汁を作るよ。多分、皆、インスタントだけじゃ足りなくておかわりするだろうからさ」

「あっ、わかりました!」


 真弓は準備すると、八一の尻尾の中から声がする。


「先輩ー……! 真弓ちゃーん……! 手伝えなくてごめんねぇ……!」

「気にしないで! とりあえず、皆の酔い覚ましてを手助けしよう!」


 先輩の言葉に、さらに奈央の謝罪の声が尻尾から響く。テキパキと動く二人。四人分のインスタントのしじみの味噌汁を用意し、四人に渡していった。

 直文はテーブルの近くに置くと気付いて、依乃を隣に座らせて飲み始める。八一は奈央の説得でやっと飲む。茂吉は渋々と、啄木は素直に受け取って味噌汁を飲んでいった。

 できるまでの間、水をちびちびと飲ませていく。八一は片手で味噌汁をゆっくりと飲む。奈央を掴む尾が消えると、片腕からも開放される。向日葵少女は驚いて、八一を見ると変化が解かれていた。


「……んー……ちょっと我に戻ってきた。悪い、奈央」

「いや……まあ、少し酔いが抜けたらいいけど……」


 そそくさと逃げようとする奈央の手を八一は掴む。狐は頬が赤いまま、艶めかしく微笑む。


「かいほーするけど、私から逃げられるの思うなよ? なーお」

「ひぃぃ……! なんか、束縛だよぉ!!」


 色気にやられつつ、奈央は顔を赤くしながら戦いていた。ちなみに表に出たのではなく、束縛というなの独占欲が強くなっているだけである。

 依乃はやっと硬直から抜け出し、状況を少しずつ把握して周囲を見る。やっと状況を把握できた依乃は、直文の行動を思い出して顔を赤くして両頬を押さえた。


「ひぇ……。直文さんか酔うと、やばい……」

「ん? 俺がやばいの? よりの」

「何でもないです。何でもないです」

「ふふっ、そっかぁ」


 顔を真っ赤にして、にこにことする直文。雰囲気もふわふわしており、いつもの対応がしにくい。


「はぁい、みんな、そこまで。しじみの味噌汁もできたから食べよう!」


 しじみの味噌汁ができ、お椀を用意していく。

 椀に入れて、四人に出していく。塩分過多であろうと言われよう。しかし、『神殺し』はただの酒ではなく、神すらも容易に酔わせる酒。即ち、人間が飲めば死に至る。

 四人は出されたものを飲んでいく。依乃は、その『神殺し』の入っていたであろう空の酒瓶を見つけた。匂いを嗅いただけでも酔いそうなほどのアルコール臭であり、水置き場に置いておいた。

 澄はピッチャーで氷水を作っておき、机の上に置く。


「はい、ここに和らぎ水おいておくから飲んでね。

あと、もうこれ以上飲酒しないように。残りの料理は、タッパに詰めておくから明日食べてるようにしてほしい。ここで落ち着かないと、このこと喜代子先生に言うよ?」


 半妖の全員がかっちんと音を立てるように固まる。段々と顔色を悪くしていき、そのまま黙った。依乃と真弓は喜代子の名を聞いており、依乃は不思議そうに聞く。


「ねぇ、先輩。喜代子先生ってどんな方ですか……?」


 真弓も気になっていたのか、澄に顔を向けていた。聞いた瞬間に、澄も苦笑いをし始める。


「先生と言えるぐらいに優しくて心の強い先生で皆のお母さんみたいな人。だけど、怒らせると強いしお仕置きがなかなかにエグい人かな。

小さい頃、私達は、この先生の仕置は必ず受ける。まあ、組織の半妖の皆は幼少期に悪戯と、諸々やらかしてるし……。私達を含めた組織の皆は先生に頭が上がらないんだ」

「……へ、へぇ……」


 言いようからかなり怖い人なのだとわかった。澄が畏怖するほど恐ろしい人というのに興味はあるが、二人は関わらない方がいいと直感する。

 喜代子先生の名前だけでも効いたのか、奈央が八一から解放される。

 少女四人が協力し、取り皿以外に残った料理をタッパに入れた。彼は取り皿に残った料理は全員きちんと食べて、しじみの味噌汁も飲み終えた。

 お皿をしっかりと重ねていく。

 そのあと、皿洗いの片付けは少女たち四人がやる。その間に野郎共はソファーやテーブルに突っ伏して酔いつぶれていた。

 片付け終えたあと、アルコールが分解されて少し我に返ったのか茂吉と啄木は身を少し起こした。


「……とーる、有里ちゃん、田中ちゃん、三善ちゃん。ごめん、ありがとう。この埋め合せはいつかするよ……」

「真弓。悪いな。……有里さんも、田中さんも澄ちゃんも本当にありがとう。そして、すまない。俺からも礼はしておくよ……」


 四人に謝罪と感謝を口にする。顔は赤いが理性があるようだ。水を少し飲んだあと、啄木と茂吉は寝室に戻っていく。迷惑がかからないように寝に入るとのこと。元々啄木は酒に弱いこともあり、あまり飲んでない。一方は残ったソファに寝そべっている八一と直文。

 奈央は絡まれる覚悟で、八一に近づいて揺すった。


「八一さん、八一さん! もう自分の部屋で寝てよう!」

「……んー……うん」


 彼は素直に立ち上がり、ふらふらと歩いていく。奈央は慌てて八一をさえた三人に声をかける。


「ああもう! ごめんね! ちょっと八一さん、寝かしてくる!

先輩、真弓ちゃん。ごめんなさい! はなびちゃんも頑張ってね!」


 えいえいおーという形で応援する向日葵少女。奈央は背中を支えてついていきつつ、八一と一緒に部屋に入っていく姿を全員見た。だが、依乃は何となく察するが、先輩の呆れ顔でその察しは確信へと変わる。


「……もしかして、稲内さん。奈央ちゃん、引きずり込みました?」

「……うん、やっくん。すごく悪い笑み浮かべてた。……まあ、今の奈央にふしだらなことはしないはず。お世話になった人の娘で、更に奈央の掲げてる恋愛御法度は尊重するだろうし。八一くんはそーいうとこは義理堅いからね」


 今までの間、奈央と不純異性交遊のような話は聞いたことはない。とはいえ、抜け穴はいくつもあり、隠れていればバレないこともある。心配しつつ、依乃は合掌した。合掌し終えたあとは、ソファーの上で寝ている直文に声をかける。


「直文さん。お部屋にいきましょう?」

「……んー……うん」


 虚ろな目で直文は起き上がり、目を擦る。立ち上がって歩くがおぼつかない。依乃は駆け寄りぶつからないように腕をつかんでサポートしつつ、二人に声をかけた。


「じゃあ、先輩。真弓ちゃん。私、直文さんを部屋に送るね!」

「うん! 後始末は任せて、依乃ちゃん!」

「わかった。はなびも無理しないでね」

 

 返事をして、依乃は直文と共にあるいて部屋へと送っていく。





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