8 狸くん狸くん 何がしたいの
傘に雨が当たる音を聞きながら依乃と奈央は、高校の近くにある公園まで歩いて行く。
二人は調子悪いと理由をつけて部活を休んで学校を出た。勿論、嘘ではある。しかし、嘘をついて部活を休むのよりも、自分の身を守りたかった。依乃は不安げに歩きながら、奈央は声をかける。
「は、はなびちゃん。大丈夫だよ……。大丈夫! 久田さんと八一さんが守ってくれるから」
「う、うん……そうだね……」
戸惑う依乃は、上手くいくかどうかの不安も感じていた。彼女の霊媒体質で茂吉を誘き寄せる。正確には、茂吉に憑いている怪異を誘き寄せるのだ。
彼女の体質は、遠くにいる怪異すらも寄り付ける程の強力なもの。お守りを外して直文に預けてある。依乃が
「……でも、うまくいくかな……」
「作戦をうまく行かせる為に、八一さんと久田さんがいるんだから……きっと大丈夫だよ」
二人は歩いて、公園に向かう。
二人が向かう場所は元々大学があった公園だ。広いグラウンドがあり、スポーツを楽しめる。水の広場と
公園の入り口について、二人は歩いて行く。
普段は地域の人々がいるが、雨が降っているせいか、人はいない。丁度いい機会だ。二人は歩いて花時計のあるエリアへつく。
「おーい!」
遠くから二人に声をかけて追いかけてくる人物がいた。二人が振り返ると、大きな傘をさして走りながら来ていた。
「よかった。いた……」
「直文さん……?」
依乃は驚き、二人の前に来て彼は微笑む。
「よかった……無事だった」
「久田さん!? なんでここに……!?」
驚く奈央に、彼は苦笑して二人に笑った。
「二人が心配になって……茂吉はまだ来てない?」
「……はい、まだ」
恐る恐る依乃は返して、顔を見て顔を強張らせる。
「そっか、じゃあ、ちょうどいいな」
直文が浮かべない歪んだ笑みを浮かべており、二人に手が伸びていく。気付いた奈央が傘を横に投げ飛ばした。彼の腕を掴んで怒鳴り声をあげる。
「っ! はなびちゃんに、何を、しようとしているんですかぁぁぁぁ──っ!」
背負投げの要領で、勢いよく彼を花時計の方へと投げ飛ばした。傘があらぬ方向に吹っ飛び、木の葉となって消える。その彼は花時計の花壇に突っ込んだ。
依乃はぽかんとする。
奈央は花時計の前までゆく。起き上がろうとする彼に向かって、少女の浮かべぬ
「はっ、無様だな。八変化の狸であるお前が花壇に突っ込むとは、
男の声を口から発して、パチパチと拍手を送る。起き上がり、彼は
「……やいちっ……!」
知っている声が名を呼び、顔を向ける。そこには奈央の姿はなく、雨に濡れた私服姿の稲内八一があった。彼は指を鳴らして、にこやかに笑った。
「せーかい。さっすがもっきー」
「やっぱり、寺尾さんだったのですね……!」
依乃は後ろに下がる。化けた姿から仮面をしたヘアバンドの男となった。
依乃を
肝心の奈央が何をしているのか。八一のポケットから着信音が鳴る。彼はポケットからスマホを出した。画面には奈央お嬢さんと乗っており八一は通話を始めた。
「はぁい、もしもし、奈央。どうした?」
《もしもし!? 今、久田さんに図書館の屋上に居るんだけど、寺尾さんに取り憑いてる怪異がわかったよ!》
依乃は図書館の方に首を向けると、キラリと遠くでなにか光る。
双眼鏡のガラスレンズ。傘をさした奈央は直文と共に図書館の屋上にいた。奈央は茂吉に取り憑いた怪異の特定をしている。普段は下調べをして挑むのだが、唐突に始まった故に調べる時間はない。しかし、奈央は神使狐の狐憑きとなり、いつくかの神通力を得ている。
ゆっくりと八一達の方では見て調べる時間はない。
故に、奈央に調べてもらった。奈央の得た目の力は幽霊だけが見えるだけではなく、取り憑いている怪異の姿を詳しく見える。その一つの目の力を使用して、彼女は彼に伝達をした。
《寺尾さんに憑いているのは『おのたぬき』。久田さんに確認をしてもらったお墨付き報告だよ。八一さん!》
「サンキュ、奈央。じゃあ、私は」
斧を手にした男が八一に襲いかかってくる。依乃は目を丸くし、奈央は息を呑む。八一は微動もせず、電話を続けている。
ぎぃんっと硬い音が響いた。男は斧を強く握り、斧の刃を届かせようとしていた。
彼は顔を上げて、深いため息をつく。
「……ったく、世話をかけさせる。お前といい八一といい、どうして平穏に事を済ませないんだよ!」
言われて、八一は笑う。
「ありがとさん、たくぼっくん。……と、言うわけで啄木と一緒に捕縛に入るから安心してくれ」
電話をしながら、奈央のいる図書館の方にウインクをする。ウインクをされたのを双眼鏡から見た奈央は顔を赤くして、ぷんすことと怒っていた。
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