10 狐のお祓い1
現世の小梳神社にて。神社の神使から黄泉比良坂にて起きている旨を聞き、黄泉比良坂からの電話を受け取った。二人は電話をし終えたあと、奈央はバッグから身隠しの面を出す。八一はスマホをポケットにしまった。奈央は黄泉比良坂でも電話が通じる仕組みが気になった。
「八一さん。それ、どういう仕組みで向こうと通じるの?」
「霊界通信の応用だな。因みに仕組みについては企業秘密。因みに、私の力で風とか光とかでの万物とか通しての連絡は無理だ。理由は黄泉比良坂とは別次元だから。要は、こことの電波が違うんだ」
納得し奈央は羨ましく思い、口にする。
「いいなぁー妖怪と電話できるんだ」
「こっちからメリーさんと会話できるけど、この機能ほしい?」
「うん、やっぱりやめとく」
「賢明賢明」
憧れからの現実を言われ奈央は辞めた。八一からにこやかに頭を撫でられる。死に行くような真似はしない。奈央は命知らずのオカルト好きではない。
これから、すべき事は二人はわかっている。
静岡の近隣にある瘴気に汚染された家を探し、浄化をする。探すことは簡単ではない。場所の特定はしておらず、足で探し見つけなくてはならない。
奈央は仮面をすると、八一は既に仮面を目にして顔にはめる。瞬間に八一は変化をした。姿を変え、狐の耳と九本の狐の尾を出す。
二人は仮面をつけたことにより、この世のものから見えなくなった。
見えるのは普通でないものだけだ。八一は考えるように周囲を見て話す。
「さぁて、大事にされているお家はどこかなぁ?」
「座敷わらしって……大切にされた古い家にいるんだよね?」
「座敷わらしは古い家だけじゃなくて、普通のお家でも生まれることはあるぞ。お嬢さん。その家の主は大抵住まいを大切にしているし、人柄がいい。こうは言っても、家主自身によるけどな」
八一は教え、彼は真剣に語る。
「ここは静岡市葵区。それなりに歴史ある老舗もあるだろう。建て替えても、家を引っ越してもついてきてる座敷わらしもいるだろう。さて、静岡市葵区で老舗といえば?」
「えっと、安倍川餅を売ってるお店と和菓子さんと……とろろのお店とお蕎麦屋さんと」
一つずつ折っていく奈央だが、中身が全て食べ物ばかり。八一は流石にツッコミを入れた。
「なぁ、お嬢さん。食べ物の歴史だけ……?」
「そ、そんなことないよ! 徳川慶喜屋敷あととかもあるもん!」
「いや、あそこは今は料亭だろう。うーん、京都の出身の今の私からするとそれが老舗になるのかど怪しいが……」
探るように屋敷後がある方向を見て、感嘆しだした。
「いや、当たりか。なるほど、住まいじゃなくてもいる様子からして本当に大切にされているんだな」
「……なにか悪いものを感じるの?」
「まあーな。とりあえず、この近場で奈央嬢さんが言ってた場所、和菓子屋さんとかに怪しい気配を感じるな。はい、これ」
数枚の札を渡され、奈央は受け取る。達筆に書かれた札をまじまじと見つめた。奈央は札から熱を感じ、ビクッと体を震わせた。神通力を使用しなくてもわかるほどに強い札だ。
札を指差し、八一は説明した。
「これ、人避けと隠れるための隠形の札。そして、浄化の札を数枚。一枚で邪気の悪い場所をぼっと一瞬で消せる。直文と啄木が拵えた札を本部から頂戴した。つまり、一箇所に付き一枚だけど……強い妖怪が現れたとき用の予備な」
面をした奈央の肩に手をおき、話す。
「というわけで、お嬢さんにはその屋敷と思い当たる和菓子屋さんを頼む。残りは多分遠くになる。私がやっとくから、お嬢さんは神通力効かせてその悪い箇所を探すように」
「手分けってことだね。わかった。やっておくよっ!」
頷く彼女の頭を優しく撫で、八一は境内から姿を消した。八一は高い場所に移動し、千里眼などを利用して場所を探している。本当ならば八一単独のほうが早いだろう。だが、至ってもいられない奈央の為に役目を与えてくれたのだ。
申し訳無さを覚えつつ、仮面をしながら奈央は徳川慶喜公屋敷跡──現在の料亭となっている場所へと向かう。
憑いている
かちっと自分の中でスイッチが切り替える音がした。喧騒はいつもよりも賑やかに聞こえてきた。体が軽くなり奈央が瞬きすると、幽霊や妖怪などが人混みの中を歩く姿を見る。
彼女は走り出す。神通力の神足通を用いて、彼女は走り出す。身隠しの面をしているからか、人は奈央が見えていない。
神足通の練習は八一としているが、使い慣れているわけではない。使うのに、アトラクションをする際の恐怖心の克服も必要。出来たときでも、パルクールの真似事だ。
人混みを早く避けていくものの、人が多いと避けられない。高く飛んで避けて、人気のない場所に着地する。最初の時は奈央は考えなしに使っていた。しかし、今は現代。昼や信号、電柱などの障害物が多く、容易には使えない。
神社から目的の場所までは近いのが幸いだ。奈央は目的の場所まで付く。
和風の門構えであり、葵の御紋の暖簾がある。
狸と陰陽師が会合をしていた料亭。身を隠すゆえに自動ドアは反応しない。触れられるものには効果はあるが、カメラなどセンサーのものには反応しない。
「ううっ……罪悪感がやばい……! 今度料理食べてきます……!!」
不法侵入している罪悪感に苛まれながら、奈央は庭園にこっそりと侵入する。
草をかき分け、橋の柵を超えて庭の中に入る。
近代の料亭として機能しているがゆえに、古めかしい部分は少ない。しかし、昔ながらの風情は僅かに残っている。庭園には歴史ある石灯籠が残っている。
奈央は目を瞬かせ、天眼通を効かせた目で周囲を見回す。
黒い靄のようなものが僅かに漂っている。嫌な気配しかせず、奈央は黒い靄の発生源を探していく。
浮橋や池の上でも庭を見れるように木造の橋がある。
庭園内を歩いていくうちに、ある建物が見えた。店内の中でも、和風の建物である。建てられたのは近代であり、座敷童子がいるとは思えない。
「確か、あそこ将棋の重要な試合の場所に使われてた話を聞いたことある。うん……あそこ、悪い気配を感じる……」
奈央は息を呑み、その建物に向けて足を一歩踏み出したとき。
力の強い波動を感じ、奈央は反射的に勢いよく飛ぶ。奈央の居た場所に勢いよく札があたる。札は光を放って消えた。
建物の屋根の上に着地をし、奈央はあまりの気持ち悪さに表情を歪める。
高く跳ぶときの着地の練習は何度かして出来ていた。攻撃を避ける練習まではしてない。避けられたのは運が良かった。
奈央の姿を見つめる女性がいる。普通の服の上に狩衣を羽織っており、奈央と同じように身隠しの面をしていた。間違いなく陰陽師である。
陰陽師は札を構え、奈央に敵意を向け問う。
「身隠しの面は我ら同業の者の証。貴女は何処のものなの!? 何のためにここに来ているの!」
「えっ……と」
唐突に陰陽師と遭遇し、奈央は戸惑った。陰陽師がいる理由がわからない。妖怪絡みの事件に遭遇したときの対応はマニュアルで渡されていた。
一つ、『桜花株式会社の退魔師助手』と名乗ること。
二つ、敵でないことを明確にしする。但し、相手の目的によっては敵でないと示しても、意味を成さない場合がある。
三つ、敵意を剥き出した場合は、各々が持つ対処法でその場から逃げるなど。
陰陽師は穏健派なのは間違いない。復権派はほぼ動いてないようなものだ。黙っていては事が進まない。マニュアル通りに進めようと、奈央は対応をする。
「っ私は、桜花株式会社の退魔師助手です。怪しげな邪気を感じここに調査しに来ました!」
偽の紹介に、陰陽師は不思議そうに話す。
「……? あまり聞き覚えがない組織ね。けど、ここは貴女のような子が来る場所じゃないわ。すぐに立ち去りなさい」
「っ……でも、これは仕事です! 去る訳には行きません!」
依乃を少しでも助けたい彼女は引き下がるわけに行かなかった。陰陽師は仕方なさそうに印を組む。
「ここを立ち去らないならば、無理矢理でも去ってもらうわよ」
戦う気のない彼女ははっとしてバッグから札を出す。隠形と達筆に書かれた札。投げ飛ばされる前に奈央は札を使用する。
「隠形、急急如律令!」
言葉とともに札が発光した。
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