10 ep 平成への帰還
二人と狐を抱え、剛速球で八一の指定した場所に飛ぶ。雨の中ではあるが人通りはある。幸い直文達の目的地に人はいない。奈央がこの時代にやってきた場所、
「依乃! 狐を!」
「はい!」
依乃は時駆け狐を地面に落として、直文は二人の少女を抱えて狐の腹を踏みつける。
「時は2011年。
直文は詳しい時間を述べて聞き、目的地の場所も述べる。狐は口を開けて甲高い声を上げた。
周囲の風景が映像のように早く進む。道を通る人々、振り続ける雨が人々が早く進んでいき、夕日が沈んでいく。テレビテープのように早送り映像がでてくる。周囲は速度をあげて進んでいき、光が周囲をおおって三人を飲み込む。直文と依乃は眩しさに目をつぶった。
目が不自由な人の為の信号の音。車のエンジン音が遠くに聞こえて、人の喧騒も遠くから聞こえてくる。居酒屋で酒を飲むサラリーマンだろう。
「──おかえり。なおくん、はなびちゃん」
声が聞こえて、二人は目を開けた。
近くには茂吉がいた。
「タイムスリップ。大成功! 無事に帰還できて良かったよ。……代わりに、時駆け狐は消えちゃったけどね」
直文と依乃は周囲を見る。周囲に人気は少なく、青白い狐の時駆け狐はいない。時駆け狐がいないのは、もう
空は暗く、時間帯は夜。二人がここにタイムスリップした時間も夜だ。
周囲は外の照明で
信号機や道路、ビルや近代的な建物。近くにあるのはかつて天守が存在していたとされる
直文は奈央を横抱きに抱え、茂吉に声をかけた。
「ともかく、茂吉。周囲に人気がないのはお前の術だな?」
「せーかい。防犯カメラと周囲の目は誤魔化してあるよ。田中ちゃんと彼女の荷物をこちらで一旦預かるよ。大丈夫。医者に見せてから、行方不明の理由を適当にでっち上げて工作しておくから」
直文は相方に「頼んだ」と眠っている奈央を渡す。彼女を受け取った後。にっこりと笑って何かを呟いたあと、奈央と共に姿を消した。
──補導される前に直文は依乃を連れて帰ることに。
二人は急いで私鉄の駅にむかい、目的の駅に向かう。列車は少し古さを感じさせるオールステンレス製の列車だ。五年後辺り、新たな車両の形が多く出る。それはまたいつかの話。
扉が閉まる前に二人は乗った。車内の人は多いが、何とか運良く席につけた依乃は直文に頭を下げた。
「直文さん。奈央ちゃんを連れ戻してくださり、本当にありがとうございました」
「こちらこそ。付き合ってくれてありがとう」
発車のアナウンスが響いたあとに扉が閉まる。列車が動き出した。ガタンゴトンと列車の進む音。依乃は外の風景を見ていると直文は謝罪を口にする。
「本当に申し訳ない。とんでもない初任務になってしまった」
タイムスリップをし奈央を連れ戻して、世話になった仲間の死を見届けて。彼女の初任務は過酷と言える。とんでもないのは間違いないだろう。だが、依乃はもっと気になることがある。別れ際の奈央を思い出して、顔を少し俯かせ悲しげに話した。
「──本当に、奈央ちゃんはあの時間を忘れるのですか?」
少女の問に直文は両手を強く
「忘れる。一度消された記憶は容易に戻せない。本部に掛け合って戻すことはできるだろうが……それは本当に特殊な事情がないと難しい」
特殊な事情な事情とは依乃のような事情を抱えたものだ。
他に例を上げるとすると、自身や周囲に霊力が強くなる影響を与える呪いを持つ人がいるとしよう。普通の人でも見えないはずのものが見えてしまえのだ。妖怪や悪霊にも狙われ襲われやすくなってしまう。また死者も多く出よう。しかも、その呪いは解呪が難しく封印する方法も取れないほど、際限なしに霊力が強くなっていくもの。ならば、保護しかないと判断を下した例があるのだ。
依乃自身が保護される理由は、後天的に得てしまった霊媒体質である。
元々霊感があったが名無し期間が長い故、強い霊力を得て霊媒体質を得てしまった。その体質は取り憑きたいものからして、魅力的な器である。直文のお守りや貰った
体質の封印は可能ではあるらしいが、依乃の霊媒体質は依代向き。即ち、降霊向きの器と言うことだ。封印されていても、目聡い妖怪や幽霊からは狙われやすいとのこと。封印よりも先に満たした方が狙われにくい。ネックレスを通して、少しずつ直文の力を満たしている。つまり、依乃の並の特殊な事情がないと難しいのだ。
直文はスマホをポケットから出してSNSのアプリを開く。
メッセージを送るようだ。何かを打ちおえて、彼は息をついてポケットにスマホをしまう。
「仲間のグループに帰還報告を送った。何かわかったら教えておくね」
「はい、わかりました。ありがとうございます。直文さん」
彼がいて良かったと彼女は外を見る。友達の無事に胸を撫で下ろすが、まだ問題は解決していない。依乃はまた記憶をなくしたあとの奈央とどう接すればいいのか悩み出す。窓ガラスは雨の後があるが、外は雨が降ってはない。まだこの時代の梅雨入は始まったばかりだ。
翌日奈央は目を開けた。
カーテンから陽光が入ってきている。真っ白な天井に少し柔らかい枕とベッド。点滴を入れられているらしく、彼女は自分の置かれている状況がわからなかった。
身を起こして、現状を見る。自身の服も見覚えのないパジャマを着ていた。ベッド脇には見覚えのある大きなバッグと制服と通学用バッグ。
静かな部屋と部屋の匂いから、自身が病院にいるのだと理解する。自分が入院しているのだとわかったが、何故いるのかと疑問を
思い出そうとするも、何もわからなかった。登校してから仮面の男と狐の鳴き声を聞いたあとの記憶はない。思い出そうとすると、胸が苦しくなり目からボロボロと涙が溢れ出てくる。
「……えっ……なん……で……?」
奈央は戸惑いを覚え、悲しみの理由を覚えてない。
あの日、狐の半妖と白狐と過ごした日々は消されている。胸の苦しみを苦しみを抱えたまま、彼女はボロボロと泣き出した。
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