🎆1―2章 彼女に幸 敵には凶

誰かへの思い

 ある部屋にて。彼は手紙の続きを書こうとしていた。だが、筆がいつも止まってしまい、続きを書けない状態が続いている。

 今、彼は複雑な心境だからだ。会えて、生きている姿を見られたのはよかった。だが、名前をとられて、生き生きとした姿を見られないのは彼にとって望ましくない。


「普通に生きていると思ったのに、何故あんな風になって」


 ポツリと呟いて、彼は拳を握る。彼女の幸せそうな姿を一目見るだけでよかった。影から彼女の人生を見守り続けて、彼女に降りかかる凶を退けていくつもりだった。

 なのに、何故、普通の人として生きさせてあげないのかと溜め息を吐く。彼はベッドに寝転んで、天井を見つめた。

 彼は個人的な気持ちは過去として置いていくつもり。少女の人生を好きなように生きさせるために。彼女が結ばれるべき人と幸せになってほしいために。

 少女の答え次第ではあるが、彼は大切に思う彼女が幸せであるならそれでよかった。


「……今の君の気持ちを大切にして」


 誰も聞かせないような小声で呟く。

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