ex 任務お疲れ様 第四回桜花反省会

「安吾がお久に表に出てきた祝と乾杯を込めて! 宅飲みだけどぉー? 任務お疲れ様! 第四回桜花反省か」


 ぐぅぅぅ……。

 茂吉の始まりの挨拶を遮るいびきが響き渡った。美味しそうな料理に、多めのコロッケがお皿に乗っている。よだれを垂らす腹の虫の代わりに、眠りの虫を鳴らしている誰か。

 直文、八一、茂吉、安吾はその寝息を立てている本人に顔を向けた。メガネを横において、テーブルに突っ伏して啄木はまぶたを閉じている。お猪口ちょこが一つが近くにあり、赤い顔でいびきをかいている。


「んん……」


 顔の向きを変えて、腕の中に顔を埋める啄木。八一は啄木の近くにあるお酒が入った。お猪口ちょこを手にするが。


「っ酒くさっ!? 離れれてもわかる酒の匂い……。これ、『神殺し』じゃん!

なんで、啄木がこれ飲んでるんだよ!? こいつ酔いやすいのになんで!?」


 すると、安吾が手をあげてニコニコと答える。


「あっ、僕でーす。ぼくぼくに、僕が悪戯を仕掛けてお酒の中身を神殺しにしましたー」

「「あんごーかぁーい!」」


 茂吉と八一は流れるように明るいツッコミを入れ、三人で楽しげに笑う。三人の笑い声が上がる中、啄木は悩ましげに声を上げていた。直文は三人が笑っている間に、ペットボトルの水と氷の入ったコップを用意する。

 楽しげに笑う三人に直文は呆れてみせた。


「お前達三人がそろうと本当に賑やかだよ……。というか、帰ってきてからの啄木に早々悪戯を仕掛けるなんて……三人共加減しろよ?」


 中身を入れ替えたのは茂吉、八一、安吾が仕掛けたことらしい。直文は啄木の近くにコップをおいて水を入れる。安吾はにこやかに笑った。


「あっはっはっ、すみません。けど、一旦ガス抜きさせないと駄目ですよー?

いくら三善さんの件について吹っ切れたとはいえ、まだ完全というわけではないのです。むしろこの先ですよ、こいつの場合は」


 三人は不思議そうにしていると、安吾は相方に向かってつむじを小突く。啄木は眉間にシワを寄せてうなる。


「啄木は三善さんが向けてくる気持ちを理解して現状維持の関係を望み、一線を引いた。三善さんは自分の気持ちと啄木の言ってる意味を理解して、かたわらにいる関係を望んでます。けど、啄木は一線引いてるのに、彼女からグイグイと来ている」


 つむじをぐりぐりとし、安吾は目を開けて苦笑した。


「馬鹿ですよ。啄木は。一線引くなら、冷たくすればいいのに。それができてないのは貴方の良さでもあるのですけどねー」


 面白そうにぐりぐりとしている安吾。やられていて、啄木は嫌そうにうなっている。直文は安吾の柔らかな表情を見つめて、口を開く。


「安吾。お前、気になる子、もしくは好きな子でもできたのか?」

「ん゛っ!?」

「ってぇっ!?」


 唐突な質問に安吾は虚を突かれたらしい。安吾は誤って啄木のつむじを勢いよく小突き、飛び起きさせた。直文の天然飛び道具なる質問には、流石の安吾もタジタジになるらしい。啄木は頭を抱えてうずくまり、安吾は顔を赤くして慌てる。


「な、何をおっしゃいますか!? 直文!

ぼ、僕が好きな子なんて……引きこもりの僕がそんなのないでしょう!」

「っ! この、番号! おいん頭に何したっさっ!」

「僕は安吾です! いや、今のに関しては本当にごめんなさい!」


 涙目で真っ赤な顔で怒る啄木に、安吾は定番のツッコミを入れて謝る。直文は不思議そうに見つめた。

 安吾から謝罪と小突いた経緯を聞きながら、啄木は近くにあるコップの水を飲んだ。飲み終えて、水を再び淹れて頭を押さえる。


「っ酔いが少し覚めた。飲んだのが少量でよかった。後で、安吾達は叱るとして……」


 水を飲み、直文に目を向ける。


「俺の話、してたっぽいけど……どんな話なんだ?」

「安吾がお前のこと心配だって話だ」


 話を聞き、啄木はため息をつく。


「彼女については俺の問題だし、ほぼ解決に向かうことはできるよ。……それを言うなら俺は安吾が心配だな」


 安吾を見つめると、他の三人も彼に目が向く。啄木は興味深そうに話話した。


「自称引きこもりだけど、実際出ようと思えば出れる。組織のために仕事をしているお前が、あの悪意の中から表に出ることなんてない。そんなお前がここ最近現世に出てるのがおかしいんだ。何か、あったのか? お前が気にすることがこの現世で」


 相方に言われ、安吾はしばらく黙っている。長く付き合いのある啄木に言われてしまえば、安吾も黙るしかない。人差し指を立て、唇に当てて安吾は微笑んだ。


「……それは、秘密とさせていただきます。僕にもプライバシーの保護が適用されますからね」


 表情から察し、啄木は微笑む。


「ふーん、いい出会いがあったんだな」

「ご想像にお任せしますよ」


 安吾に向かって「そうさせてもらうよ」と微笑み、啄木は水を飲んで四人を見て息をつく。


「ここに三代治みよじがいればなぁ。な、八一」

「ははっ、仕方ないだろう。今の三代治は組織より日常を優先してるし、私達の誰よりもリア充してる! ──けど」


 笑うのをやめ、八一は真剣な顔つきで腕を組む。


「全容がわかってない以上、『悪路王』の件をあいつの前では出さないよ。誰よりも『悪路王』を殺したがってるのは三代治あいつだ。火にガソリンを注ぎたくない。あいつにはしばらく大切な人との日々を楽しんでてもらうよ」


 息を吐いて八一は啄木に声をかける。


「それでいいだろう。啄木」

「有り難い。……真弓たちのためにも慎重に行きたい」


 啄木は感謝をし、八一は仕方なさそうに息をつく。彼らの中ではあっさりと正体がわかったが、まだ何かあると警戒をしていた。




 今回ばかりは、比較的に穏やかな反省会……ならぬ飲み会で終わると思っていたが、問題児三人が何も仕込んでないわけなかった。

 啄木と直文が三人に酔わせられ、ガタイのいいセーラー戦士や筋肉が美しいふたりは女戦士のコスプレをノセられたままにやってしまったのだ。決め台詞を決めた場面をバッチシと動画に取られ、後に二人の黒歴史となる。

 当然三人からデータを消すよう啄木と直文は動くが、既に大元は本部に送られていることを知らなかった──。





🎐 🎐 🎐


お読みいただき、ありがとうございます。

楽しかった。面白かった。応援したい。

と本作を少しでも気に入って頂けましたら、作品のフォローと星入力による評価をしていただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る