👍ex そして、彼らは取り逃がし「あのクソ上司」と怒り叫ぶ

 ある日の休日の昼。直文と依乃、八一と奈央はあるチェーン店のカフェで勉強をしている。休んでいた奈央の復習も兼ねており、依乃は予習をしている。

 直文と八一は勉強を教えていた。イケメン美男性がいるとやはり目立つ。目線の集中砲火に二人の少女は巻き込まれて緊張する。

 ご飯と飲み物が運ばれてくると、区切りをつけて休憩。二人は運ばれてくるご飯を食べていくが、依乃は友人の首にかかっているものを見た。同じ勾玉のネックレス。奈央から外す方法を尋ねられた機会もあるが、彼女自身も知らない。

 一息ついている今なら聞けると依乃は直文を呼ぶ。


「……直文さん」

「どうしたんだい。依乃」


 優しく聞いてくる直文だが、これが地獄の始まりだとは知らない。


「この勾玉を外す条件とはなんですか?」


 この質問に、本命童貞年齢四百数年久田直文転生人間童貞二十五年稲内八一硬直こうちょくした。いや二人共正しくは本命童貞である。

 ちなみに本命童貞とは。本気で好きな本命の相手に対し、どう振舞っていいかわからなくなる。態度や対応がまるで童貞のようにぎこちなくなってしまうこと。

 彼らは性経験は豊富ではあるが、本命にはどう対応すればいいのか手探り中。

 直文は依乃の接し方に対し、先輩や同僚などに相談をよくしている(相談して返ってくる答はだいたい『そのままの君でいて』)。

 八一はいじめたり甘やかしていたりして、手慣れているように見えて実は必死である(奈央のチョロさ故に、目移りされるのが嫌だからからかっている。外堀も埋めている。実は必死である)。


 後々、該当する野郎共が現れるがそれは追々。友人の質問に奈央も声を上げる。


「あっ、それ、私も気になる! 八一さんったら聞いても教えてくれないんだもん!」

「あははっ、だから、なおじょーさんが成人したら教えてやるって言ってるだろー?」


 八一はにこやかに笑うが、内心は滅茶苦茶動揺していた。直文も表情が出ずに無表情。しかし、ひたいにはびっしりと汗がにじみ出てきていた。

 あのクソ上司と怒りつつも、二人はこの場をどうかわそうか考えている。

 勾玉のネックレス。魂からリンクして力を与えたり、分け与えたりとかなり便利。しかし、デメリットは条件を満たさないと一生外れない。外れないというが、相性が悪いとネックレスは普通のネックレス、良ければ外れなくなる。つまり、相性が良ければ外れないのだ。なんだこれ。

 狐はこぶしを強く握る。


【……やっぱり、あのクソ上司……粒子分解するまで殺ればよかったか……!?】

【落ち着け。八一。やったことあるが、あの人。そこまでしても死ななかったぞ】

【あるのかよ。直文。けど、そこまでして死なないって……】

【あの人の役職上、簡単に殺すことはできないからな……】


 普通の人にはわからぬ方法で直文と八一は話す。話は物騒だが、上司に関して苦労している。いい上司ではあるがクソ上司である。直文はコーヒーを一口のみ、八一に話す。


【どうする、八一。流石に外す方法について話すのがまだ早い】

【外す方法があまりにもあれすぎるから、今は別の話題で誤魔化そうか】


 意見は一致した。話題をそらそうと、八一は話しかける。


「そういえば、奈央。夏祭りの踊りは参加するのか? 前みたいに踊るんだったら、私も付き合うけど」

「陸上部の大会と練習があるから無理なんだ。あっ、でも、お祭りには行くよ!」


 高校入学後、部活の練習が多くある。また多くの勉強をしなくて追いつかない学校である。部活の疲れもあり、奈央は悲鳴を上げながら勉強をしている。

 八一はそうかと微笑むが、依乃が困ったように二人に声をかける。


「あの、明らかに話題を話題をそらさないでください。これを外す方法……教えていただけると本当に嬉しいです。慣れればいいんですけど、着替えるときとか人の目に付きやすいというか……」


 確かに勾玉のアクセサリーをするのは目立つ。明らかな話題逸らしは効かないらしく、直文はほおを赤く染めながら困る。


「日常生活に支障をきたしてないなら、大丈夫だけど……外す条件は追々わかるっていうか……。君達はつけていたほうがいいのは本当」


 目を泳がせて真っ赤な顔で困る彼に、依乃はじっと見つめる。彼が言えないほどのものなのか。依乃が考えているうちに、ある可能性に行き着きほおを赤くする。


「もしかして……キス……をしないと外れない……とか……?」


 花火の少女が純でよかったが、直文は照れだす。


「えっ、ええっと……まあ……その……ね」


 困る彼を見て、八一は助け船を出す。


「──実はこれ。真実の愛を証明しないと外れないんだ」


 表面は飄々ひょうひょうとした笑みを取り繕いつつも、内心は激しく動揺している。何処ぞの童話かファンシーな映画アニメの設定に、二人の少女は拍子抜ける。

 直文は八一の助け舟に驚き、普通の人にはわからぬように話す。


【八一。お前それ………】

【嘘でもないし真実でもない。この場違いな場所で本当の条件を言ったらとんでもないし。その条件すらもとんでもないだろ!】


 間違いない正論に直文は複雑そうな顔をする。八一は厄介そうに頭をかき、ネックレスを見た。


「要は、強制相思相愛装置のようなものだ。私も直文も外すように頼んだけど、制作したあの人すらも外れない不良品だよ」

「……八一さん。何度も話を聞いても、二人の上司がとんでもない人だっていうのがわかるよ」


 奈央に依乃は何度も頷く。

 半妖の彼らには外そうとすると、バラエティのように電流が流れる仕様。愉快に聞こえて、ドチャクソとんでもない代物である。依乃はネックレスを見て、恥ずかしそうに肩をすくめる。


「けど、真実の愛の証明って……聞くと照れますね……」


 照れた依乃の言葉を聞いて、直文も口を押さえる。照れた彼女から聞く言葉の衝撃が大きかったらしい。

 告白、お付き合い、デート。プロポーズ、結婚。ハネムーン。etc.etc.

 諸々もろもろを想像し、熱を発するように顔を赤くする。首を横に振り、赤い顔のまま直文は気まずそうだ。赤い顔の直文に、八一はにまにまとしながら聞く。


「おや、なおくん。何を想像したのかなぁ?」

「……聞くなよ」


 照れている直文とニマニマしている八一の後ろを通る男性がいた。帽子とサングラスをしており、イケオジがするような紳士な姿をしている。また、手にはテイクアウトの飲み物。もりもりと多くのカスタムしたものをストローで吸う。

 その相手は足を止めて、八一と直文に声をかけた。


「真実の愛の証明、待ってるぞ。その時は必ず式場に呼んでくれ☆ 直文、八一♪」


 サムズアップされ、ヘリウムの軽さで言われる。だが、直文と八一にとってはなまりの如く重い。しかも、二人にとっては聞き覚えのある腹ただしい声だ。

 男性は何事もなかったかのように、ダッシュして店を出る。流れるように、二人は席を離れて男性の後を追った。外からは「この、クソ上司ぃぃぃぃ!」と重なるように二人の怒り声が響いて聞こえ、上司に対する罵詈雑言ばりぞうごんが飛んでいる。

 まさかの組織の上司さんの登場に、残った少女達はしばらく呆然としていた。


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