🎇ex 第一回 ドキっ♡と女子会恋バナトーク

 四月、ある日の祝日だ。

 花火、向日葵、紫陽花の少女たちは依乃の家で勉強をしている。依乃はノートにさらさらとシャープペンを進めている。が、奈央はしょんぼりとしながら、数学の問題集と向き合ってページを書き進めている。先輩の澄は奈央に勉強を教えていた。近くには依乃の母親が休憩の品としてお菓子と三つの飲み物をお盆に用意してある。

 奈央が数学の問題に一息つき、休憩に入ることとなった。

 お菓子と飲み物で談笑をしようとしたとき。


「何回もしてるけど、これって女子会って言ってもいいんだよね」


 照れながら依乃が話したのがいけなかった。


「第一回、ドキっ♡と女子会恋バナトーク。始まり始まりっ!」

「いぇーい☆」


 澄の声掛けのあとに、調子のいい奈央の声が上がる。恋バナと聞いて、元気が出てきたようだ。

 恋バナと聞いて、依乃は嫌な予感しかしない。いや、それも当然。恋バナとして、現在盛り上がる話題持ちなのは依乃しかいない。コップにある飲み物を両手に持って、花火の少女は顔を引きつらせる。


「ほ、本当に話すの!?」

「話す話す。だって、現在進行系で仲を深めてるの、はなびちゃんと久田さんぐらいしかいないじゃん。付き合ってないとはいえね!」


 向日葵少女はかっと擬音がつくほど表情を真剣にして食いかかる。ぐうの音も出ず、依乃は顔を真っ赤にする。両思いではあるが、直文の決心がつくまで依乃の心が整うまでは告白してない。澄も興味あるらしく、彼女に申し訳なさそうに話しかけた。


「ごめんね、依乃。私も興味あるんだ」

「せ、先輩まで……はぁ……」


 彼女は仕方ないと肩を落として、奈央と澄に顔を見た。


「何を聞きたいのかな……」

 

 奈央はパァと笑顔を輝かせて、質問をする。


「じゃあ、依乃ちゃんは久田さんをどう思っているのかー! 聞いていい?」


 明るく聞いてくる友達に、依乃は照れながら話し出す。


「す……素敵な人。優しくて、かっこいいの。……あと、ね。真剣に私と向き合って、守ろうとしてくれてて、私のことをちゃんと考えてくれるの。それだけの分を……私は返したくて……」


 昔とか関係なしに、直文は依乃の幸せを願って愛してくれている。端から見てわかるほどのガチ。他の女性よりもわかりやすく、依乃を贔屓しているのである。もじもじと恥ずかしがる花火の少女。彼女をみて奈央と澄も気恥ずかしくなり頬を赤く染めた。


「……告白してない両想いで愛し愛され……なかなか破壊力ありますな……先輩」

「……だね。奈央。けど、羨ましくもあるなぁ」


 羨ましい発言に二人の後輩は驚く。赤い頬のまま澄は頭をかいた。


「よくわからないんだけど、いつか私も依乃と似たように愛された気がしたんだ。それが、何なのかはわからない」

「えっ、それって……先輩に元カレが……!?」


 興味津々の奈央に澄は首を横に振る。


「いないよ。恋人も作ったことはない。モテたとしても……女の子の方が比率が多いし……何だろうね。不思議だ」


 彼女は窓の外を見て、何処か遠くを見つめる。失恋をしたわけでもない。彼女は恋をしているわけでもないのだ。依乃は先輩が一年までに茂吉を気にしていたことを思い出す。練習の時の視線と踊りを踊るときも、目線は茂吉にいっていた。


「そういえば、先輩は寺尾さんのこと。何故か気にしていたようですが……」

「えっ、そうだったの? 無意識だったからよくわからなかったよ。……けど、なんでなんだろうね」


 不思議そうに笑っていた。澄がわからないならば、わからないのである。奈央は「いいなぁ」と声を上げた。


「見た目がイケメンで背が高くて、性格は包容力があって、相手の気持ちを察することができて、家事能力がある彼氏欲しいー。うー、見た目だけ……ううん性格だけでもいいから彼氏欲しい」

「奈央ちゃん。それ、ハードルが高いのでは……?」

「これに当てはまる人、はなびちゃんとラブラブしてんじゃん」


 確かにそのとおりであり、依乃は黙る。

 直文は家事能力も高くて、頭が良くて、見た目も良しであり、財力も申し分ない。本当の彼の姿を知っている彼女ははっと気付く。直文はスーパーダーリンと呼ばれる存在なのではと。だが、ダーリンと言うほどの仲に進展していないと依乃は難しい顔をする。周囲にはちゃんとカップルとして映っていることには気付いてない。

 奈央の願望に、澄は呆れた。


「奈央って自分から告白しに行くタイプかと思えば、意外と受け身なんだよね」

「小学生の頃、自分から告白して玉砕してますので、告白してくる方が夢ありますよねっ!」


 キラキラとする彼女に二人は不安を抱く。ホストクラブで絶対に散財するタイプである。あとから後悔するだろうし、できるだけいい人が奈央に見つかることを二人は願う。


「でも、一年前のフードサングラスと人は良かったなぁ。かっこよさを感じさせる……!」


 体格は良かったが、顔が隠れておりイケメンかどうかは分からない。皆に見せた気配りだけで、奈央が素顔を気にせずにカッコいい判定するのは初めであった。想像するのが楽しくあるのだろう。依乃と澄はこれ以上は何も言わない。依乃は話題を変えようと、奈央に話しかける。


「けど、時々私はモテたいと思うことはあるよ。いや、モテるほど綺麗になりたい……って思うことが多いけど……」


 直文は綺麗であり、美しい人が立つべきなのだと花火の少女は考えている。発言をしたとき、二人のありえないものを見る目が依乃に刺さる。依乃は再従兄弟のように鈍くないので、その目を見て思わず声が出る。


「えっ……えっ? なんで、二人共そんな目で見るのかな……?」


 奈央は友人の方を掴み、真剣に話す。


「……依乃ちゃん。自分ではわかってないかもしれないけど、結構モテるよ?

私の陸上部の先輩から、はなびちゃんを紹介してほしいって言われたことあるんだよ? 流石に久田さんがいるから断ったけど」


 初耳に依乃はキョトンとする。澄も頷いて話す。


「部活の先輩後輩から依乃のことを聞かされたことあるよ。気になるのかと聞けば、可愛いから話してみたいって」


 先輩からも教えられて、依乃は呆然とする。

 今までは名がなくて、名無しの名が呼ばれるのが嫌でどんよりと暗くなっていた。そのせいでいじめられていたりしており、モテることなど考えてこなかった。彼女の名前が戻り、元来の明るい性格を取り戻しつつある。元々彼女は素材が良いため、おしゃれや笑えばモテるにモテるのだ。また周囲の気遣いをする姿から、優しさを感じさせるためモテている。高校に入って、やっと魅力が発揮されたと言えよう。

 依乃は戸惑いつつ、二人に話しかける。


「えっと……え、私……モテてますか?」


 聞かれて二人は頷き、顔を赤くして戸惑っていた。モテていることに意識はしてないが、見た目だけでなく良い性格でモテている。意識はしてないだろう。依乃は気を付けようと思うものの、どこを気を付ければいいのかわかってない。

 お菓子を食べ終えて女子会も中止となり、勉強に戻る。しかし、自身のモテ具合に気づかぬ友人に奈央は心配をしていた。会った際に、直文に一言入れようと考えた。



 その翌日の放課後。向日葵少女にあって聞いた情報により、直文はしばらく動揺をする。文田先生として活動している時に、ドジを見せるなど仕事に支障をきたしていたのであった。




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