2 勾玉のネックレス
茂吉から美味しい店を教えてもらい、四人は店に向かうことにした。直文からも茂吉は食通であるため、間違いないと太鼓判を押す。茂吉は単独行動に移り、その他の店の食べ歩きに移る。奈央からは茂吉の胃を心配するが、■■は大丈夫だと言っておく。彼女は彼の食べたカロリーが何処に行くのは見て知っているからだ。
四人が食べ終え店を出た時、奈央と澄は足を止める。
「はなびちゃん。ここで別行動しよう」
呼び止められて奈央の提案を聞く。直文と■■はきょとんとする。澄は苦笑しながら名無しの後輩に耳打ちをした。
「ようは、奈央は久田さんと君を二人っきりにしたいんだよ。多分、花火の日も気を利かすつもりだね」
「……はいっ!?」
赤い色リンゴの顔をして■■は驚く。澄は離れていき、奈央は悪戯っぽく笑う。
「んじゃ、ファイト!」
二人は背を向いて、人混みに紛れて消えていった。
半妖は人より身体能力に優れていると彼女は知っている。今の会話を聞かれたのだろうかと■■は一瞥した。きょとんとして直文は不思議そうに人込みを見つめている。彼女達の目的がわからないのだろうか。それとも、気付いてない振りをしているのだろうか。■■は直文の全てを知っているわけではない。
二人の気遣いに感謝して、直文に声をかけた。
「な……直文さん。一緒にお店の中を楽しみにいきませんか?」
「うん、いいよ」
彼は■■の手を添えて握る。手を繋がれるとは思わず彼女は目を白黒させた。何事もなかったかのように、直文は光の笑顔を浮かべる。
「はぐれると大変だからね。じゃあ、いこうか。はなびちゃん」
相方が見たら「そう言うところだぞ」と突っ込みが来ること間違いなし。彼女は再び顔を赤くして、黙って何度も首を縦にふった。
手を繋ぎながら歩く。
やはり直文は目立つ存在であり、周囲の視線が彼に向く。集まる視線の中、彼女にも目線が向けられる。興味と嫉妬、その視線に気付いてない直文に彼女は困惑していた。
彼女達は店内の店を見ていく。
商業施設には映画もあるが祭りが控えているため、見るのは機会があるときに。一階の土産物屋を見て、二階へと向かう。
有名なキャラクターの娯楽施設があった。直文はそのアニメのナレーションの真似をして■■を笑わせた。ゲームコーナーもあり、二人で遊べるゲームをしてプリクラも撮る。
楽しい時間を過ごす最中、彼女は気付いた。
これしていることがリア充なのではと。片隅で爆発しろーと頭の中で聞こえたが、それはそれと片付けて目の前の出来事を楽しむ。
気付くエスカレーターの近くで、手作りのアクセサリー屋が目についた。時々、あの場所で手芸屋やハンドメイドものの店が来ることがある。
直文は普通の男性にしては珍しく長髪だ。水に流れるような長く艶やかな髪を持っている。アクセサリーをつけなくても素材がよいため、そのままでもかっこいい。■■はお返しできるかもと思い、彼に声をかけた。
「直文さん。あそこのアクセサリーを見ませんか?」
「いいよ。いこう」
直文は了解してくれて、二人はアクセサリーの出店にいく。
店主は暑苦しくマスクと花粉症用の黒いメガネをしていた。冷房が効いているとは言え、大丈夫なのだろうかと■■は心配になる。
店主は帽子などをした半袖の中年ぐらいの男性であった。予想外な店主に二人は唖然としつつ、商品を見る。
キラキラとしたアクセサリーの数々。目が引くように輝くようなアクセサリーや髪飾りを売っているのだろう。無論、普通の物やミサンガに似た髪飾りもある。普通の男性や一般の女性か使っても問題ほどの全年齢向けのアクセサリー。パンク系や可愛い系など種類は幅広い。
「へぇ、ゴムじゃなくて髪専用の紐もあるんだ。しかも、どれもがハンドメイド。しっかりとしているし質もよさそうだ」
直文が感心して、店主は笑う。
「はっはっはっ、うちの家内と皆で頑張って作ったからねぇ。どれもが、おすすめさ」
マスクで声がこもっている。■■は心配そうに声をかけた。
「あの、夏なのにマスクしておりますけど大丈夫ですか?」
彼女の心配に店主は嬉しそうだ。
「ああ、ありがとう、お嬢さん。けど、マスクをしてないとキツいんだ。目も痒いし、くしゃみもする。やになっちゃうよ」
なかには一年中花粉症に苦しむ人もいると彼女は聞いたことがある。大変だなぁと思っていると、店主が二人を見て訪ねてきた。
「二人は、恋人かな?」
「こ」
声がハモり、互いを見た。■■は顔を赤くして視線をそらした。彼ははっとしたのちに照れ臭そうに口を押さえる。
目の前の青い春に店主は穏やかに笑った。
「いいなぁ。青くていいなぁ。おじさん眩しいなぁ」
言われた瞬間に、直文は苦笑いする。青いと言われるほどの見た目と実年齢ではないからだ。二人は気を取り直して、アクセサリーを見る。
■■は髪を結うゴムか紐を探す。幾つかの物が目にはいる。群青色と金色の混じったヘアゴムと青い
「おやおや、お嬢さん。お兄さんと同じものを手にしたね」
■■は驚いて、隣にいる直文をみる。目線がかちあい、少女は頬を赤く染めた。直文も困ったように笑って頬を赤くする。店主の言う通り、彼も同じように勾玉のネックレスと色違いのヘアゴムを手にしていたからだ。
二人を見て店主は微笑ましく笑い声をあげる。
「はっはっはっ! うん、いいねぇ。そんな仲のいい二人を見ておじさん。ただでそれをあげたくなっちゃった。ううん、いや、あげよう!」
「えっ、それは困ります! ちゃんとお金は払わないと……」
困惑する彼女は店主を見る。店主はメガネの奥で笑っていたような気がした。
「そもそも、ヘアゴムとそのネックレスに値札がついてないのを疑いなさい。商品に値札がないのは可笑しいだろ?」
彼女は気付いて商品を見る。店主の言う通り、全てのアクセサリーに値札がない。これでは正規の値段がわからない。店主は直文に注意をした。
「特に直文。すぐ私に気付かないとは浮かれすぎだ。これから来る出来事に備えて、気を引き締めなさい。まったく微笑ましくて恨めしいぞ。このこのー♪」
肩を拳で軽く小突かれる。
「っまさか、貴方はっ!」
店主がぱちんと音を鳴らした時に強い風が吹く。二人が身構えて目を瞑るほどのものだ。店内で強風が起きるとはあり得ない。窓や入り口の扉は開けられていなかった。
直文がすぐに目を開けた。
彼女も目を開けるが、目の前にアクセサリーの出店は綺麗さっぱりない。最初から店なんてないも言うような痕跡のなさ。強風だったはずが、周囲への被害は何もない。二人の手にしたヘアゴムと勾玉のネックレスだけが残る。直文は苛立ちながら、店があった場所を見つめていた。
「あの××上司……」
彼女にも聞こえるほどの悪態。だが、それよりも驚きなのは組織のトップと会った真実。向こうから接触してくるとは思わず、■■はしばらく呆然とするしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます