2 番外

『だょたぉ』

 僕の地元は海に近くて、山も近くにある町に住んでいました。さほど発展していないのですが、気前のいい人や暖かな人が多くて、僕が盆休みの頃は何度も帰省していました。僕にとって、それほど住みやすい場所だったのです。

 その地元にはある戒めの話があるのです。


『人をいじめると、だょたぉがお前を食いに来る。悪さをすると、だょたぉがお前を食いに来る。だょたぉにごめんなさいといえば、許されるかもしれない。だが、本当に反省してないとお前を食う。そして、だょたぉの一部となって苦しみ続けるのさ』


 この『だょたぉ』とはムカデのようにオオサンショウウオの足がいくつも生えて、蛇のようにとても長い体を持っている。全身には悪さをした人の目とくちびるがあって、悪さをしている人間を見つけて「だょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉ」と、鳴き声を上げて近づいてくるのです。

 小さい頃の僕はその『だょたぉ』が怖くて、悪いことをするのをやめようと思いました。

 ……実は僕は一度だけ小学三年生の頃にこの『だょたぉ』と遭遇したことあるのです。この遭遇がなければ、僕は『だょたぉ』を信じていなかったでしょう。

 僕が悪さをしたのではなく、学校のいじめっ子です。僕はいじめられっ子だったので、よく学校のいじめっ子達ににいじられていました。


 三人ほどいたのですが、性格も最悪なやつでした。

 名前は伏せますが、大柄のA、性格の最悪な背ながのB、チビのCとさせていただきます。

 僕が『だょたぉ』に遭遇したのは、放課後人気のない場所で虐められていたときでした。


「お前のランドセル。俺のボールなww」


 Aは僕のランドセル蹴って遊び、Bは僕を取り押さえて、Cは僕のランドセルからテストのプリントを出して点数をバカにし出します。


「あっはっはっww 五十八点でダッサ中ww 途半端かよww ほら、見ろよww B!」

「本当だww 俺の方がニ十点も上だww」


 草を生やして馬鹿にする奴らでした。

 やめてと懇願こんがんしても、僕を話さず砂をぶつけてくる奴らです。いつもなら近所のおじさんが通おり過ぎて助けてくれるのです。そのぐらい良い町の人なのですが、何故か助けてくれる様子がありません。

 僕は見捨てられたのかと思ったのです。だから、彼らに言いました。

 

「そう、いじめてると『だょたぉ』がくるぞ!」


 ですが、彼はキョトンとしてケラケラと笑うのです。


「そんなわけ無いだろww その変なやつはただの作り話だろ。つうか変な名前ww」


  あとの二人も同意して、笑い出しました。

 

 すると、周囲からペトペトと複数の張り付いたような足音が聞こえてきました。


「だょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉ」

 

 人ではない異様な声が聞こえてきて、僕達は驚きました。

 周囲はいつの間にか黒くて長い、蛇のようでムガテのようでオオサンショウウオのようなものがいたのです。

 その黒い肌からは多くの目が開き、口が開きました。

 

「だょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉだょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょたぉ」

 

 口からは様々な声色の大合唱。目もパチパチして、それぞれの目が三人を凝視ぎょうしします。

 いじめていた三人組を見ていたのです。Aは腰が抜けたのか、地面に尻餅しりもちをついて動けなくなったのです。Bは僕を突き飛ばして、Cの元に駆け寄ります。黒い『だょたぉ』の顔部分は人のような黒い口を開けていました。『だょたぉ』は悪い子を見つけて食べると言い伝えられています。

 怯える三人に僕は三人はやく謝るように言いました。


「謝って! 『だょたぉ』にちゃんと謝れば大丈夫だからっ……!」


 ちゃんと気持ちを込めて謝れば許してくれる。

 相手はいじめっ子だけど、その時は僕は命だけは助けてほしいと思ってました。

 三人は泣きながらも「ごめんなさい! ごめんなさい!」と謝りました。『だょたぉ』は消えました。しばらくして『だょたぉ』が現れなくなると、三人は足をガクブルと震えさせてこの場を逃げていきました。

 僕は近所のおじさんに見つかって、どうしたのかと問われました。いじめにあったこと、『だょたぉ』と遭遇してことを話します。

 すると、おじさんは哀れみの目でいじめっ子たちが去っていった方を見つめます。その表情は心底哀れんでいるようでした。


「可哀相に、『だょたぉ』に目をつけられたか」

「えっ……、かわいそうってなんでなんですか……?」


 恐る恐る聞くと、近所のおじさんは教えてくれました。


「『だょたぉ』が悪い子を見つけて許してくれる回数は一回限りだからさ。だから、また君をいじめた奴らが悪さをすると……『だょたぉ』があの三人を食べるんだよ。おじさんの親戚にも『だょたぉ』に食べられた人がいるだ」



 あの三人はしばらく僕にいじめることはありませんでした。

 平穏に過ごせましたが、またいじめるんじゃないかと思いながら僕は少し怯えながら過ごしました。


 しかし、僕が四年生に上がる前の終業式の日。

 そこに三人の姿はありません。


 冬休みの間、行方不明になっていたようなのです。その三人の親が警察に捜索願いを出したようなのですか、その三人の親の家族までも行方不明になっているようなのです。

 そこで思い出したのは、『だょたぉ』の話でした。あの三人が、何処かで悪さをしたのでしょう。


 そこで終わるなら良かったのですが、その三人の親の親類も行方不明になっていたのです。三人の親類に悪いやつがいたのでしょうか。


 実はそれ以降、僕の故郷で『だょたぉ』の話はきかないのです。

 きっと、あの三人の親類の悪い奴を辿って故郷を出たのでしょう。それ以外の悪い奴を見つけては食べて、見つけては食べているのかもれません。


 『だょたぉ』の許されるかもしれないと言うのは、個人がちゃんと反省しているかどうかのものでしょう。

 ですが、『だょたぉ』にとって、悪の定義とは何なのかはわかりません。『だょたぉ』にとって何が悪いことなのか。なにがよくないのか、僕にはわからないのです。


 運良く僕と僕の家族は『だょたぉ』に目をつけられてません。『だょたぉ』にとって、僕達は悪いことをしてないのでしょう。



 えっ、なんで、こんな話をするのか?



 だって、僕達人間は無自覚に悪をなすことがあるじゃないですか。

 皆さんも気をつけてください。

『だょたぉ』が許してくれるのは一回限り。どんな形で『だょたぉ』に目をつけられるのか、わかんないのですから。




『だょたぉ』

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