ex 任務お疲れ様 第二回桜花反省会
「任務お疲れ様! 第二回桜花反省会! いぇ~い☆」
ある居酒屋のカウンター席にて。直文、啄木、八一、茂吉と揃っている。八一はバイクで居酒屋に来ているため、今日はお酒は飲まないようだ。
「直文。こいつといつもこんなことしてるの?」
「いつもじゃないよ。八一。大きな任務が終わったときだけ」
ジョッキを片手に苦笑している。直文の格好は眼鏡とスーツ姿であり、仕事帰りに誘われたのだろう。誤魔化の術は解いてあり、学校の生徒にバレることはない。初めて呼ばれた啄木はつまみの枝豆を食べながら、茂吉に突っ込む。
「いや、これ、ただの飲み会だろ……茂吉」
「そうだけど、こういう仲間との交流も大事だろ? たくぼっくん」
狸の彼に八一は同意する。
「もっきーの言うとおりだぞ。私達は常にストレスフルの職場にいる。なら、こうしてのんで! くうねるあそぶ。大切だよなっ、もっきー♪」
「ひゅう! さっすがーやっちー☆ わかってるぅー☆」
両手の指をぱちんと鳴らして、二人はハイタッチをし合う。狐と狸の化かし合いと言うが、八一と茂吉は仲がいい。また二人が揃うと厄介であったりする。ついに揃ってしまったと直文と啄木はげんなりした。
茂吉は啄木に、八一は直文の肩を組み始める。狸は啄木の
「ねぇーねぇー、たくぼっくーん。君の目的の子との進捗聞かせてよー。見つかったんだろー?」
「さあな、つうか答えても教えるつもり無いからな」
「へぇーじゃあ、前の飲み会で酔ってウマウマを踊った動画。上司に見せて良い?」
「ぶっ!?」
と、スマホからビデオを起動させてそれを見せる。啄木は飲んでいたビールを勢いよく吹き出して、咳き込み始める。長身の男性が赤い顔をして愉快に踊りだすのはきつい。弱味を
「このっ! 茂吉。何勝手に撮ってやがるっ! しかも、酔ったときの俺は動画や写真におさめんなっていってんだろぉ!」
「えー、あの時たくぼっくん。すっごく酒飲んでたのがわるいじゃーん」
軽々と避けていく茂吉に、羞恥心を抱きながら啄木は取ろうとする。苛立ちを見せている啄木を見ながら直文は呆れている。
「ちょっとおにーさん。僕の相手をしてくださいよー」
声色を山野の時のもの。彼が顔を向けると
「あっはっはっ、まぁまぁ、そんな嫌そうな顔をするなって。彼女との馴れ初め聞かせてほしいなぁ~♪」
からかうき満々である。仲は良いが、八一と茂吉は意地が悪いのが厄介だ。
前の反省会の時。彼からこっそりと酒を飲めませられて、重い思いを露呈させてしまった。前の黒歴史案件を含、煽られている意趣返しに今の八一の
「お前が生まれ変わったあと、大好きな人のために二十五年間童貞守り続けているらしいな。ある意味すごいよ」
八一は
生まれ変わって二十五年間人として生きて来た間、童貞を守り続けてきている。こんな面白そうな話題を茂吉は逃すはずもなく、八一に食いついた。
「ちょっと、ちょっと、やっちー! それほんとー!?」
キラキラと目を輝かせる狸。狐はぶちまけた
「……っ!! 直文! 知ってるなら言うなっ。つうーか、なんで知っているんだよ!? どこで知った!?」
「たかむらさんがポロッとこぼした」
「あんのぉクソ上司ぃっ!」
流れるように情報の出処を知り、八一はカウンターを強く叩く。八一すらもクソ扱いするほどの難がある人物のようだ。直文はしてやったりと笑ったあと、感慨深そうに話す。
「だが、八一がそんなことをするほど、田中ちゃんに入れ込むとは予想外だよ」
「……そうか? それに、恋はどんなタイミングでするのかわからないもんだぞ」
「それはそうだけど、本当に恋だけなのか? 俺にとって恋はきっかけに過ぎないと思うけど」
彼からの指摘で八一は黙って頭を掻く。恋をしただけで、彼女に入れ込むまではしないはずだ。恋は盲目という言葉がある。夢中になりすぎると、理性や常識を失い客観視できなくなるという。八一自身恋をしたがもう恋心だけではない、別の気持ちを抱いている。家族同然の仲間に誤魔化しは出来ず、素直に話す。
「……私は奈央の心に癒えにくい傷を負わせてしまった。できるだけ与えるのは悲しみじゃなくて、癒やしとか楽しさ。そんな優しいものを与えたいんだ」
江戸時代に八一が死んだのは、奈央のトラウマになりつつある。制止を振り切って逝った。彼女を帰すためとは言え、平和しか知らぬ奈央には心に傷を負わせてしまった。外傷は治せても、心傷は治りにくい。組織の半妖である彼らはよく身に染みている。
八一の優しい表情を見て、直文が口を開いた。
「俺は、彼女……依乃の我慢強さと笑顔と優しさに惹かれて好きになったんだ。八一は田中ちゃんの何処が本当に好きになったんだ?」
「っ……お前、そういう所だぞ」
とんでもない質問をされて、八一は顔を赤くして罰悪そうな顔をする。平然と言う直文はキョトンとしていた。相手が彼女の思いを吐露したというのに、吐かないとは道理に合わない。
茂吉と啄木は興味津々に見てきており、八一は酒が飲めないことを恨んだ。酒の勢いならば何を言っても恥ずかしく感じないからだ。直文と麹葉に話したことは嘘ではないだろうが、本当に好きになった理由があるらしい。
八一はため息を吐いて、話し出す。
「帰れるかもわからない中、明るく
カウンターの上で腕の中で顔を埋めて照れた。今世童貞の
啄木はビールを飲み直す。飲もうとした瞬間に手を止めて茂吉に声をかける。
「……そういえば、茂吉。お前は知っているとは思うが、
「わかっているよ。啄木」
ふざけた声色ではない。陽気さも含まれていない。感情も感じ取れないほどの無機質な声。彼らは横顔を見るが、茂吉は真顔で真正面を見つめている。ビールジョッキを手に茂吉は明るい笑顔を浮かべた。
「わかっているから、この話題はやめてほしいな。俺、壊れちゃうよ~」
わざとらしい明るさに、三人はこれ以上何も言わない。事情を知っているからこそ、これ以上は何も言わないのだ。仲間とはいえ個人でもあり、その重さは個々でしかわからない。
三人は黙っているが、茂吉が「あっ」と声を上げて八一を見る。
「そういえば、八一。お前、その
「ん? ああ、復帰祝いに二つほど。効果は聞いているよ。外し方もな。奈央がはずれないって訴えてきたけど、外れないのは私達が相性がいい証だろう?
彼女は恥ずかしがってたけどな。ふふっ……外し方は愛し合うことなんだろ?」
狐のように笑う八一に、茂吉は天を仰いで目を押さえた。啄木は哀れみの目で彼を見る。直文は気まずい顔をしていた。三人の反応に気づいて、八一は目を点にする。
「……えっ。なんでそんな不味そうな反応をするの? 啄木。知ってるか?」
「……知っては……まあ……知っているけど……そっか……八一。お前、あの件の
啄木の言葉に八一は疑問そうだ。
直文は仕方なく狐の彼に耳打ちをして、そのネックレスの外し方の詳細を教えた。同じようにつけている仲間から話した方が、信憑性は増す。
八一は聞いている内にキョトンとした顔から、段々と真顔になっていく。聞き終えたあとの顔に表情はなく、ただ店内にはピリピリとした
発生源は八一である。彼はバッグから財布を出して五千円札を一枚カウンターに叩きつけた。
「これ、私の分。お釣りはいらないから」
財布をしまい、バッグのチャックを閉める。店の戸を開けて外に出ようとする彼に茂吉が恐る恐る
「……やっちー……どこ行くの?」
八一は首を横に向ける。怖いほどの笑顔だ。ぼきぼきと片手の指を鳴らしながら一瞬だけ、髪と瞳の色を変えた。
「上司を殺ってくる」
ぴしゃんと戸が強く閉じられた。
その一言で居酒屋の客の一部が何かを
その場に残った三人は顔を見合わせて、八一に同情していた。
🦊 🦊 🦊
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