5 いじめっ子を懲らしめるお呪い
そろそろ昼になる。四人はこっそりと学校を出た。二人は途中で変化を解き、美味しい喫茶店に連れて行ってくれた。
店前にある庭は良い雰囲気を放つ。奈央と澄がよく知る有名な喫茶店だ。中はレトロな雰囲気があり、洋風のテーブル席と和風の座席もある。アンティークが店内の良さを引き立て、ガラスのショーケスにはワンホールのケーキが飾られていた。
手作り菓子と食事もできる場所であり、いつも混んでいる場所。奈央にとって格式高い場所である。空いた席に案内されて、四人は椅子に座った。
メニューとガラスのショーケースにあるケーキを見て、奈央は嬉しそうに周囲の見回す。
四人はメニューにあるものを頼み、茂吉は全部をオーダーした。店員は驚いたが、茂吉は「燃費悪いんです」と話していた。メニューを頼み終えると、茂吉は三人に声をかける。
「ごめん、食べ終えたらコンビニ行ってもいいかな? またそこで買い込むから」
「た、食べますね……」
呆然とする奈央に、茂吉は苦笑する。
「何度言うけど、俺の血というよりかは俺自身燃費が悪いんだよ。……さて、田中ちゃん。なにかわかったことはあるかな?」
奈央は聞かれて、バッグからメモを出す。
メモに書かれていることを見て、向日葵少女は話し出した。
「……まず、視てわかったことなのですが、私達の調べた校舎はやはり多くの悪いものがいます。
妖怪、幽霊、生成しかけた悪霊など……。学校の周囲もですが、あそこの学校全体は溜まりやすい場所になると……私に憑いてる麹葉さんが教えてくれました」
「……前から話を聞いていたけど流石だね。麹葉さん。神使の中でも優秀だったんじゃないかな」
澄の褒め言葉に奈央は自慢げに嬉しそうに微笑む。友人が褒められたのは嬉しいからだ。八一は用意されたウェットティッシュで手を拭く。
「あと、私から。生徒から話を聞くに、ここの学校で何度も幽霊が出る話があった。
それと、校舎の使われていなそうな教室で妙な
二人の話を聞いて、茂吉と澄は顔を見合わせる。
使われていなそうな教室。簡易的な降霊術。あそこの学校は幽霊が出やすく、悪い気が溜まりやすい。先程遭遇した三藤と柄悪い三人組のやり取りを見て、彼と彼女は察した。特に茂吉は前回の事件で悪路王の手口に乗せられた覚えがあり、やり口から彼の気配を感じる。
「そうだ!」
奈央が声を上げて、三人をびっくりする。
向日葵少女は自前のスマホをバックから出して、画面を操作する。検索項目に文字を打ち込んで、検索結果を三人に見せた。
「私のお母さんホラー好きだから一緒にネットにある怖い話を見てるのだけど……一つだけ凄く気になるサイトがあって。あっ、これ。このサイト。『おのたぬき』の時にはお世話になったサイトなんです」
画面をタッチして、彼女はそのサイトを見せた。怪談図書館。シンプルであり、カウンターを見ると訪問者もかなりいるサイトだ。
サイトの最初には、すべての怪談の掲載は許可を得て掲載していると言う説明が入っている。真がどうかはわからない。八一も自身のスマホを取り出し、検索してサイトを見て眉間にシワを寄せた。
「……管理がしっかりした普通のサイトだ。ざっと見たけど、
「このサイト。ホラーが好きな学生に人気で、私の学校やあそこの学校の人も、サイトを見てた人もいたんだ」
奈央の話をして、澄は話の最新の更新履歴を見る。
『三年二組の井口くん』
ある題名を見て、後輩に声をかけた。
「奈央。ごめん、スマホ。借りていい? この怪談をすぐに見たいんだ」
「どうぞ」
奈央のスマホを借りて、澄と茂吉は怪談の内容を見た。
いじめで自殺した井口くん。井口くんと呼ばれる幽霊が、虐めた相手を原型なくなるまで殴って最後に絞殺。先生をオオカミ少年の最後のような追い詰め方をして死に追いやる。恩師や友人の願いで止まったが、井口くんに力を借りようとする儀式が流行っている。
簡潔的な内容を見て、二人はいい顔をしなかった。スマホを出し、茂吉は打ち出してメールで送信。一瞬だけ画面の内容が見えて澄は聞く。
「茂吉くん。サイトの管理者名にURL。メールアドレス。本部に送ったの?」
「うん、仲間に調べてもらおうかなって。ちょっと気になるからね」
彼はスマホをしまい、八一と奈央に顔を向ける。
「八一、田中ちゃん。君達には学校の周辺を調べてもらいたい。身隠しの仮面をつけてね」
茂吉の頼みに、八一は片眉をあげて彼に聞く。
「それ、周囲に怪しい人を見かけたら追跡ってことか? 茂吉」
「いいや、追跡はしなくていい。むしろ、居たかどうかの確認で充分だ」
「……なるほどね。わかった」
八一は納得して頷き、それ以上は聞かない。茂吉の中で引っかかる部分があるようで、確認を二人に任せたいのだ。
悪路王の一件は全て聞いており、澄は考えを理解して茂吉に声をかける。
「じゃあ、私は保護に回ればいいのかな? 茂吉くん」
茂吉に向けて言うと、言われた本人はツッコミを入れた。
「……俺が言う前に言わないでよ。とーる」
「なんとなくわかっただけだよ。私が引き受けてもいいかな。駄目かい?」
長く長く付き合った結果の頼みに、彼は頬を赤く染めて息をつく。
「……仕方ないな。わかったよ……」
澄に弱い様子に狐はニヤニヤと笑う。
「惚れた弱みだなぁ? 狸くん♪」
「他の男に目移りしないよう必死なお狐様に言われたくないなぁー☆」
にこやかに返し、互いに「あははっ」と笑い合う。雰囲気が若干ギスギスしているのは気の所為ではないだろう。良くない雰囲気を感じ、澄と奈央が止める。
「茂吉くん。店内だよ、やめなよ」
「八一さん。いい雰囲気のお店なんですから喧嘩はやめてください」
注意をされて二人は目を丸くしたあと、顔を見合わせて苦笑した。お互いに、女に惚れ込んているのだなと。昼食が運ばれ、三人は食事を摂る。食べ終えたあとは再び二手に別れた。
日が暮れていく。八一と奈央には外回りを頼み、茂吉と澄は変化と変装をする前に近くの駐車場から高校を見ていた。
まだ校舎には所々明かりがついており、運動場では専用の照明がつけられている。二人は集合場所に向かう前に校内の様子を見ている。
普通の人からすると、校内にカラスと鳥が飛んでいるように見える。しかし、普通の人でない彼らからすると文字を描かれた紙が校内を飛んでいるように見え、澄は
「……見られているのはわかっていたけど……いつから仕掛けられたんだ?」
「断定はできないけど、恐らく花沢くんがやった後からだろうね。……疑問なのは何故彼に監視の式神をつけているのかだ。普通の子につけるなんてそうそうない」
「茂吉くん。あれ音声も拾える?」
「まさか、確認してみたけどあれは視認型。聴覚を持ち合わせてない。……ただ見ているだけと考えられる。
言霊を使用し、強い風が吹く。空に飛んでいる鳥とカラスの胴体が傷付き、鳥の姿から鳥型の紙に戻っていく。見ている映像が途切れたと分かり、相手側も動くだろう。茂吉は女性に化けて、澄は変装をする。髪型を変え眼鏡をして、彼女は問う。
「……茂吉くん。どうするの?」
「まず、花沢くん探し。合流される前に見つけておきたい。彼から話を聞かないと明瞭にならない部分が多いからね」
二人は学校へと向かっていった。
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