4 三人と三藤

 八一達は別の校舎で聞き込みをしているだろう。

 三藤には案内してもらいながら、茂吉ととオルは通りすがる人物に聞き込みをする。案内してくれている三藤を不快させぬように、二人はつちかった話術をたくみに利用して話を聞く。

 また廊下を歩きながら三藤から学校の話を聞く。


「元々学校だから、出やすいといえば出やすい。けど、ここの学校の図書室のホラージャンルがある箇所は良くない雰囲気があるかな……あと、図書室自体よくないんだけど……神社から譲り受けた鬼の仮面が皆を守っているように感じるんだよね」

「へぇ、そうなんだ」


 澄は答え、茂吉に目を向ける。図書館は調べるべきかと。茂吉は首を横に振る。よどんでいたとしても調べる必要はないと。

 元々学校自体は良くない気が貯まる場所ではあるが、土地自体が、元々水の溜まりやすい場所である。ここの立つ高校は様々なものがよどみ、寄り付きやすく溜まりやすい。強力な霊媒体質を持つ依乃が来なくて正解だと二人は考えた。

 茂吉は三藤に声をかける。


「ねぇ、他にはなんか怖い話か面白い話ない?」

「えっ? だったら、ここじゃなくて別の校舎とプールのある方面は出るって話はよく聞くけど」


 三藤が話した場所では、八一と奈央が聞き込みしている。

 聞いて茂吉と澄は苦笑をした。奈央は八一によるスパルタ神通力教室が密かに行われているだろう。無論、奈央は顔を真っ青にしてビクビクしながら、八一のスパルタ神通力教室を受けている。狐は間違いなく意地悪く微笑んでいるが、終えたあとは甘やかす予定だろう。


 茂吉は笑いながら首を横に振り、核心を突く。


「ううん、例えば──学校でおまじないが流行っているとかさ?」

「……っ!」


 三藤は目を丸くする。なにかしたのだと察した。

 茂吉が口を開こうとした瞬間、三藤の背後に声がかかる。


「おーい、花沢くぅーん。女の子連れで、何をやっているのかなぁ?」


 呼ばれた三藤は大きく震えて、怯えた顔で振り返る。

 二人が顔を見ると、三人の男子学生がいた。一人は学校指定のワイシャツの下にTシャツを着ている。もう一人は柄のついた携帯を手にしており、最後の一人は前髪を上げている。

 校則を守っていようが守っていなかろうが、三人の雰囲気は良くない。三藤は彼らから一歩も足を動かすことができないようだ。彼の怯えた顔を見て、茂吉は昔の澄と重なったらしい、彼らの間に入る。

 にっこりと笑って自己紹介をした。


「どうも、こんにちは! 私は常田重美って言うの。花沢くんにお願いして、実は学校の怖い話を集めてるんだ。三人のお名前聞いてもいいかな?」


 可愛くもスタイルもよしな女の子から興味津々に聞かれて、男子学生の三人は調子に乗って聞く。


「俺は、柚木ゆずき! 2年3組だ!」


 一人はTシャツを着た男子学生は自身を指さして紹介をし、ガラケーを手にした男子学生は興奮しながら自己紹介をする。


「俺は裕貴ゆうき。2年4組でぇす!」

「俺は戒斗かいと! 2年1組のよろしく!」


 前髪を上げた男子学生は自己紹介をし、化けた茂吉は可愛らしい微笑みを作ってみせた。


「皆、そんな名前なんだね。うん、よろしくね!」


 にこやかに笑いながらも微笑む茂吉の心情を澄はわかっている。裏では『名前負けしてる(笑)』やら『調子に乗ったガキをどう蹴落とそう』など、暗黒微笑を湛えている。そんな彼に呆れながらも、澄も自己紹介をする。


「私は徳嶋とおる。よろしくね」

「お、おぅ! よろしく……!」

 

 柚木と呼ばれた男子学生は照れる。茂吉は澄の腕を掴んで、明るくに話す。


「実は私達ホラーが好きなんだ。花沢くんには学校にある怖い話がある場所の案内を頼んでいてね。貴方あなたたちもなにか知ってる?」

「っちょっとまって……!」


 聞かれて柚木は顔を赤くし、三人とこそこそ話をする。半妖からすると、こそこそ話など目の前で話してもいる同然。二人は聞き耳を立てた。


「なぁ、ふたりとも可愛くね? はなざわくぅんに勿体ないだろ。つーか、花沢の分際で女の子に囲まれているんだよ」


 と裕貴は不快そうに話し、柚木は楽しげに語る。


「なぁに言ってんだよ。逆に面白がるチャンスじゃんか。ほら、夜遅くに校舎に残って、肝試しなってどうよ。それで、俺達が女の子を連れ去ってる間、あいつを暗い学校の中一人にする。どうだ、戒斗」

「おっ、いいな。ソレ、ついでにあの二人の女子で遊ぼうぜ? 常田もいいけど、徳嶋って女も中々いいスタイルをしてるし……脅せばいい身体見せてくれるか──」


 聞いた瞬間に茂吉は笑みを深くし、三人は体をビクッとする震わせて周囲を見た。


「っ……! ……!?」


 奇妙な何かが一瞬だけ三人に襲った。三人の男子学生は顔色を悪くして、体を震わせながら周囲を見回す。今の殺気は茂吉から放たれた。三人に向けて放たれたゆえに、三藤は何が起きたのかわからない。

 重美に化けた茂吉が不思議そうに尋ねる。


「ねぇ、どうしたの? なんか、怖いものでもあった?」

「っ……! い、いや! なんでも……!」


 柚木は慌てて答え、二人に誘う。


「あのさ、二人共。俺達さ、実は真夜中の肝試しをする予定なんだ。行かない?」

「えっ、いいの!? やったー!」


 喜ぶ茂吉に、澄に顔を向ける。


「やったね! とーる。夜に怖い物探索だよ!」


 明るく振る舞うが、言い変えると夜に本格調査をするといっている。澄も彼の言っている事を理解して頷いて、嬉しそう笑う。


「うん! 楽しみ!」


 表向きの返事をして、裏では彼女はわかったと返した。詳細を知らない四人の男子からすると、仲の良い女子のやり取りにしか見えない。

 男子学生の裕貴は、三藤に声をかける。


「おい、お前も来るよな?」

「ひっ……そ、それは……」


 怯えている彼に裕貴は不機嫌に声を荒らげた。


「来るよなぁ!?」

「いっ! っ、きます! 来ます! 絶対にきますっ!!」

 

 怖がりながらも返事をする。その様子に男子学生の三人は満足をして、茂吉と澄に声をかける。


「じゃあ、9時の反対校舎の一階の廊下に集合。また夜に会おうな!」


 戒斗が声をかけ、三人は去っていく。去っていく彼らの背を見て、にこにこと笑いながら茂吉は小さく舌打ちをした。見ていて気持ちがいいものではない。澄も不快感を感じざる得なかった。先程のやり取りからして、花沢三藤は虐められている可能性がある。三藤に振り返り、茂吉は心配そうに聞く。


「……ねぇ、大丈夫? さっきの子達と貴方あなたに何の関係が」


 聞かれた三藤は表情の色を恐怖に染めて、何度も首を横に振る。


「……なっ、なんでもない!! なんでもないからっ!!」

 

 背を向けて勢いよく廊下を駆け出していく。離れていく三藤を見て、茂吉は頭を掻いた。


「あれは、確実にやったな」


 素の男の声で話し、澄は腕を組んで考える。


「けど、なんの呪いをやったんだろう。ネットに載っているのはだいぶ幅広いし、効き目があるとは限らない」

「八一と田中ちゃんのいる校舎の方が酷いって話だ。まず、合流しようか。澄」


 意見に澄の反対はなく、二人は背を向けて二人がいる校舎に向かう。




 二人と合流した。案の定、奈央は怖いのを見たらしく怯えていた。学校に出るまでの間、八一の背中にすがりついており、離れる気はなかった。





 三藤は二人の美少女と別れた後、柚木、裕貴、戒斗。この三人に見つからない場所で、彼はバッグを抱きしめながら隠れながら過ごしていた。

 バッグの中にはものはなく、教科書やノートなどは家に置いてきた。何回か、教科書とノートをボロボロにされているからだ。財布も奪われたかられる為、所持金は少ない。彼の所属して入る部活は、夏休み中の部活動はない。生徒の間ではサボり部とよく言われている。三藤が学校に来たのは、あの三人に呼ばれたからだ。

 早く来ないと、お前が学校をサボっていることを話すぞと。

 親に内緒で登校しているふりをして学校に行かない日々が続いている。学校あんな場所に行きたくないと口出して、親を困らせたくなかった。

 バッグを強く抱え、三藤は震える。


「……たすけて…………たすけて……! 井口くん……! 早くあいつらを……あいつらをころして……!」


 三藤は普通に学校生活を送りたかった。しかし、ガラの悪い三人に絡まれた。最初は弄られるだけだった。次第にパシられ、殴られ、お金を取られては、勉強の道具も取られて悪化の意図を辿っていく。

 カメラで虐められている写真を取られ、SNSで挙げられそうにもなった。お金を上げて止めたが、味をしめた三人は写真を脅しに彼から色んなものを絞り取ろうとしている。

 三人に虐めている自覚はないだろう。ただ遊んでいただけ、構っていただけと先生にいう。その先生もその三人の生徒の目にかけており、いじめを見てみぬふりをしている。

 何度も訴えても、止めてはくれない。


「夜なんて来るな……! 夜なんて来るな……!」


 小刻みに震えながら、蹲っていた。


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