3 現地調査

 朝ご飯を食べ終えて、片付けた後。任務は澄と茂吉。奈央と八一の組み合わせで任務を受ける。任務の参加表明を送られた紙に其々名前を記す。その紙を鳥の式神に変えて空へと飛ばした。

 依乃と直文は、参加はしなかった。業務用スーパーに行き、買い物をするとのこと。また啄木は桜花の医院の医師の仕事に回っている。


 行く前に準備をしてから、目的の高校へ向かう。

 転移の術を使うのではなく交通機関の利用する。陰陽師や悪路王が動いている以上、変に勘付かれると厄介である。特に、悪路王の動きは油断できない。


 私鉄の電車に乗り、桜橋さくらばし駅と呼ばれる駅に降りた。

 高校が二つほどあるが、目的は別の高校だ。記念塔通りと呼ばれる信号のある道路の近くにある高校。その高校の門前に彼らは立つ。校舎の中からは学生の声が聞こえ、部活動しているのがわかる。

 澄は空いている門前、空を飛んでいる鳥達とカラスを見て険しい表情をした。

 

「……学校ってさ、基本的に幽霊が出やすい場所だからしかたないけど……ここはやばいな」

「えっ、先輩。今、見るとやばいですかっ……!?」


 奈央はガタガタと震える彼女に、澄は首を横に振る。


「いや、今は大丈夫。夕暮れと夜はもっとやばいよ」


 ほっとする後輩に、澄は後輩のきている服を見て苦笑する。


「けど、互いに違う高校の制服姿を見ると、違和感あるね……」


 二人は髪型を変えて、眼鏡をかけている。奈央は三編みをやめて一つ縛りにし、澄は前髪のかき分け方を変えた。通学バックも手にして違和感のない。

 一方でリアル成人男性と見た目が成人男性を、奈央は見る。

 彼女たちの目線を受け、一人の美少女は涙目を浮かべる。


「ふぇ……なおちん。そんなゴミを見るような目で見ないでっ! ……八千代やちよ。悲しい!」


 見事な可愛らしい女の子の声だ。同じ制服を着て、髪をポニーテールに縛った美少女。狐のような可愛らしさと美しさがある。もう一人は八千代と呼ばれる美少女に可愛らしい少女が駆け寄る。髪を後ろで縛っており、彼女をなぐさめた。


「まあ、やちちゃんったら……! ちょっとーやちちゃん泣かした人だーれー?」


 明るい女の声に気付いて、八千代は顔をあげて潤ませた瞳を見る。


重美しげみちゃん……!」

「八千代ちゃん……」


 八千代が感動していると、重美は優しく彼女を見つめる。一目見るほどの可愛らしさと美しさだが、澄は後輩に声をかけた。


「二人、ほっといて行こうか」

「あっ、はい!」


 二人は学校に入っていくのを見て、二人の少女は慌てる。


「ごめんごめん! 澄! ふざけないからっ!!」

「やっ、ごめん。奈央。置いてかないで! ふざけたの悪かった! ほんとーに悪かった!」


 重美と八千代──茂吉と八一は素の声で謝り、急いで彼女たちの後を追っていった。



 学校に入りながら、二人は用意した上履うわばきで廊下を歩いていく。外と体育館からは掛け声が聞きえ、遠くの方では合唱部の練習が聞こえてくる。

 各部室では部活動をする音が通るたびに聞こえてくる。廊下を歩いていくと、奈央はふっと目を丸くして後ろに振り返る。八一は気付いて声をかけた。


「どうしたの? 奈央」

「……いや、なんかつけられてるような気がして……気の所為かな」


 思い出したかのように奈央ははっとして、八一に訪ねた。

 

「あっ、そうだ。八一さん。実は聞きたいことが……」

「八千代。ここでは八千代で通して?」

「う、うん。……八千代さん。仮面とか布とかをして調査すればいいのになぁって思って」


 調査をするなら、わざわざ変装をせずに身を隠して現地調査をすればいいという話だろう。八一は指を降って質問に答える。


「まず日頃何かこの学校で異変が起きてないか、生徒に聞き込み調査。ちょっとした異変は大きな事件に繋がるもの。だから、ここに残ってる生徒に聞き込みするわ」


 茂吉は澄の腕を引っ張って抱き寄せ、二人の目の前に来る。


「じゃあ、早速だけど手分けをしましょう? 八千代ちゃんと田中ちゃんは反対校舎。私ととーるはここの校舎で聞き込みをしてみるわね☆」

「確かに、手分けして方が早いかも。……いくら、彼がいるとはいえ、先生にここの生徒だとバレないように気を付けて。奈央」


 呼ばれた奈央は元気よく「はい」と返事をした。茂吉の提案に乗り、四人は二手に分かれた。

 変化した八一と奈央を二人で見送る。居なくなると、彼は澄の腕を放して頭を掻く。


「澄、悪いね」

「ううん、いいよ。重美ちゃん」


 澄は振り返り、背後の壁の柱に隠れている人物に声をかける。


「……で、私達をついてきている君。どこの誰かな?」

「……っ!」


 ビクッと震えた気配を二人は感じる。奈央の先程の言葉は気の所為ではないのだ。息を潜めようとして、相手は出てこようとしない。茂吉はにこやかに足を踏み出す。


「もー、そんなに出ないなら私がそっちに向かっちゃうよ」

「うっ、わぁぉ!? わかりました! わかりましたから出ます!!」


 明るい女子に近づかれるのは嫌のようだ。柱の物陰から慌てて人が出てきた。気弱そうな中肉中背の男子である。着ている制服は指定された高校の夏服のもの。犬の人形のキーホルダーがついた通学バッグを抱えて、彼は恐る恐る二人に話しかける。

 

「……あ、あのさ。君達……この学校で見ない顔だけど……この学校の人間じゃないよね……?」


 男子学生は困惑して二人を見ている。見抜いてはないが、見ない顔だとすぐに違和感を抱いたのだろう。二人は内心で感心した。

 その彼に茂吉は不思議そうに聞く。


「えっ……そう? それは、クラスが違うだけじゃない? 通りすがってたとしても、こうして話すのは初めてだし」

「そ、それは……そうかも」


 違和感を感じる彼だが、茂吉の指摘に納得をして頷く。

 声をかけたからには、何かしらあると二人は頷いて茂吉は自己紹介をした。


「私、常田重美っていうの。この子は私の友人の徳嶋とおる。君はなんていうの?」

「えっ、僕? ……は、花沢三藤はなざわみとう……」

「花沢くんだね! よろしくね!」


 明るい陽キャの女子のように振る舞う茂吉に、澄は笑いを堪える。一瞥いちべつで笑うなと怒られたが、澄は気にせずに三藤に訪ねた。


「ねぇ、花沢くん。君はここの学校で不思議なことが起きる話はないかな?」

「っ!」

 

 解りやすく動揺を示して、顔色を悪くして三藤はビクッと震える。わかりやすい反応に二人は何かあると察し、澄は誤魔化しを入れて話す。


「実は、私達、ホラーが好きで怖い話を集めているんだ。通っている学校の七不思議とか怖い場所の話を聞きたいのだけど、なにか知っていると嬉しいのだけど」

「……怖い、話?」


 彼はキョトンとした。顔を横に逸してしばらく考えたあと、三藤は二人に顔を向ける。


「僕の知りうる限りのなら……教えることできるけど、案内しようか?」


 初対面とも言える相手に親切に案内をする。お人好しな三藤に茂吉と澄は心配になる。だが、彼が何かを知っている以上、探りも兼ねて三藤の厚意を受け取る。明るい笑顔を浮かべて、茂吉は案内を頼んだ。


「じゃあ、頼むよ。よろしくね! 花沢くん!」

「えっ、あっ……う、うん」


 可愛らしい女の子に悪意もない笑顔を送られ、三藤は頬を赤くしてゆっくりと頷く。男が女に化けた姿である真実は、澄は口にしない。夢は壊さないほうが幸せであるからだ。




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