ep16 大千秋楽 今だけは、今だけは、終わりよければ全て良し
意識がはっきりしていく。体が重く頭がぼうっとする。依乃は目を開け、白い天井を見た。起き上がるのも億劫であり、依乃は自分の状態に気付く。自分が白いスーツの上に寝ているのだと。
「……あ、れ?」
混じり付のない空気に薬の匂い。何かをかけられているとわかる。すると、声がした。
「依乃……! 良かった……!」
視界に髪を下ろした浴衣姿の直文が入る。ガーゼや包帯が巻かれており、戦いの凄まじさを見ただけわかる。ホッとしたように顔を覗き込んできていた。依乃はぼうっとするが夢の出来事を思い出し、我に返る。
目を大きく開けて丸くする。ゆっくりと上半身を起こすと、彼女に直文は近くの椅子に座っていた。
「……直文……さん?」
名を呼ぶと直文は泣きそうになりながら、依乃を優しく抱きしめた。
「うん、俺だよ。久田直文だ。心配かけさせてごめんね。俺を助けてくれてありがとう」
助けたと言われ、依乃は首を横に振りたくなる。いつも直文が助けてくれているからだ。だが、否定は良くない。彼女は目頭が熱くなるのを感じながら、瞬きをして多くの雫をこぼす。頬に伝わるのを感じ直文の背中に手を回し、感謝の想いを口にした。
「私もです。自分の身を危険にさらしてまで、助けてくれてありがとう、ございます。私の我儘を叶えてくれて……ありがとう。直文さん」
彼が抱きしめてくれているのは我儘を叶えてくれたからだと、依乃は思っている。その前に、直文は抱きしめているがそのことは口にしない。彼女を抱く力を強くし、直文は涙をこぼした。
「……うん、俺もありがとう。……ちゃんと居てくれてありがとう」
彼女がいることを確かめるように、いつしか空いた穴を埋めるがごとく、彼は抱きしめる力を強くしていた。
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