平成之半妖物語 一幕

『おのたぬき』 漢字版読みやすく

　ある日、僕の町にはたくさんの狸さんが居たんだ。もふもふとしていて可愛らしく、狸さんは町の人からも可愛がられてた。でも、町の偉い人が変わってから、狸さんを駆除し始めたんだ。

　狸さんは皮を剥げば売れる。狸さんは肉を調理すれば売れる。

　元々狸さんをよく思わない人もいて、段々と狸さんを狩っていったんだ。

　僕はやめてほしいとお母さんとお父さんに協力してもらって、お偉いさんにお手紙を書いたんだ。

　お手紙を書いたのは僕だけじゃなくて、同じ町の人もい居た。抗議文って言うらしいんだ。僕も町の人と同じ気持ちで、やめてほしい気持ちのお手紙を送ったんだ。

　でも、偉い人はやめてくれない。段々狸さんが減っていく分、町が豊かになっていく。僕と同じ気持ちの町の人も豊かになっていく街に負けて、狸さんを売りに出した。

　もうどうしようもできないんだと悲しくなってお父さんとお母さんに慰めなれながら、今日を過ごしたんだ

　朝になったら、僕はせめて狸さんを絵の中で暮らせるようにたくさんの狸さんを描いたんだ。

　描いていく内に、僕は狸さんをたくさん殺した人間が許せなくなって、斧を手にした狸さんを描いたんだ。

　その段々が悪い人間をばっさばっさと斧で倒していく絵を描いていったんだ。

　赤いクレヨンで血をどばどばと、斧で首を刎ねて斧で手足を斬って、狸を愛する人間を守るヒーローの『おのたぬき』を作った。

　何度ものその絵を書いているからか、お母さんにもう描いちゃ駄目って怒られた。

　『おのたぬき』。『おのたぬき』。狸を勝手に駆除して、売り捌く悪い人間を倒していくヒーロー。

　『おのたぬき』。『おのたぬき』。僕達のような、声を上げるのが弱い弱い人間を守るヒーロー。

　しばらくして僕が狸の絵を描かなくなると、ある事件が起きた。町の偉い人が亡くなったらしい。

　部屋にはいくつもの動物の足跡と切り傷があって、その偉い人の身体に頭はなかった。斧で斬られたようにすっぱりとなくなったらしい。

　『おのたぬき』だ。『おのたぬき』がやったんだ。そう思って僕がこっそりと隠した一枚の『おのたぬき』のを絵を見てみた。

　そこに『おのたぬき』は描かれてなかった。『おのたぬき』はこの絵から出ていって偉い人を殺したんだ。

　明日、橋の方のお爺さんの腹が斬られた。

　明後日、隣の伯母さんの手足が斬られた。

　翌朝、町中の道路には赤い肉球がいくつもある。

　所々の人の家では、斧で切られて死んだ人。生き残った人もいる。生き残った人は斧を持った狸に襲われたと話した。

　僕の住む町で起る事件はお父さんとお母さんを怖がらせた。

　『おのたぬき』。『おのたぬき』。皆を怖がらせる狸。

　『おのたぬき』。『おのたぬき』。お父さんとお母さんを怖がらせる化け物。

　お父さんとお母さん、僕もいつか『おのたぬき』に襲われる。そう思うと、とても怖くなって『おのたぬき』が描いてあった紙をビリビリに破いた。

　もう現れるな、もう怖がらせるなと。

　ビリビリに破いて明日の朝。『おのたぬき』の事件はぱったりと起きなくなった。

　もう僕達を怖がらせる『おのたぬき』はいないとほっとしたけど、その日の夜。

　僕は夢を見たんだ。

　斧を持った狸『おのたぬき』だ。もの凄く歪んだ表情で怒っていた。

「俺を生んだくせに、俺に願ったくせにによくも拒んだな。ゆるさない。もう一度俺を描いたら人間を殺し尽くしてやる」

　目を開けたら朝で、僕の寝ている部屋の壁と床は斧の傷でボロボロだった。

　とても、怖い夢だった。僕はもうこの先狸の絵は描くものかと決めた。

　でも、しばらくした後で、『おのたぬき』が遠くの方に現れたらしいのです。

　僕は『おのたぬき』を描いてません。一体誰が描いたのでしょうか。

『おのたぬき』