1 有度山にある山頂へ
今日は振り付けの練習をする日だが、直文と■■はお休みだ。その為、友達の奈央とは別行動をとっている。先輩の澄に友達を任せて、彼女と直文は用事としてある場所に向かっていた。
運転席の斜め左上には画面にはバス停の番号と料金。優先席と車イスの席もある。ユニバーサルデザイン。色んな人に優しい設計となっている。しかし、人は少ない。バスに揺られて、■■と直文は一緒に一番後ろの席に座っていた。二人はバッグを手にして出掛け着を着ている。周囲には木々が多い、遠くから歩道橋が見えると、直文が少女の目を遮った。
少女が驚くと、直文は注意をした。
「見ちゃダメだよ。あそこは心霊スポットなんだろう?
今のはなびちゃんは見ちゃダメだ」
「ご、ごめんなさい」
日本平パークウェイという道を通っており、■■は直文を見て謝った。
名前を奪われた■■にとって、心霊スポットとは釣り堀のようなもの。餌が近づけば寄ってくるのが道理。日本平パークウェイにある歩道橋は心霊スポットの一つであった。ちょっとした未来ではこの歩道橋は解体されなくなっている。だが、このパークウェイは事故がそれなりに起きており、幽霊もいるためか油断はできない。彼女にはお守りを渡してあるので、憑かれる心配はない。だが、良くない雰囲気はあるらしく直文は警戒をしている。歩道橋が過ぎると、■■の目から手が離された。
「ありがとうございます。直文さん」
「いいよ。けど、あの日本平がこんなにも変わるとはね」
彼は周囲を見つめている。直文が何歳なのかわからないが、見た目より大分年上なのだろうも予想していた。話に乗れないため、彼女は話題を変える。
「けど、貴方は空を飛べるのになんでバスを……?」
小声で聞くと、直文は苦笑した。
「飛行機やヘリコプターが飛んでいるのに、あまり空は飛べないよ。隠れて飛ぶこと出来るけど、俺としては地に足をつけたいしね」
納得できる返答が出てきた。
彼は麒麟の半妖である。彼女は詳しく知らないので、ネットで麒麟と調べた。真っ先にお酒の方が出てくる。違うそうじゃないと、妖怪を隣につけて検索をしたら結果がでた。
凄い神獣の血を引いていた。麒麟は傷つければ不吉なこととされるらしい。吉凶を司るのだと言う。その特性を直文も持っているらしい。また麒麟は平和主義者で殺生を好まない。だが、やむ終えない場合は戦うとされている。
「直文さん。麒麟は殺生を好まないと言いますが」
「ああ、好まないとは言われているけど、あくまでも性格面だから完璧に受け継いでいるとは言えない。好まないけど、やれないわけではないからね」
さらりと怖いことをいってのけて、今度は■■が苦笑した。直文は窓の外を見て、懐かしそうに目を細める。
「……まあ、こんな俺でも昔優しいと言ってくれた人もいたけどね」
前に見つめられたような微笑みを浮かべていた。愛しそうに、優しく見つめる。彼女の女の勘ではあるが、彼に大切な人がいたのではないかと予測した。間違いない。女の人だ。■■は言葉にする。
「直文さん。貴方は」
《ホテル、お降りのお客様は》
ピンポーン。インターホンの音がする。『止まる』とかかれたバスのボタンを直文は押していた。考えている最中、車内アナウンスが入っていたらしく、目的地まであともう少しだ。口をパクパクとさせている彼女に気付いて直文が聞く。
「はなびちゃん。どうしたんだい?」
「……いえ、何でもありません」
首を横に振るが、彼は不思議そうに見ていた。二人は切符とお金で払い、降りた先にあるホテルを見つめる。降りたバス停駅の近くにある大きな建物は歴史あるホテルである。来年で建て直しをするために一時休業をするのだ。
ホテルに入る。
ロビーの壁には茂吉が壁に寄りかかって、スマホを見つめていた。直文と彼女を見つけて、彼は手を振ってやってくる。
「ヤッホー、なおくん、はなびちゃん。コンチハー!
お元気そうで何より。寺生まれの寺尾くんも元気だよ☆」
二人の目の前に来て、愛敬のある笑顔を浮かべた。
「はいはい、こんにちは。もっくん」
「こ、こんにちは。寺尾さん」
軽く流す直文に、まだ茂吉のテンションについていけない彼女。
ここに来た理由は、茂吉に呼び出されたからである。茂吉も今日は振り付けの練習はお休みだ。待ち合わせ場所は日本平のホテルであり、実際に泊まっている。茂吉はお祭りが終わるまで滞在するらしい。彼女はどれほどお金を持っているのかと気になった。
直文と茂吉が話しだす。
「茂吉。何でこのホテルに泊まったんだ?」
「泊り納めてやつ。ほら、昭和中期にできてもう建物が古いだろ? 昔からある建物がなくなるのが寂しいから、こうしてお泊まりしているのさ。わかるだろ」
「ああ、なるほど。江戸の時代の日本平にホテルなんてなかったもんな。そう考えると、日本平も変わったな」
「だろー? なおくん。感慨深いだろ?」
明るく笑う茂吉に、納得する直文。その話を耳に流すだけでついていけない彼女。だが、経過の話を聞いて二人の実年齢が江戸時代以上の年齢と推察できた。三桁の年齢となるとかなりのお爺さんであり、彼女は二人に聞く。
「あの前々から気になっていたのですが……二人の実年齢は……」
すると、茂吉は自分の体を抱き締め顔を赤らめる。
「やっだ。こんなぴっちぴちの二十代成人男性に年齢を尋ねるなんていやん! もうはなびちゃんったらえっちぃー!」
「えっ」
涙目で恥ずかしがってくねくねとする様子に彼女は戸惑う。すぐに直文の拳骨が狸の頭にはいり、茂吉は地面に座り込んで頭を押さえる。■■はデカイたんこぶのようなのが見えたような気がした。直文は拳をおろして、あきれて茂吉を見つめる。
「彼女を困らせるな。あと、人からして爺なのに無茶するな」
「っお前も爺だろぉ! 加減しろー! 暴力反対!
直文のストーとかいてカー!」
「ふざけるな、茂吉っ!」
涙目でふざけて反論する相方に、直文は一喝いれた。相変わらず仲のいい二人に彼女は苦笑していた。
ホテルを出て、日本平の山頂まで歩いて来る。観光客の人が同じように景色を見に来たらしく写真を撮っている。彼らは四方に見渡す県内を見た。遠くには象徴の雪解けした富士山。駿河湾の周囲にある工場地帯と三保の松原が見えた。駿河湾は波が揺れているのが見え、フェリーが海の上を走っている。風景美に直文は感嘆した。
「ああ、空から見るのもいいけど、やっぱり地に足をつけた方がいいね」
彼女も頷いて、風景を見つめた。名前を奪われてから、日本平にはあまり来ていなかった。少し変わったところもあれば、変わらない部分もある。懐かしく彼女は笑ってしまった。
「……久しぶりにきて改めて見たのですが、やっぱり私はここから見る景色が好きです」
「そっか」
優しく笑う直文に名無しの彼女は頬を赤くした。茂吉は二人に声をかける。
「おーい、そろそろ話したいこと、話したいんだけどなぁ」
本来の目的を忘れそうになり、彼女は慌てる。直文は不思議そうに見ていた。
流石に人が多く集まる場所では話せない。
お昼近く日本平の駐車場近くにあるお店で食事を取ることとなった。
店に入り、席に案内される。お水が来ると、彼女はお水の冷たさに息を吐く。風がある日とは言え、外は暑い。直文はメニューを見ていると、茂吉は話しかけた。
「食べる前に、話そっか」
直文はメニュー表をおいて、彼女は真剣に向く。茂吉はおしぼりで手を拭きながら話す。
「まず、俺が二人を呼んだ件はね。わかってきた事があるから話したいんだ。この話は直文も知っているから、なおくんの口から話す」
茂吉に言われて、直文は目を丸くした。相方を一瞬だけ睨んだ後、直文は息を吐き話し出した。
「……まず最初に名前を取り戻せた後の話について。名無し期間現在進行中であるせいか、取り戻せたあとに悪い影響が残る。名残として、霊感もちの霊媒体質になってしまうことだ」
霊媒体質とは、幽霊が憑きやすい人物のこと。または霊感や霊気に敏感な人の持つ体質とも言えよう。憑依体質も霊媒体質と同じ意味をもつ。その名を取り戻せたとしても、幽霊が見えて霊媒体質になってしまう。意味はまだわからない。まだ話は続く為、彼女は黙って話を聞く。
「普通の霊媒体質ならいい。先天的なものは個人差によるし、体質の強さもとても強いのは稀だ。個々にみあった自衛をしているはず。だが、後天的なものは厄介だ」
「何故ですか?」
■■の質問に直文は深刻そうに話した。
「現世との境が曖昧になっている期間によって、強力な霊力を得てしまう霊媒体質になってしまうからだ。名が戻ったとしても妖怪から狙われやすい」
狙われやすいと聞いて、■■はびくっと震えた。家の周囲で起きている怪奇現象。この現象は彼女を狙う幽霊や怪異の仕業なのだ。家には結界が張られており、入れたとしても強制浄化されてどこかへ送られるらしい。また彼女が家に出ても、直文のお守りが彼女を守る。■■はお守りが入っている奥のポケットをさわると。
「名があった方が抵抗ができるから、名前はあった方がいい。……そして、名を取り戻した暁には、はなびちゃんを組織の仲間として迎え入れると上司が判断した。形態はアルバイトになるだろうね」
■■が驚くべきことを話した。
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