陰陽少女の幕間

 失敗した。ある少女は脇腹を押さえながら、山の中にある道路を走っていく。

 息は荒く、彼女は悔しげに目から雫を流していく。失敗してしまったと、彼女は嗚咽おえつを噛み締めた。

 5月の初旬の雨の中。兄とその友人共に退治依頼を受けていた。少女はまだ見習いの立場であり、同行者として兄とその友人と共に教えを請えていた。

 任務の内容は、被害が出る前に山にいる女郎蜘蛛を追い払えと。悪しき妖怪ならば倒せ、物わかりの良い妖怪ならば説得をしろと。

 原因を説明すれば説得できる妖怪は多く、解決できる事件は多い。しかし、今回の女郎蜘蛛は話を聞こうとはしない。しかも、女郎蜘蛛があまりにも強すぎた。少女は女郎蜘蛛に狙われて毒を浴びせられた。

 兄を守ろうとしてこの結果だ。

 真っ先に彼女を妖怪は狙っており、兄とその友人は女郎蜘蛛を押えた。先に狙われている妹の彼女を逃した。町に入るが、身隠しの仮面をしているが故に人から見つかることはない。

 雨のお陰で地面に落ちる血痕はごまかせるだろう。


「本部に……救難信号を送った……けど……」


 早く来るかはわからない。びしょ濡れになりながら、彼女はある寺に向かう。近くに不動明王ふどうみょうおうまつる場所があり、そこの境内に入れば妖怪の目を誤魔化せるからだ。

 足の動きはだんだんと歩みへと変わっていく。階段をゆっくりと登り、彼女は小さな神社の境内の地面に座る。

 血が流れていき、彼女は寒さを感じ始めた。


「……まずい……早く屋根の下……に」


 少女の視界は暗転する。



 雨の音と足音が聞こえる。誰かに起こされ、声をかけられる。途切ていく意識の中、三善真弓みよしまゆみは暖かな腕を感じて意識を闇に沈めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る