11 保護した後安全地帯へ
「あっ」
彼女は声を上げ、啄木に声をかける。
「あの、啄木さん! あの陰陽師さんに加護かお祓いをしてくるかな?
私たちに元からかけられている呪が進行しているようで……」
真弓が信者でない女陰陽師を指すと、啄木は彼女を見つめて頷いた。
「わかった。一先ず、加護を与えて祓って進行を抑制してみる」
啄木は結ばれて動かない陰陽師の前に行き、しゃがんで手を翳す。真弓には聞こえずらい言葉が続く。手から光が現れ、女陰陽師に宿った。
「……えっ、あれ?」
女陰陽師は驚きの声を上げた。恐らく重しがなくなり軽くなった感覚だろう。真弓は覚えがある故に、彼女が少しでも開放されたのにほっとする。啄木は女陰陽師を見つめ、納得したように頷いていた。
「……うん、彼女の体内にあった違和感はない。だが、大元は消えてない。
薬で抑えてるような状態だからな」
「っ……でも、少しは無事なんだよね……?」
「ああ。あと、貴重なサンプルでもあるからこの陰陽師を本部に連れて行く。治験ってやつだな。何、命令以外で命を奪う真似はしないさ」
「……うん」
真弓は頷く。啄木は加護を与えた女陰陽師の糸を刀で切り裂き開放をした。女陰陽師は起き上がり、自分の手を見て呆然としている。やがて、啄木の方に顔を向けた。
「……貴方は一体……いえ、そもそも何故何助けたの?」
「俺の正体云々の前に医者なんだ。現実でも妖怪側でも治療できるものはするべきっていう信条なんでね。そちらこそ、解放したというのに逃げないとは度胸あるな」
開放されて逃げる確率が高いと思ったのだろう。女陰陽師はゆっくりと立ち上がり、膝の砂を払いながら否定した。
「……生きられる方を選んだだけ。それに、三善真弓が無事である理由とか気になったし……」
声に僅かな怯えはあるが、ホッとした気持ちを感じた。何も起きないことをホッとし、真弓は陰陽師に話す。
「……なら、今回の件について分かる程度に全て話してくれますか? 大丈夫です。無事は保証されます。私がこの通り無事なのですから」
「……わかった。話す」
一瞬だけ考え、陰陽師は答えを出すと。
「日下部! あんた裏切る気!?」
信者の陰陽師が声高に声を出す。日下部と呼ばれた女陰陽師は首を向けた。風が吹くと歯を食いしばっている口が見え、日下部は信者に声を上げる。
「裏切ったのはどっち……!? 私は好きでこの作戦に加わったわけじゃない。出集された瞬間に妙な術を仕掛けられて、言うことを聞かなければ死ぬって!
裏切ったのは会長の方でしょう!? なんで会長があんな行動を取ったの!?」
「会長に会長の考えがあるのよ!」
「それだけで罷り通るはずない! 貴方たちは入れ込み過ぎなの……!」
言い合う二人を見つめ、啄木と真弓は複雑そうに見つめる。
啄木の言う通り、全てが会長に従っているわけではない。だが、言うことを聞かせるために首輪をつけている。
似て非なるとはいえ、真弓は少し似ていると思っていた。組織『桜花』の半妖たちの成り立ちに。
真弓が信者の女陰陽師を見ていると、彼女の表情が変わるのに気づく。
「っ……ひっ……えっ!? ……なんで……そんな……」
怯えたような顔。日下部も気付いたらしく、「えっ」と声を出して驚いた。何に驚いたのかは分からない。彼女たちは気付いて影を見た。
そこには、日に照らされて出来ているはず影がない。
女陰陽師が驚いた理由は即ち。
「っあ……ああぁぁ! 囃子が……囃子が聞こえる……!
やめてください……やめてください! 春章様……! しゅんしょ」
泣き叫びながら会長の名を呼ぶ。身動きがとれないまま、信者は風景の中へ溶けるように消えていった。
真弓には聞こえなかった祭囃子。同時に啄木にも聞こえなかったようだ。何を表しているのか。二人は口にしなくてもわかっていた。
「真弓! その日下部という奴の腕をつかめ! せめてここの地区より安全地帯へ送る!」
焦ったように声を上げる啄木に異論はない。真弓は日下部という女陰陽師の腕を強く掴む。
「了解です! 日下部さん! 離れないでくださいね!」
「えっ、あっ、うん!」
頷く女陰陽師。二人に啄木は刀印を向け、転移の言霊を吐き出す。
真弓が瞬きをすると、広い芝生の公園にいた。
芝生の先には再現された竪穴式住居や高床式建物。奥には博物館や公園。真弓はどこかの施設というのはわかっていた。視界に身隠しの面をしていない澄がいる。彼女は目を丸くして真弓達を見ていた。
「っ……三善さんか。設置してすぐとは思わなかったな。
……で、そのお隣の人は?」
真弓はすぐに面を外し、事情を話そうとする。
「……この人は……」
もうもう一つの設置した目印が光ると、身隠しの面をした奈央が現れた。奈央が現れたことに澄と真弓は驚き、奈央が二人の存在に気がつく。
「奈央。お疲れ様」
「奈央ちゃん大丈夫!?」
澄は労いの、真弓は心配の声掛けをした。奈央は体を向けると彼女は面を外した。涙目になりながら、澄と真弓に飛びついた。
「っ……! せんぱーい!! 真弓ちゃん!!」
勢いよく飛びつかれ、二人はなんとか抱きとめる。奈央も役目を終え、送られてきたようだ。奈央を抱きとめながら、澄は真弓に疑問を呈する。
「君が来たということは役目は終えたんだろうけど……この方は?」
あまりいい顔をせず、真弓はあったことの顛末をすべて伝えた。話している間、流石に不真面目は良くないと奈央は抱きつくのを止めた。話を聞いてからは険しい表情となる。
八一の相方について、澄と奈央は非常に驚いた。奈央は話だけは聞いており、澄は彼をよく知っている。しかし、そんな場合でないと啄木と同じ判断を下し、真弓の話の続きを聞く。
信者の女陰陽師が様子が変わり、影が取られて消えたこと。これが何を意味しているのか、全容を知る彼女たちはわかる。
即ち『儀式』シリーズの完成速度だ。
ほぼ内容通りに進行しており、信者である女陰陽師の姿も消えた。澄は渋い顔をし、三人に顔を向ける。
「……『偽神使』を倒しているといえど、流石にこの完成速度はおかしい。でも、三善さんの目撃証言で断定はできた」
奈央は怯えながらその断定の真実を告げる。
「……『儀式』シリーズの完成速度が早いのは……人の魂を運用しているから……」
真弓も予想できており、怒りを表情に出しながらも拳を握る。だが、怒りにのまれては意味ないとわかっており、彼女は黙る。完成してきている以上、もはやここも安全地帯とは言い難い。
「あの、高島さん。ここよりも、安全な場所でこの陰陽師さんの話を聞きませんか?
例えば……シェアハウスとか……」
提案に澄は首を横に振る。
「いや、悪いけどシェアハウスは難しいと思う。完成速度が上がっているなら……シェアハウスに張られた結界も通る可能性がある」
なら何処がいいのか。真弓は難しそうな顔をすると、奈央は挙手をして提案をしてくる。
「あの……なら組織の『きさらぎ駅』なんでどうかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます