2 隠神刑部と花火と向日葵
花火と向日葵の少女の部活が終えた。直文は学校での仕事は終えているが、組織の方で上司に呼ばれて本部に戻っている。
八一は組織の任務でいない。二人は護身用の札とお守りを欠かさず持っているが、それでも護衛がいなくては安心とは言えない。
護衛の待ちあわせは駿府城公園の堀の近くにあるベンチで待ち合わせとなっている。
二人で一緒に学校の門を出て、寄り道せずに駿府公園の堀の前につく。堀に沿って歩いていくと、一人の男性が多くのコンビニの袋を持ってベンチに座っている。
おにぎりを食べているのだろうか。その男性は二人に気付いておにぎりを食べ終える。口についた米粒を取りながら立ち上がり、無邪気に笑ってみせた。
「やっほー☆ 二人共ー☆ こっちーこっちー!」
見知った相手に、二人の少女は複雑そうな顔をする。茂吉だ。二人は彼に近付いていくが、少女たちの顔を見て茂吉はわざとらしく悲しそうな演技をする。
「ちょ、そんな複雑そうな顔やめてよ。俺、悲しくなるよ~」
しくしくと手で子供のように泣いてみせた。
「先輩には打ち明けてませんよ」
冷静に依乃は話し、切なげな表情をする。
「……貴方は、そうやって私達を化かしていたのですね」
彼女に茂吉は雰囲気を変える。軽く陽気なものはなく、落ち着いた青々とした山を思わせる。彼は演技をやめて、腰に手を付けて苦笑をしてみせた。
「……まあね。君達には過去聞かれた以上、演技しても無駄だろう。けど、君たちの知る俺は
美術館の時、戦いの時、澄に忘却のスプレーを渡した時など。依乃には素を垣間見せてる。だが、接点が少ない奈央には唐突に素を見せられても戸惑うばかりだ。今でも戸惑っている奈央だが、彼の発言に首を横に振る。
「……演技はいりません。寺尾さんの素で話してください」
「OK。素で接しよう」
茂吉は立ち上がって、コンビニ袋から二つのペットボトルを出す。
「はい、どうぞ。テストの労いを込めて。怪しいものは入ってないから大丈夫。変なもん入れてたら、直文と八一に殺されかねないしね」
甘いジュースであり、依乃と奈央が好き物であった。
「……ありがとうございます」
二人は受け取り、恐る恐るペットボトルの蓋を開けて少し飲む。甘みとフルーツの酸味が体に染み渡った。奈央はたまらないといった顔をした、依乃はほっとする。その場で確かめられて、自身の信用のなさに茂吉は苦笑していた。
気を取り直して、三人は堀の近くにある歩道を歩いていく。茂吉は歩みを少女達に合わせて歩いている。背中を見ながら依乃は話しかけた。
「……そういえば、寺尾さんはなんで私の名前を取り返すのに協力してくれたのですか?」
振り返り、茂吉は話す。
「君は直文の大切な人だし、君の前身となる少女に会ったことあるから」
「それだけ……ですか?」
依乃は出会ったあとの出来事を思い起こして聞く。彼女の指摘に茂吉は感心した。
「鋭いなぁ。……そうさ、実際にそれだけじゃない」
二人に顔を向けて、微笑みながら話す。
「一年前の夏。組織の個人情報で澄の名前があって、まさかと思って直文の総踊りの誘いに乗った。そしたら、俺の思っていた通りでびっくり。
あの子が普通に生きている。良き後輩がいて、充実した学生ライフを送っている。目の当たりにして、尊さが起きて、安心して……あんな風に普通に生きる彼女が愛しい。とても、愛しい。
夏祭りに誘ったきっかけを作ってくれた有里ちゃんに感謝しているし、良き後輩である田中ちゃんにも感謝してる。
だから、押し付けがましいけど恩返しのつもりで、君の事件と田中ちゃんの事件の解決を手伝ったんだ。……なのに」
笑うのをやめ、彼は頭を下げる。
「君達には酷い言葉をぶつけて、迷惑をかけた。申し訳ない」
茂吉が澄を思うのは嘘ではない。前々から、奈央と依乃はお互いに茂吉と澄についてよく話し合った。彼のした行いには理由があったから許そうと。
「……構いません。貴方のした行動は理由があったから、悪くないです」
花火の少女に茂吉は顔をあげて、申し訳無さそうにゆっくりと首を横に振る。
「ありがとう。けど、理由があったとしても、やった行いは消えるわけじゃない。反省ぐらいはさせてほしい」
切なげに二人を見ずに遠くを見ていた。
「……それに、守り通すなら守り通せって怒られたしね。皆に迷惑をかけた以上、やれるべきことはするつもりだ。……今回の件は特にね」
拳を握り、真剣に澄のいる学校を見つめる。
「今回の件が終わるまで、俺は絶対にあの子に近付く魔の手を追い払う。彼女が人として死ぬまで、怪異が関わる案件は潰していくつもりだ」
澄が狙われている以上、彼はその元凶を立つまで死ぬわけにはいかない。茂吉は今回の件を早々に決着をつけるつもりなのだ。彼は背を向ける。
「聞きたいことはある? 俺についてはだいぶ話して聞いたと思うけど」
奈央は首を横に振って、返事をした。
「ありません。……貴方が、先輩を大切に思っているのはよくわかりました。……この先、私は先輩に寺尾さんを思い出させるようなことはいいません。こう見えても、口は固いほうですから安心してください!」
自信満々に言われ、彼はきょとんとする。
今までの澄の行動は茂吉への想いからであると、彼自身もわかっている。茂吉は表情を柔らかくして、感謝をした。
「ありがとう。君たちがあの子の後輩でよかった。改めて言うけど……あの子をよろしくね」
茂吉からの感謝と信頼に、二人の少女は嬉しそうに微笑んだ。
目的の駅に降り、国道一号線につくと少女達が横断歩道を渡り、背が見えなくなるまで彼は見届けていた。
見送るまでの間、昔話に昔の澄と自分の話をしていた。
どんな風に出会ったのか。どんなきっかけで互いを好きになったのか。昔の彼女が何を好きだったのか。前の澄がどんな風な血を引いていたのか。前の先輩と言うのが、どんなのか気になってはいたのだろう。少女達は興味津々に聞いてくれた。
依乃の名前の件と今まで監視をした故に、彼女を信頼できると判断した。また彼は理解する。澄が今までやってこれた理由が二人の後輩の優しさに支えられていたのだと。
彼女たちなら、澄を任せて問題ないと彼は息をついてみせた。
見えなくなると、彼は広々とした国道を見つめる。戦国から
広々とした国道一号線のコンクリート道路。両脇にある民家と店。先には工場があり、遠くには
「人間は汚いけどさ、皆頑張ってる。君は汚い中でも頑張ろうとする人間が好きなんだろう?
俺はわからないけど、俺は君が平和に過ごせているならいい」
途中から彼女を思い出さないように、野垂れ死ぬか何処かで死ぬつもりであった。守ると決めたら
本部に戻ったときの上司の怒りの微笑みは末恐ろしかったらしく、彼は体を震わせて苦笑する。
「……もう、怒らせたくないなぁ。あの人が怒ると本当に怖いもの」
笑うのをやめ、茂吉は空を見る。
「あの子は、俺を嫌ってくれてるかな。嫌っていてほしいな。好きだと思わなくていいから、普通に生きて笑っていてほしいな。……出来れば、普通の人と幸せになって」
空を見上げるのをやめ、彼は真顔でスマホを出す。
「けど、現状はそう上手く行かない。啄木に悪いけど、利用できるものは利用させてもらうよ」
電話帳を起動させ、陰陽師と書かれたグループを画面に出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます