3 はじめましての再会1

 誘いを引き受けざる終えなかった真弓。メモで必要なものを持っていく。夏休みの宿題に関しては兄と重光の監修で自力でできないもの以外持っていくことに。

 真弓は着替えのキャリーケースと勉強用のリュックを手に清水港のある広場にて。

 そこには、真弓が初対面の少女と男性がいた。その中の一人、髪を後ろに縛った男性が口上を上げる。


拙者せっしゃ茂吉と申すは、御立会おたちあいうちに、御存知ごぞんじのお方もございましょう。

──この時期がキたァァァァ☆

夏はお祭り、夏は海! 美味しいフランクフルト、美味しいリンゴ飴、美味しいたこ焼き、美味しい焼きそば、美味しいかき氷! かき氷ってシロップの味が同じで匂いだけでその味って脳が知覚するらしいZE☆

けどけど、たべるだけじゃダメダメ♡ 驕れる者久しからず、そうさ。食べたぶんは増える体重! 動いて遊んでエネルギー消費!! 海で遊んでヒャッハー世紀末!!

あっ、俺は体質的に太らないけどね☆

最期の一言で全人類を敵に回そうが、俺は好きな人守れればそれでOKです。

春はあけぼのだけど、夏は夜。蛍だけじゃない風情もあるぜ!!

リア充爆発、わっしょい! わっしょい!

そんなこんなで余計なセリフで相手を翻弄ほんろうさせるのが好きです。本当の寺生まれの寺育ち寺生まれのTさんこと、俺は寺尾茂吉。よろしくね!」


 ブイサインでウインクをする。怒涛どとうの自己紹介に真弓は口をあんぐりとしていた。

 茂吉という彼は半袖のだぼだぼの服を着て、勾玉まがたまのネックレスを首からかけている。ジーンズとスニーカーを着ており、肌が見える部分からは鍛え抜かれた筋肉質なものが見てる。

 隣ではぷっと笑う少女がいる。茂吉は笑顔をやめてVサインをおろし、彼女に物申す。


「……あのさ、澄。笑わなくていいだろう」

「ふふっ、だって、君がそう振る舞う姿は面白いから」

「俺は、明るく愉快で面白いお兄さんで通ってるんだけどなー」

「あれ、面倒見のいいお兄さんじゃないのかい? 少なくとも私はそう感じるけどな」

「どう捉えるかは個人次第さ。俺は自称酔狂言じしょうすいきょうげんな男ですから」

「じゃあ、私は素敵な恋人として捉えておくよ」


 少女に真っ直ぐと言われ、茂吉は赤くなった顔を横にそらす。茂吉を笑った少女に真弓は見覚えがある。


「あっ、貴女はあの時の」

「やぁ、あの時は助けてくれてありがとう。三善真弓さんだっけ?

私は高島澄。茂吉くんは私の恋人だ。彼ともどもよろしく」


 紫陽花を思わせる柔らかな笑みを浮かべ、握手を求められる。


「……よろしくお願いします」


 真弓は握手をして離す。

 澄は宿泊用のバッグを肩から下げて、ロングスカートとフリルのついた半袖を着ている。茂吉と同じ勾玉まがたまのネックレスをつけており、服装の色合いも同じように見えた。明らかに、恋人同士であると主張しているコーディネート。

 しかし、茂吉は澄から距離を置こうと少しずつ離れている。澄が彼の手を強く握った。握られて茂吉は赤くなった顔を片手で押さえる。

 甘々な光景に真弓は唖然とする。


「……お、大人」

「ねぇ」


 声をかけられ、顔を向ける。

 三編みをして帽子を被った茶髪の少女がいた。肌が焼けている。出掛け用の半袖と半ズボンなどであるが、スニーカーはスポーツタイプのものだ。大きめのリュックを背負っている。真弓とは同年代らしく、向日葵のようや大輪の笑顔を浮かべて手を出してきた。


「おはよう、はじめまして! 私は田中奈央。貴女はなんて名前なの?」


 笑顔が眩しく愛らしい。奈央から僅かに妖怪の気配を感じるが、悪いものではない。神使がついていると真弓はすぐにわかり、驚きつつも奈央の笑顔につられて笑う。


「私は三善真弓。よろしくね!」

「三善ちゃん! ……ねぇ、真弓ちゃんって呼んでいい?」

「いいよ! 私も奈央ちゃんって呼んでいいかな?」

「いいともー! よろしくね、真弓ちゃん!」


 奈央の眩しさに真弓は緊張が吹き飛び、柔らかな笑顔を浮かべる。

 にこにこと笑う奈央の頭の上に腕が置かれる。奈央は「ぐえっ」と声を上げて顔を俯かせた。腕をおいた男性はおしゃれなTシャツにベストを着ており、ズボンとブーツを着こなしていた。その人物は手で狐を作り、妖しく笑う。


「そして、私は稲内八一。はじめまして、懇々こんこんとよろしく頼む。三善さん」

「あっ、は、はじめまして。よろしくお願いします」


 妖しい魅力に頬を赤くし、真弓は頭を下げる。頭を下げる彼女に八一は愉快げに口を動かした。


「ちなみに、私は奈央お嬢さんの婚約者でもあるんだ」

「えええっ!?」


 真弓は大声を上げる。奈央は八一の腕から逃れて顔を真っ赤にして怒った。


「八一さん。違うでしょう!? 嘘は言わない。私達は恋人同士でも無いよ!」

「でも、真美さんと荘司さんは認めてたけど」

「それは、お母さんとお父さんが勝手に決めたこと! 私達はまだお互いを知らないんだから、まだ友達だよ。友達!」

「友達として見るなら、私は奈央にキスなんてしないけど?」

「八一さん!」

「あっはっはっ、悪い。からかいすぎた。そうだな、君とはまだ仲の良い友達さ。あっ、そうだ。次の休み、真美さんと荘司さんと一緒に実家へ遊びに来なよ。美味しい料理と菓子でもてなすよ。ついでに、実家は京都だから観光名所、案内できる」

「いいの!? 本当に」


 奈央は料理と菓子と京都の魅力にころっと手のひらを返す。真弓は同郷とは知らなかったが、稲内という名字はよく見かける。

 奈央は気付いていないが、真弓は気付いている。八一という男性は親同士を会わせようとしていることに。傍から聞くとカップルとも言える会話であり、八一と奈央は同じ勾玉まがたまのネックレスをしている。


「……えっ、付き合ってないの……?」


 きょとんとする彼女に笑う人がいた。


「ふふっ、そう思うよね。でも、私達にそう思わせることが稲内さんの狙いなの。奈央ちゃんってば、また稲内さんに外堀を埋められるの気づいてない」


 落ち着いた声に、真弓は振り返る。

 お姫様カットした前髪にポニーテールをした綺麗な少女がいた。真弓は可愛いと思ってしまうほどである。半袖の上着と暖色の服に、ミニスカート。スニーカーとハイソックスを履いており、その少女は花火のように明るく顔をほころばせた。


「はじめまして。私は有里依乃といいます。奈央ちゃんと友人で澄先輩の後輩でもあるの。花火が好きだから、はなびちゃんって愛称もあるんだ。よろしくね」

「はじめまして、私は三善真弓。よろしくね! 有里ちゃん!」


 二人は互いに握手をし合う。真弓は花火の少女が口にした名に間をおいて首を横に傾げる。


「ん?」


 彼女がなんと名乗ったのか。かつて故郷に戻った頃を思い出し、真弓は目を丸くする。


「えっ、貴女……!」

「?」


 依乃が不思議そうに見つめ、真弓が聞こうとした瞬間。


「やあ、自己紹介は終わったかい?」


 穏やかだが真弓は背筋が凍った。

 柔らかな綿の中に、一つの針が仕込まれているような声色。真弓は花火の少女の背後にいる人物に目を向ける。依乃は驚いて振り返り、その人物を呼んだ。


直文なおぶみさん」



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