4 ようこそ、組織の本部『桜花』へ

 直文と依乃は手をつなぎながら、道を歩いていく。二人で歩いていくが、六人の姿は見えず先に行ったのだと把握した。

 歩いていくと、大きな門が見えた。

 屋根瓦付きの高い塀と趣のある門の前には先に行った六人の姿が見える。列車から見えた近代風の建物や和風の建物も見てきた。直文と依乃がやってきて八人が揃うと、門が開き始める。

 音を立てて開いていく中、広がっていく隙間から石畳の道が見えてくる。完全に扉が開き、石畳の道以外に建物と風景の詳細が見えた。

 中を確かめるために、少女たちは入っていくも奈央と真弓は真っ先に気になったのか、先に敷地内へと入る。


「わぁ……」

「すごい……」


 奈央と真弓は目を輝かせていた。依乃も門をくぐり、敷地内へと入り目を丸くした。

 彼女たちの視界に映るのは風情あるオフィス通りだ。京都のように日本伝統の建物と現代の建物が混ざっている。古さの風情と雰囲気は奈良に近い。綺麗に舗装された道にはゴミなどもなく、季節に合わせて枯れ葉だけが地面に落ちていた。

 左に首を向けると先程見えた高級ホテルにも似た建物が離れた場所にある。右に向けると、和風の建物は遠くにあった。


 図書館、体育館、大きなプールなどもある。商業施設や公共施設も整っており、一種の街とも言える。


 花壇には秋の時期に相応しい花々。街路樹は紅葉とイチョウの木であり、色とりどりの落ち葉が道を覆う。奥を見ると、また趣の違う高い鉄柵と門が奥に見えた。西と東、真ん中にそれぞれ大きな欧風式の建物だ。

 八一が奥の建物に向けて指をさす。


「奥が本部、ここは居住&宿泊スペース。私達もここに住んでいる」


 依乃たちがいる場所を指差し、奈央は開花した向日葵のように驚く。


「えっ!? 八一さん、住む場所多くない!?」


 京都には実家があり、静岡にはシェアハウスに住んでいる。そして、組織の本部。驚かれたことの内容については、直文たちにも言える。奈央の八一は楽しげに笑っていた。


「あっはっはっ、お嬢さんのリアクションは本当にサイコーだ!

まあ現実的な話をすると、長い目で見て現世で定住している訳にはいかない。歴史あるお家とかを受け継いでいるわけじゃない。私達は長く生きる生き物『半妖』だ。私達は基本的には人の世も、妖の世も、神の世にも受け入れ難いゆえにここがある。

さっ、皆々様! 辛気臭いのは後にして、本部へと向かいましょうか!」


 柏手を打って八一はおどける。直文と啄木と澄は呆れ、茂吉は「はーい!」と元気よく返事をした。澄以外の少女はついていけず、呆然としていた。

 歩いているうちに、欧風式の建物がある前まで来た。八人が揃うと門が開き始めた。前の出入口と同じ仕組みに驚きつつ、鉄格子の門が開いていくと建物へ向かうレンガの道脇にて多くの人が並んでいた。ずらりと執事やメイドなどの男女が頭を下げて出迎える。


「「「おかえりなさいませ。そして、ようこそ。組織『桜花』へ」」」


 ハモって言われ、少女達はびっくりした。直文達は呆れていると、彼らに声がかかる。


「このメイドと執事の全員は式神。我らがクソ上司のおふざけです。驚かせて申し訳ございません」


 凛々しい声が響き、パチンと指を鳴らす音が聞こえる。音と共に式神は人型の紙となり、八人の真正面にいる男性へと集められた。その男性は直文にも劣らぬ容姿端麗、眉目秀麗である。スーツ姿で艶やかな青紫色の髪を後ろに結んで流している。

 緋色の瞳は穏やかな色を湛え、左手の薬指に白銀の指輪をしながら彼は一礼をする。


「ようこそ。『桜花』へ、我らが組織のトップは急な仕事によりしばらく戻りません。その代理として、案内させていただきます。私は山崎一葉やまざきいちようと申します。半妖でそこの彼らの先輩でもあります。よろしくお願いいたします、皆様」


 丁寧な自己紹介とキレイな所作。美形がやるからこそ眼福というものがある。奈央、依乃、真弓の三人は頬を赤くして、見惚れていた。

 奈央は興奮し、八一を小声で呼ぶ。


「八一さん……八一さん……! かっこいい……かっこいいよ! ……山崎さん!」


 八一は拗ねたように唇をとがらせる。


「……そりゃ、組織公認の美形だし……あと、先輩は既婚者で子供もいるぞ? 奈央」

「狙ってないよー。でも、見てるだけですごく眼福ー!」


 両手拳をブンブンと振って、興奮の度合いを示す。そんな友人に依乃は苦笑をしたあと、自己紹介をした。


「えっと……こんにちは。私は有里依乃と申します。よろしくお願いします」

「あっ、すみません! 私は田中奈央です! よろしくお願いします!」


 親友が自己紹介したのを見て我に返り、すぐに自己紹介をする。


「………………はっ! すみません。私は三善真弓です。よろしくお願いしますっ!」


 魅入られた状態から我に返り、頭を下げて自己紹介をし終えた。三人の自己紹介をする姿を見て、一葉は頷く。


「ええ、よろしくお願いします」


 頷いた後に一葉は目線を直文たちに向け、面白そうに微笑む。


「ふふっ、とても魅力があるお嬢さんたちではないか。なぁ? 直文、八一、啄木」


 名を言われて三人はビクッとし、それぞれ目線をそらして気まずそうに笑う。


「……ええっ、まあ、はい」


 直文は腕を掴みながら苦笑し、八一は頭を掻く。


「とっても魅力的ですよ。ええ」

「俺はともかく……一葉先輩に話すことはないかと思いますが……」


 啄木はげんなりとしたように言うが、先輩である彼は愉快そうに四人へと目を細める。


「いやぁ、話すことはあるだろう。今日は泊まっていくのだろう?

どんなことがあったのか、赤裸々に話してもらおうか。酒と肴を持っていく。四人とも今夜は付き合え。逃げたら、就寝中にクロコダイルのオオバサミがお前たちを襲うと思え」


 先輩の発言に四人は顔を青ざめた。ちなみに、クロコダイルのオオバサミとは拷問器具である。興味がある人だけ検索しよう。拷問器具と聞いて危機感ある人は検索しなくて正解である。

 一葉は呆けている依乃たちに目を向けた。


「さて、その前に安吾から話を聞いていた少女たちの診察を優先としましょう。有里さんと田中さんもこの際です。受けてみてはいかがでしょうか?」


 言われ、依乃と奈央は顔を見合わせる。体質的な問題と狐憑きの状態を見れるならば、今がちょうどいい機会なのである。顔を見合わせるのをやめ、二人は頷いた。



 建物の中は建物の通りであるが、一部が改装されており、内装は現代に合わせたものとなっている。荷物は式神に渡し、手配した部屋まで運んでくれるという、一葉に詳しい話をするために、茂吉と澄は応接室に向かった。

 一方の六人は医療関連の区画へと案内された。

 医療関連ある区画から渡り廊下をくぐり、部屋の中へと入っていく。雰囲気は変わり、清潔感あふれる白とベージュの空間となる。

 病院や委員で見かけるポスターなどがあり、携帯電話の使用も控えるよう訴える看板もあった。

 入口近くに受付にソファ、自動販売機。奥のネームプレートにはMRI専用の区画。手術室や地下には専用の治療室など。大学病院と然程変わらないほどの設備が整っている様子に驚く。

 啄木に指定された診察室で待つよう言われ、五人は近くの診察室近くにあるソファに座る。靴音が響き、彼らの元に啄木がやってくる。

 白衣とスクラブをズボンなど私服から仕事着に変えた。髪をしっかりとまとめ、眼鏡も変えている。ボールペンをポケットに入れ、啄木は五人に声をかけた。


「お待たせ。さあ、検査を始めようか。まず先に有里さんと田中さんからな。検査と言っても採血と診察だ。直文と八一も付き添いで入ってこいよ」


 呼びかけ、名を挙げた四人が立ち上がる。啄木は真弓に待つように頼み、彼女が了承したのを見た後に部屋へと入っていく。

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