9 招かれざる者たち
[ひっいぎぃ……]
苦しい悲鳴をあげる高久をみて、悪路王は笑っていた。
「ったくよー。この狸、へましやがって。そんだけ、あの狸くんの組織が優秀すぎるってことかね」
友人のようにフランクに話しかけるが、調子と行動が伴っていない。茂吉は男を
「お前が、俺達について漏洩しなきゃよかっただけだろう」
「そりゃそうだな。でなきゃ、この狸と一部の人間に実害はなかった。けど、俺としてはラッキーなんだよ。悪い妖怪と悪人を減らせたんだから、お前らの組織からしても万々歳だろ?」
「……お前はわざと俺達の存在を明かして、裏稼業の人間を減らしたのか」
茂吉は驚かずにいられない。わざと漏洩させて、彼女を狙おうとする輩を茂吉に排除させていたのだ。怪異をとりつかせたのも、確実に仕留めさせる意志を定めるため。
悪路王は朗らかに肯定した。
「正解。やり方の種を明かせばきりないけど、俺自身の目的はこんな奴らの排除なんだよ。ほら、ゲロ以下のヘドロはレンガとかに変えて再利用できるだろ? こう言うやつほど、厄介事の生贄にするのがいいんだわ。嫌なやつほど擦り切れるほど利用して、ナンボナンボ。ははっ、まあ、悪の名がつく俺が言うのもおかしいだろうが──」
笑顔を消して彼は高久を
「今の俺、こう言う悪い奴がだいっきらいなんだわ」
[ぎぃぅっ……]
高久の更に苦しむ声が聞こえた。
主に、悪路王は残酷非道という性格であると、後世に伝わっている。様々な人柄の悪路王が生まれるとはいえ、悪人じみた性格は強く出る。
しかし、茂吉の目にしている悪路王は、楽しさで高久を苦しめていない。独善ではあるが、人としての許せない気持ちが伝わってくる。悪路王らしからぬ感情に茂吉は目を丸くし、警戒心を露わにした。
「……本当に悪路王なのか? 俺の知る悪路王はとことんまで悪人な性格していた」
悪路王は高久を地面に投げ捨て、苦笑してみせた。
「ん、だろうな。けど、今の俺は違うんだよ」
意味深な物言いに茂吉は眉をひそめ、悪路王は高久の目の前に来る。気道を狭まれていた故、高久は咳き込んでいた。悪路王がしゃがんで高久と顔を見合わせる。
「高久くんは自分の位を高めたくて、金長狸を利用しようとしたんだよ。けど、まさかまさかの末の末っ子が邪魔をした。しかも、半妖で自分より地位が低いはずなのに強かった。邪魔された。腹立つろ?」
[……っ! そうだが! なぜです!? ここまで追い詰められるとは、聞いてない……! 半妖の癖に、我が父と同等の力を持つとは……聞いていない。悪路王殿が……貴方様がとおるという娘の存在を教えて利用すれば俺の地位が上がると聞いたのに……っ!
相手を守る半妖がいることは聞いたが、ここまでとは聞いてないっ……!]
「言ってないし、言うつもり無かった。だって、俺は」
悪路王の手によって高久の胸が勢いよく貫かれた。茂吉は眉間にシワを寄せる。高久は悪路王から受けている仕打ちを理解できていない顔であった。
「お前を利用して、あの狸くんをぶっ倒してもらうつもりだもん」
悪路王は口元を緩め、高久は目を見張った。
[あっ、ぁぁあぁぁ──]
体がビクビクと
高久の体は膨れ上がる。細胞分裂が早いらしく、盛り上がった肉塊を作り上げていく。悪路王は茂吉の戦闘態勢に笑みを浮かべ、立ちあがって高久から手を抜く。
「こいつに
もうこれ以上、手出ししねぇし。挨拶代わりに十分顔出しできたから良しとするわ」
茂吉は既に地を駆けて斧を振る。しかし、悪路王はにこやかに笑っていた。
「俺は応援しているぜ。頑張って倒せよー!」
斧の刃は透き通り、悪路王は体を透明にしていきながら宙に溶けて消えていく。斧は地面に突き刺さり、茂吉は舌打ちをして悪路王の消えた場所を
血の繋がった異母兄弟である高久の姿は跡形もない。盛り上がっていく肉塊からは無数の手足がはえ、多足生物のように動き始めた。
大きな芋虫の形となり、頭部に大きな口が開く。茂吉を姿で捉え白い歯でにたっと笑い、口を開けて透明な糸を無数に作り出し。
[アヒャ非ya否ゃ泌ャ卑ィ、あはっ、アハッ、亞はっ、あ破腫覇HAHAHAhahaha縺ッ縺」縺ッ縺」縺ッ縺」繝上ャ繝上ャ繝上ャ繝上ャ!!]
濁った笑い声とも取れる悲鳴を上げた。
「こんな大物を相手にするの久々だな」
だが、愉快げに口角を上げて斧を構える。
「けど、いいよぉ。俺のストレス発散に付き合ってよ」
口調は媚売りだが、明らかに目が笑っていない。
振り返って、様子を見る。
その再生した肉は触手のように伸び、茂吉に襲いかかってくる。
「
斧に紫色の光がやどり、茂吉は一振りでその触手を断ち切る。断ち切られた触手は再生することなく、
茂吉は切り裂いて、すぐに着地して大きく離れた。真ん中から二つに裂かれ、血が噴水のように溢れ出し、地面を汚す。
裂かれた肉はくっついていき、元の姿に戻る。
[蜉ゥ縺代※鬟溘o縺帙m蜉ゥ縺代※鬟溘o縺帙m蜉ゥ縺代※鬟溘o縺帙m雖後□雖後□縺励↓縺溘¥縺ェ縺!!]
口を開け、濁った声を上げる。茂吉はその姿を見つめ、分析をしていた。
「やっぱり、再生能力は高いか。核となっている物を一気に叩かないと倒せない仕様か」
確認をし終え、茂吉は息を付いて核となっている部分を目で探す。後ろのだけ異様に膨らんでおり、そこから力を発しているのがわかる。核となっている部分を発見し茂吉は不敵に笑って斧を構え、楽しそうに笑う。
「ああ、とことんまでミンチにしてもいいってことだね? サンキュー、させてもらうよ」
足に入れる力を強くし、茂吉は地面にヒビが入るほど蹴り出す。切り落とされた触手はやっと再生し終え、触手は茂吉に襲いかかるも斧が軽々振るわれて小刻みにされる。
斧は振りが大きく隙きが多い。茂吉は隙すら見せないほど斧を素早く振り回し、隙が出来たときは手斧で補う。
茂吉が振り向きざまに、手斧を投げつけた。
[〜〜〜っ!?]
大きな切り傷は肉が盛り上がって再生していたが、途中で止まる。傷ついている触手も再生することなく、爛れてボロボロとその肉を地面に落としていた。
「あっ、効いた。あの手斧自体に再生能力を逆転させるものかけたから、傷は治らない程度かなぁと思ったけど、予想以上に再生能力を主にしてたのかぁ」
言霊を吐こうとするが、茂吉は笑みを消す。周囲は変わった様子はないが、何処かで別の力が
「……はっ……!? ……
[鬢後□鬢後□鬢後□縺秘」ッ縺?縺秘」ッ縺?縺秘」ッ縺?──!!]
歓喜とも取れる声で、蛇のように
すぐにまずいと感じて、茂吉は駆け出していった。
屋根の上を走り、木々を飛び越えた。浜名湖橋が見える場所まで来る。橋を渡ろうとしている紫陽花の少女を見て茂吉は目を丸くし、地を強く蹴った。
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