ex 任務お疲れ様 第一回桜花反省会

 ある居酒屋にて。直文と茂吉ともう一人で打ち上げをしていた。


「任務お疲れ様! 第一回桜花反省か」

「ああぁぁぁぁ~~~!! もうやだぁぁぁ~~~っ!!」


 だんと机を叩く音と声高な叫びで、茂吉の言葉を遮る誰か。茂吉は隣にいる相方にドン引く。空のコップを手にカウンター席で顔を突っ伏す直文。赤い顔を上げて、涙目で口から諸々思いを吐き出していく。


「俺なんて最悪っ……もーいやだぁぁぁぁっ────!!!

影から見守るつもりが、何であのくそ上司は余計なことをするのかなぁ!?

あの子にはあの子の人生があるのに、何でそこに俺を入れる真似をする。そりゃあ、あの子が俺を好いてくれるのは嬉しいけどそれはそれだっ。彼女の選択肢の幅を狭めるなよ。組織に関わらせるなよ。あんのくそじょぉしぃぃぃ────!

今度こそぶっ殺してやるっ!!!」


 泣いたり、愚痴ったり、怒ったり。百面相をして荒れる直文に茂吉は戸惑う。


「酒くさっ! えっ、何で初っぱなから酔ってるの?

直文。綺麗な顔が台無しだよ? あと、ある程度アルコールに耐性あるはずだし、俺たち普通のお酒でそう酔わないはずだよ!?」


 店内に人が少ないのが救いだろう。ここは桜花が運営している一つの居酒屋。オーナーは組織の関係者であり、半妖もやって来ることは多い。店内は昭和漂う趣があり、壁にはメニューが並ぶ。

 茂吉は直文の近くにある酒のボトルを手にして見る。『桜花産 神殺し』とラベルが貼られていた。容易火がつくほどのアルコール度数であり、一部にしか提供されない。神すらも容易に酔わせる組織が作り出した酒。直文もこれを飲んで酔ったらしい。流石の茂吉も慌てていた。


「ちょ、誰がこんなもの寄越したのっ!? これじゃあ直文も当然酔うよ!」

「もっくーん……」


 直文はメソメソと泣きながら、相方に目を向ける。


「俺さ、彼女を長い間見守ってきたって言ってるけど、それってストーキングでストーカーじゃん。犯罪じゃん。もしもしポリスメン案件じゃん。……いやもうこの組織にいる時点であれなんだけど俺ってさ本当にバカ……。いくら彼女が気にしなくても俺が気にするんだよね……。どうすれば良いかなぁもっくん。辞世の句を読んで、切腹した方がいいかなぁ……? 介錯頼むよ……」

「重症だし、時代遅れだし、俺は自殺幇助なんてしたくないよ? なおくん」

「……じゃあ、自分で」

「なんでそっちの方にいくのんだよ。もっと別の方法があるだろ」


 相方に突っ込みながら、彼は頼んだ赤ワインを口にする。泣いてはいるが、酔うと直文は泣き上戸になるのではない。今まで溜まっていた想いが、酒によって暴発していた。グラスをおいて、生ハムと言う肴を手に茂吉は呆れた。


「継続して見守る訳じゃないんだろ?

もう名前を取り戻したんだから、お前のお守りだけで十分なんだろ? なら、もう気にすることないじゃん」

「……そうなんだけどさ……。普通に人として生きたはずが、俺たちの方に巻き込ませちゃうなんて……よくないよ」


 ぼろぼろと涙を流す彼に、茂吉は溜め息を吐く。相方に何があったのかを茂吉はよく知っている。間近で見ている為、相方の情けない姿を見るのは嫌であった。


「なら、自害そっち以外の方法にしなよ。それ以外なら責任取れるでしょう。直文」

「……そっか、結婚」

「そうそう、結婚………………………………はい?」


 茂吉は耳を疑い、直文に首を向ける。赤い顔のまま、彼は勢いよく立ち上がって拳を握る。


「そうだ、そうなんだ。やはり、そうなんだよっ!

来年で彼女は婚姻できる歳になるじゃないか。誕生日と同時に婚約指輪をプレゼントしてプロポーズをすれば問題なしだ。そうさ、日本は法治国家! 法律さえ守れば、責任をとって彼女も結婚可能! ばんざーいばんざ──……あっ」


 暴走する直文が急に後ろに倒れようとする。相方を受け止めて、茂吉はカウンター席に座り直させて眠らせる。茂吉は眠りを誘う言霊を使用した。茂吉はグラスを手にして、瞼を閉じて寝息をたてる相方に呆れる。


「結婚は流石に早すぎるだろ。世間体を考えなよ。直文」


 グラス底を彼の頭にグリグリとつけて回す。直文は悩ましい声を上げて、茂吉は苦笑してグラスに残っているワインを飲み干した。カウンターの向こうにいる女性に声をかける。


「美代先輩。直文が目覚めたら、和らぎ水をよろしくお願いします。俺はワインを追加で、アヒージョを一つよろしくお願いします」

「はぁい、けど、茂吉。貴方が飲むなんて珍しいわね」


 注文をして、居酒屋の女店主に言われる。茂吉は空のグラスをおいてツマミを手に白い歯を見せて笑う。


「俺でも、飲みたくなることはありますよ」


 彼の一言で察したのか、女店主は瞬きをして微笑む。


「そう。ああ、そうだ。直文が飲んだお酒の代金は隣の彼持ちだから、気にしないでね」


 一言おいて去っていく。女店主の言葉に茂吉は首を横に傾げる。が、直文の隣に座る人物を見て茂吉は全てを察する。


 フードとサングラスをした男性。彼はウイスキーをロックで飲んでおり、Vサインを茂吉に見せていたのだ。


「飲ませたの、お前かよっ!?」


 店内には盛大な突っ込みが響いたと言う。



 後日、直文は二日酔いに苦しみながら己の失態に頭を抱える。心情的にはすっきりしたが、この出来事は彼の中では黒歴史にランクインするのであった。




🎆 🎆 🎆


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