8 破壊し終えた後
真弓は術を発動し終えて、燃えたあと建物を見る。燃えた柱や倒壊のあともない。かつてここに住んでいたはずが跡形もなくなるの見て、彼女は疲れたように項垂れて地面に腰をつく。
「っ……ううっ……!」
怪談の一部とはいえ、今までの行為に真弓は泣きそうになった。
「真弓、大丈夫か!?」
声が響き、啄木が空から降りて来る。
地面に降り立つと慌てて駆け寄り、目線を合わせた。真弓は顔を上げて涙目になり、彼にすがる。人が倒れていく中で住んでいた家を放火した行為に罪悪感が湧いて苛まれていた。申し訳なく啄木は彼女を抱きしめて背中を撫でる。
「……嫌なこと、頼んで悪かった。けど、今回はよくきばったな。偉いよ、真弓」
「っ……う……次は……あんなことしたくない……」
「ああ、やらせないようにする。けど、協力する際は内容ぐらいは聞けよ? それで、判断を決めるようにな」
啄木は気持ちに寄り添う優しい説教をし、黙って何度も真弓は頷いた。地面から鈍い音が聞こえる。
真弓は気づいて、周囲に首を向けた。コンクリートの道路にヒビが入り、田畑や家の敷地の地面が揺らぎ始めた。
「悪い。お前を抱えて空へ避難する。この現象は
「う、うん」
「そうだ。飛ぶ前に飴を舐めとけ」
「うん!」
真弓はポケットからもらった飴を出して、袋を開けてなめていく。啄木は彼女を抱え直し、お姫様抱っこをした。真弓が飴を口に入れて、ゴミをポケットにしまう。真弓が啄木の首に手を回すと、宙に浮き始めた。
「
啄木は言霊を吐き出し、彼の足元から一雫の白い光が落ちる。それが字面に落ちると、啄木は力ある言葉を出す。
「
言葉とともに光がヒビの間から漏れ、光が全てを村を飲み込む。真弓は
村からがだいぶ離れていく中、風が当たった。
「──継紅美村は消えた。けど、真弓。目の前見てみろ」
真弓が
「──わっ……!」
真弓は山の上にいる。少しずつ上昇していく中、涼しい山風が二人の肌を撫でる。
山の頂上よりも高い。目の前に見える
遠くからでも工場地帯の明かりがわかる。通ってきた道路の近くにある家々やとマンションの明かりが真っ暗な夜を照らす。街の明かりと空の明かりで
三保の松原のある三保半島を見つけ、夜目にもなれると富士山も見えてくる。
真弓達が過ごしている静岡の夜の街が見えた。目にしている風景に真弓は嬉しそうに声を上げた。
「すごい……すごいよ……! 啄木さん!」
はしゃぐ彼女に啄木は楽しげに微笑する。
「空にいるのに度胸あるなぁ……。まあ、気分転換になったならよかった。度胸があるなら、空見てみなよ」
「空? ……あっ……!」
真弓は空を見上げ、瞳に写る光景に笑顔を浮かべる。一等星や二等星などの大きな星だけではない。
月の明かりが少ないおかげで、真弓の視界には多くの星の瞬きが見えた。光の強弱が更に星にも命があるのだと感じさせる。小さい輝きと大きな輝きが遠くにある地球に対して、ここにいるのだと主張していた。
すなわち、満天とも言える星空が真弓たちを見下ろしているのだ。
山の中の綺麗な場所にいるからか、細かな星も見える。真弓は見つめ続け、瞳から一粒の涙を流した。啄木はびっくりし、声をかける。
「っ大丈夫か? 真弓」
「……えっ、あっ、だ、大丈夫。……さっき怖いの我慢して、気を張ってたからその気がちょっと緩んだだけ……だよ……」
「……それは…………まあ俺のせいもある。悪かった」
謝罪をし、啄木は申し訳無さそうに話す。
「詫びと言ってなんだけど、十月上旬頃に
「えっ、いいの? じゃあ、和紙と墨汁と線香!」
「却下」
にこやかに啄木は即却下した。
明らかに陰陽師の仕事に使うものであり、女々しく合ってもいいし、食い気があってもいい。物が陰陽師に傾倒するのは真弓らしいが、もう少し気楽なものを頼んでほしい。啄木だけでなく、葛と重光も同じように思っていた。
真弓は不服と訴える顔をする。啄木は仕方なさそうに話す。
「……代わりに、映画とかご飯に付き合うなんてどうだ? 商業施設以外の街も見どころあるしな」
「……じゃあ、それで」
「それでって……お前なぁ……不満げに言うなよ」
呆れた彼に、真弓は表情を柔らかくした。
啄木は住宅のある地域の人気のない場所に降り立つ。変化を解き、啄木は真弓を下ろして背伸びをした。山の中の空気は澄んでいるが、山の中にある町特有の明かりの少なさは怖いものがある。
啄木はスマホを操作し、スピーカーにして真弓にも聞こえるように電話を始めた。
「もしもし、葛か?」
《……あっ!? 啄木さん! 妹は……》
「大丈夫。無事だし、ちょっとお叱りもした。……送った画像と音声、報告できる分の証拠だったか?」
《はい。協会に十分提出できるほどです。重光にも確認して貰いました》
自分たちの顔が映らないような位置で、真弓には映像を撮らせた。協会に提出しても問題はないが、啄木は黙って考えるように電話の画面を見る。
《……啄木さん?》
「ん? ああ、悪い。葛。後で、重光と一緒に話したいことがある。その前に、真弓に代わるな。はい、真弓」
急にスマホを向けられ、真弓はびっくりして声をかけた。
「えっ、あっ、もしもし、お兄ちゃん!?」
《っ……真弓っ。良かった。何もなかったか?》
「うん、本当に何もないよ。ちゃんと村の破壊を見届けてきたよ」
《……そうか。良かった。啄木さんのおかげだな》
嘘言わずに話し、真弓は兄のホッとした声をきいて安心する。啄木はスマホの画面に顔を向けて話す。
「葛。今、
《はい、
「俺達もすぐ近くに来てるんだ。合流するから待っててくれ。
《わかりました。……今日は本当にありがとうございます。鷹坂さんという方にもお伝えしてください。では》
「ああ、じゃあまた後で」
通話を着ると、啄木の横に人が現れ微笑む。真弓を導いていた安吾であり、急な出現に彼女は驚く。電話を見て、安吾は照れくさそうに頭を掻いた。
「感謝されちゃいました☆」
「あっ、そ」
素っ気なく返し、啄木はスマホをまた操作をし耳に当てる。素っ気ない反応が気に食わなかったのか、安吾は拗ねた顔をする。
「ちょっと、ぼくぼく! 僕が少しふざけただけでそんな素っ気ない反応」
「もしもし、
「っ!? 先生に電話するのはやめてくださいっ!!」
先程のふざけようはどこにいったのか、安吾は激しく動揺し啄木の携帯を取り上げようとする。電話をしようとする啄木はヒョイッと避けた。安吾は相方を捕まえようとするが、中々捕らえられない。耳からスマホを放し、啄木は画面が通話中でないことを見せた。
「あーほ。こんなやらかし程度で、組織の誰もが
不敵に笑う啄木に、安吾は目を開けて汗を流して困ったように笑う。
「……っ!
「お前の日々の行いがそうさせてるんだよ。マンゴー」
「僕は安吾です!」
「そうだなー、マンボー」
「
「お前も方言でてるぞー」
「
静かな山の中に啄木と安吾のやり取りが響く。いつものやり取りが目の前で行われるのを見て、真弓は笑ってしまった。
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