10 目的何 自願自×
八一はハイキングコースからずれた山中に降り立つ。
「
人が来ぬように人避けの結界を一応張っておく。町中で暴れるよりかは、山の中がまだ安全だ。雨も激しくなっていき、彼は息をつく。
「激しくなる雨の中をハイキングコースを楽しむのは、一部ぐらいかな? なっ」
彼の背後で勢いよく人が着地した。斧を手にし、ゆっくりと立ち上がる。顔を上げて、八一に
斧が振るわれ、彼は大きく反り返して避けた。八一はそのままバク転をして地面に着地する。濡れた地面に足を取られず、彼は斧の男を見直す。
相手は斧を構え直して足に力を込めた。
八一は横に体をそらす。彼のいた場所に、斧が突き刺さった。八一は数歩離れて、鞭を出し振るった。斧の男の手首に鞭の紐が巻き付き、八一は鞭を引っ張る。
「っ!」
斧が容易に触れなくなり、八一は言霊を使用する。
「
八一から一瞬だけ電流が
「────────……っ!!」
目に見えるほどの電流が男を襲い、相手の声なき悲鳴が上がる。
八一は眉間に
「このバカたぬき。早めに
電流を止めると膝をつかず、斧を支えに立ち続けた。簡単にやられない様子に八一は舌打ちをし、斧の男に強く引っ張られる。
「っ!?」
高く投げ飛ばされ、八一は目を丸くする。空いている片手で斧を掴むのを見て、すぐに鞭から手を離して、太い木の幹に足をつく。腰についている
動きは鈍いが、まだ動ける。力を使っていないのが救うだろう。力を使っていた場合、土台である山が持たない。
相手は斧で殺す事のみ執着している。怪談通りの『おのたぬき』だ。
八一は幹を蹴り、距離を離す。着地した瞬間に斧の男は既に駆け出して、斧を構えている。斧が振る前に相手はびくっと反応し、八一も「おっ」と声を出す。
斧の男は足を止めると、太刀が目の前に刺さった。
寸前で、男は踏みとどまる。
斧の男は後ろに大きく下がり、近くに啄木が空から降りてくる。太刀を手にして消し、啄木は手にしている水筒を投げ渡され八一は受け取る。
「これ、聖水入ってるからタイミングを見計らってブッかけろ。今はトリッキーな武器しか持ってないくせに、無理して白兵戦相手に挑むな。あとは俺がやる」
「おー、流石は
「褒めてる場合じゃないだろう。八一」
「あっはっはっ、悪かったよ。……けど、正直助かった。ありがとな。啄木」
感謝され啄木ははぁと息をつくと、腰にある二つの
「相手は斧。こっちは
「……了解。隙を窺うから」
八一は大きく下がり、風景に溶け混んでいく。姿を隠して気配を潜めてたのだ。彼の姿が見えなくなると、啄木はゆっくりと斧の男に歩み寄る。
相手は斧を両手で持って、駆け出した。斧が啄木に振るわれようとするが、彼は足を広げ大地を強く踏む。
ぎぃんと大きな鈍い音が響く。ガチャガチャと二つの
さらに鉄のぶつかる細かい音が小刻みになる。互いに武器を弾いて、後ろに下がった。啄木に大きく斧をふるい、避けていく。その度斧で樹が真っ二つに割れて、薙ぎ倒されていく。多々標的を狙うだけのものに、啄木は冷静に分析をする。
「……思考の単純化が見て取れるな。怪異の影響か……?」
避け続けて『おのたぬき』を引き剥がすタイミングを伺うが、相手の影が揺らめく。
声がした。
【た す け て た す け て た す け て】
啄木は声に気付き、目を丸くした。怯えた子供の声だった。その声は啄木の存在に気づいて何度も影を震わせる。
【たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけぎぃいやぁ!?】
揺らめく影を斧の男が斧を刺して黙らせた。妖怪や怪異が助けを求めることは少ない。あったとしても、騙し討ちする程度。啄木は距離をとってすぐに相手を見た。
「……お前、まさか、わざと『おのたぬき』を……」
「Grrr……」
仮面越しから漏れる
「自分の目的の為には手段を選ばないのかよ……」
息をついて彼は姿勢を整えた。
斧の男はすぐに斧を振り下ろしてくる。
避けた途端、横から再び斧の男の刃が勢いよく来る。素早い切り返しだが啄木も負けてない。二つの
斧の男は悔しげに
「……お前の守りたい思いはわかるが……」
啄木は
「お前、目的果たした後を考えてるのか」
「ガァるぅぅぅ……!」
「……いや、お前だから用意はしてあるだろう。けど、お前はちゃんと澄ちゃんの為に考えてるのか?」
「……!」
斧の男がビクッと揺れ、
「俺達、教わったろう。やるならば『
「……っ……! ……ゔぅ……グウルごがぁぁっ!」
斧を手に駆け出し、啄木に
怪異自らが助けを求めている時点で、わざと『おのたぬき』の怪談を取り込んだのだろう。力を使って取り込んでいる以上、容易には剥がせない。隙さえあれば、茂吉から怪異を剥がせる可能性がある。茂吉の気をそらせるものさえあれば、隙を見せるだろう。
高島澄を利用する。確実ではあるものの、危険な手である。茂吉は澄を巻き込むのを望んでおらず、この案は却下とした。
啄木が距離を取ると、風が吹く。
《啄木!》
啄木の耳元で八一の焦った声が聞こえ、いら立ちを見せた。
「っ!? こんな時になんだ!」
声を上げるが。
《高島澄ちゃんがこの
啄木は言葉を詰まらせた。八一からの風の報告は現状で最悪なものだった。
「……おい、待て。今の報告。最悪だぞ……!? 茂吉は、狂っている上に自ら怪異を取り込んでいる! そんな状態で今の聞かされたら、あいつの目的が
斧の男は斧を飛び上がって木々を飛び越える。風の報告を聞かれていたらしく、啄木は舌打ちをして空を飛んで後を追う。
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