23 白沢と白椿
命あるものに襲いかかる『海人間』は、神獣と呼ばれている啄木に襲いかかる。啄木は刀に宿した力で『海人間』の攻撃を捌き、宙に飛んで避けていく。
本当はすぐに海辺に行き、浄化のはずがタイミング悪く真弓が来てしまった。空に避難し遠ざけようと術を発動前に、復権派の陰陽師もやってくる。
止むを得なく、啄木は介入して真弓を助けた。彼女の気持ちの為にも復権派の陰陽師を助け、組織の仕事を続行した。
海辺では敵側の陰陽師と共に、真弓は術を放っている。
敵側は神将や天部。真弓は菩薩の力を借りて『海人間』を倒し、核となる魂を開放していた。『海人間』の数が多く、動きも独特であるゆえか術を当てることに苦労をしている。
直文は結界の展開に集中しているため、手を出せない。真弓は周囲に結界の札を展開させて、『海人間』の攻撃を防いでいる。
一つの札を天高く投げ、音を立てて合掌をする。
「千手観音様。ここにて力をお借りすることをお許しを。貴方の慈悲をもって哀れな魂をその多くの御手でお救いください。オン バザラ タラマ キリク ソワカ!」
天部や神将などの真言が多く使われるが、菩薩や如来などの力は強力である。真弓は菩薩の力を借りたのだ。
天高く投げられた札を中心に千にも近い麗しい手が現れ、光とかす。その光は周囲をてらし、当たった『海人間』たちの構成していた体が保てなくてなる。溶けるように水に戻り、砂浜に吸い込まれる。
白い蛍となって空に登っていった。光が消えると、砂浜にいる多くの海人間が倒されている。しかし、結界を貼りながらの力の使用は反動が大きい。真弓は砂浜に膝をついていた。
「っあいつ、無茶する……!」
啄木はぼやき、『海人間』の相手をする。
菩薩や如来の力を借りて
砂浜にいる『海人間』の数は減った。『海側』にいる海人間の数を減らす為、啄木は言霊を吐き出す。
「
手を薙ぎるように動かす。啄木の周囲にいる多くの『海人間』が瞬時に水に戻る。多くの白い蛍の光が空へと立ち昇っていく。砂浜を倒した数と海で倒した数を合わせて、半分ほど減っただけだ。
砂に膝をつけている彼女に向かって飛び、近くに降り立つ。
彼女を襲おうとした『海人間』を切りつけ、消滅させた。無茶するなと啄木は声をかけたかった。しかし、バレると恐れがある故に、声を出すことは極力避けている。
助けられたことに、真弓は気付いて顔を上げる。
「あっ……ありがとうございます……!」
啄木は何も言わず彼女を立たせた。太刀を納めて、『海人間』に駆け出していく。
多くの水の手を伸ばすが、彼が早く抜刀し瞬時に鈍い鋼色の線を多くを描く。水の手は細切れとなり、水がぱしゃんと音を立てて砂浜に落ちる。
手を伸ばしてきた『海人間』の胴体を薙ぎ払う。刃の向きを変えて再び切り裂く。啄木は多くの人の魂を開放させて空へと飛ばしていく。
舟幽霊とは異なる変性の仕方をしている。舟幽霊より厄介ではないが、数の多さと攻撃の仕方が厄介さを増す。
真弓が体勢を建て直し、札を放っているのを見て啄木はホッとしていた。
敵側の陰陽師の二人に目を向ける。天部や神将の力を
「っ畜生!」
口悪い陰陽師は声を荒げて、札を出す。もう一人は慌てて声を荒げた。
「っその札はナナシ様の少ない力の札だ! 無駄に使うなよ!」
ナナシの
直文が滅ぼしたナナシ。残滓も残ってないはずだ。ナナシの残滓と聞き、一番
「違う。それは、ナナシのものではない! 今すぐに手放せ!!」
声を荒げ、啄木は札から感じる邪気に気付いた。真弓も邪気に気づいて目を丸くし、口悪い陰陽師は札を掲げて訳のわらないといった顔をした。
「はっ?」
間抜け声とともに札が、黒ずむ。周囲の『海人間』は顔と言える部分をその陰陽師に向けた。人から餌付けされた鯉を想像してほしい。
餌付けされた鯉如く、『海人間』はこぞってその陰陽師に集り始めた。
「……っな……あっ!?」
創作怪談の『海人間』の体は海水である。その海水の体を持つものか集まること何を意味するのか。敵の仲間は何が起きているのか理解できず立ち尽くす。逃げ切る前にその陰陽師は海人間の中に呑まれた。
一つのドームのような形となる。
黒い札は『海人間』の中で溶けて消えていく。口と目を閉じて、その陰陽師は足掻いて外に出ようとする。『海人間』は命あるものを逃すはずない。閉じ込めてあがきをやめさせようとする。
「っおい……!」
仲間の一人が手を伸ばしたときだ。『海人間』に手をつかまれ、引きずり込まれる。近づこうとしては飲み込まれてしまうらしい。
「っ! させないっ!!」
真弓は退魔の札を投げ、『海人間』を貼り付けさせようとした。海水の体をしている故かびくっと震えただけ。札は飲みこまれ文字がにじみ、札の紙も散り散りとなる。
敵側だとしても、真弓は相手を助けようとする姿勢に啄木は言葉を失う。飲み込まれた相手と『海人間』をみて真弓は思いつたらしく、札をもう一度出す。
「っなら、これは!?」
札を投げ、取り込んだ『海人間』に札を飲み込ませた瞬間。
「解!
札が発光し、『海人間』は震えて弾けた。
飲み込まれたもう一人の陰陽師は助かり、砂浜に腰をついて咳き込んでいた。
内部で攻撃した。体内に爆弾を仕込んで爆発させたようなものだ。一つの白い蛍が空へと登っていくが、札を飲み込ませる時間がない。真弓は近付いて、札を飲み込ませて退魔の札を何度も発動させていく。
手に触れてしまえば、飲み込まれる。
先程の方法で『海人間』の数を減らしていくが、ドームの大きさが減っただけ。時間との勝負となるが、間に合わないと見ていい。
「がっ……ごぽぉ……」
口から多くの気泡を出す。上に浮かんでいき、真弓の雰囲気が絶望の者に変わる前に啄木が駆け出した。
「
小さく言霊をつぶやき、海のドームに銀色の一閃入れる。啄木は太刀を納めると、周囲のドームが弾けて水に戻る。男は倒れ、仲間が駆け寄る。砂浜に水が溶け込んでいった。
飲まれた男は咳き込み始め、仲間の男に背中を叩かれる。
砂浜から多くの水の触手が生えてくる。
全員は驚き、その水の手は四人に襲いかかってくる。
啄木が素早く動いて、『海人間』の水の手を切り裂く。真弓や敵の陰陽師に来ぬように刀を振るうが、数が多いせいか捌ききれない。
また白い蛍が出てこなかった事に啄木は気付く。
あの札は誘き寄せる餌だけではなく、『海人間』に進化を促した可能性がある。獣は頭や自らの特性を理解して狩りを行う。創作怪談の『海人間』も人形を保たず、自らの特性を利用しているのが特徴だ。札を用意したものは誰かはわからないが、意図が伝わり啄木は刀を握る手を強くする。
「……端からあいつらを殺すつもりだったか……」
敵側の陰陽師に妖怪を操る力はない。あったとしても、力を使う余力はない。『海人間』がただ狙うものならばいいが、知性を得たならば厄介だ。
舌打ちをするが、多くの水の手が真弓に向かっていく。
彼女は術の使用や戦いにより、疲れが溜まっていたのだ。三人の中で最も体力が削られ、狙いやすいと判断したのだろう。
真っ先に狙われている彼女を守るべく、啄木が動く。彼が飛び、厚い太刀の刃で水の手を切り裂く。攻撃を避けながらも多くの手が真弓に届く前に切り裂き、近くに降り立つ。
彼女の背後に邪気を感じ、駆け出した。また水の手が現れ、水の手が勢いよく伸びる。啄木が両手で太刀の柄を握り勢いよく振るう。
水の手は切れるが、勢いよく手を伸ばしたらしい。水の手が啄木の顔に衝撃が来る。
「っ!」
バチンッと音がするも、叩かれるぐらいで済んだ。しかし、顔に張り付いているものは軽い音を立てて砂浜の上に落ちる。啄木はまずいと顔を片手で押させた。
「……神獣さん!? ──えっ」
真弓が駆け寄って真正面に立つ。が、顔を押さえた姿を見て、驚きの声を上げられた。目を真ん丸くした顔からは動揺と驚愕が隠せてない。
彼女の反応から悟られたと気付き、ため息をつく。終わりだと、彼の中で悲しさと諦めが過ぎった。
「えっ……ウソ……な、んで……」
彼女は戸惑いながら、異なる姿をした彼の名前を呼ぶ。
「たく……ぼくさん……?」
彼は手を外し、彼女にその素顔を見せた。
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