🎐4−2章 梅雨前の交流記
『海原百鬼夜行』
俺の地元では祭をやる。供物を海辺近くの祭壇に捧げて、儀式をするんだ。なんでも『海原百鬼夜行』を治めるためにやるだとか。
小さい頃の物語風ではこんな感じで語られた。
『やってくる。やってくる。海からやってくる。
夜になるとやってくる。海の妖怪が陸に上がって百鬼夜行を作る。
柄杓をおくれ、柄杓おくれ。船幽霊が海から上がり、人を海へ引きずり込む。
ヤァヤァとヤァヤァと、声を上げて海坊主。陸に上がる際、大きな波を起こす。
べぇぇんと琵琶を鳴らす親父の海座頭。海坊主と共に人間を海に引きずり込もうとする。
腹が減った磯女の群れは、海近くにある家々の人間の血を求めていく。
他にも海に関する妖怪が、ざんざかいる。
多くの妖怪が現れる中、海岸に現れる牛鬼。奴らは海原百鬼夜行のリーダーのようなもの。
やってくるやってくる。海原百鬼夜行は何年か一度にやってくる。
海原百鬼夜行は人間を狙う。美味しい人間を狙う。
皆飢えている、飢えている。徒党を組んで近場の人間を狙おうとする。
海辺にある人間たちを食べて腹を満たした後、余さず人間の全てを食べようと遺体や骨を海に運ぶ。
させぬために、人間の食事を捧げる。餅や果物、野菜などをささげる。捧げて彼らが満足すれば、百鬼夜行はこれにておしまい。
しかし、供物がおいてある間は海に近づいてはならない。なぜなら、海には百鬼夜行がいるのだ』
こんな感じで語られてた。昔からある話だから小難しいように語られてるけど、これは子供向けの話に簡単に話してあるものだ。
要は「供物がある間は夜の海には近づくな。危ないぞ」て言う話なんだよな。
子供の頃は怖かったけど、今思えばそう大したことない内容だった。
今年も俺の地元では供物を海辺にささげた。
でも、そんなある日。よそから来たガラの悪い奴らが夜海辺にささげてある供物を奪おうとしたそうだ。
えっ、なんで、わかったかって? ……供物を奪おうとする輩がいる心配から監視カメラをつけているのさ。
被害があったかというとない。供物を捧げた翌日の朝になると供物がなくなってるから、心配はないんだけど念のためにって今年からつけたんだ。
ならおかしいだろうって? ……ああそうだ。
供物を捧げた翌日に供物がなくなってるなら、普通は奪われてるものだと思うだろうさ。普通は。
でも、カメラに写ったのは、供物を奪おうとした奴らが宙に浮かんで、供物諸共海に吸い込まれていく姿だったんだよ。そのガラの悪い奴らは海に吸い込まれたあと、海からあがってくることはなかった。
……とても、奇妙で怖い光景だった。きっとあいつらは『海原百鬼夜行』の妖怪たちに連れて行かれた。
祭りにもやる意味があったんだ。そこから俺たち地元民は夜の海、特に祭の日の夜には絶対に近づかないようにした。
けど、他所でも海岸で人が行方不明になる事件があるらしいけど、『海原百鬼夜行』が行われている可能性があるかもな。
いや、実際はないんだろうけどさ。あったら、怖いよな。でも、まあ、夜の海には気をつけろってことだ。
『海原百鬼夜行』
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