3 新たな出会い
相手は人であり、組織にとってはノータッチな相手。まず敵意はないと示す為に、直文は両手を上げる。武器や力を使う姿勢でない様子に陰陽少女は驚いて、彼は話し始めた。
「俺は彼女の味方で守護する者だ。今は、君達陰陽師の敵ではないと言おう」
「……今は、それはいずれなるってこと?」
少女の問に彼は頷く。
「そちら側が悪事をなさなければ、俺達はそちらを排除しない。だが」
彼の雰囲気が変わる。張り詰めた空気に背筋が凍るほどの殺気。陰陽少女は少し後ろに下がり、息を呑んだ。
「彼女に手を出したら加減なく殺す。これだけは言っておく」
恐ろしいほどの殺意を込めた氷点下の声色。その声を聞いて依乃は当然怯えた。本気の発言であり、陰陽少女は冷や汗を流して黙り、刀を鞘に収めた。武装する必要はないだろう。懸命な判断に直文は雰囲気を元に戻すが、警戒は崩してない。
「武器を納めてくれてありがとう」
「……納めざるおえません。本当に何者なのですか……」
困惑する陰陽少女に直文は人差し指を立てる。
「それは秘密。けれど、今は敵ではないよ。──お前もそのつもりだろう」
直文は背後に振り向いて顔を上げた。少女二人は噴水の方に顔を向ける。
噴水の屋根の上に人が降り立つ。いや、人は空からゆっくりと降りてこない。アッシュグレーの髪は公園の外灯で照らされる。髪の長さは直文と同じぐらいだ。白椿の髪ゴムで束ねていた。
牛のような長い角と獅子の耳、緩やかな毛を持つ尾を生やしている。ウインドベストの腰の両側には三つずつ裂け目からは人の目が見える。ベストの端やチャックには十字のチャーム。篭手をつけており、ズボンと革のブーツをはいている。
腰のベルトには二つの十手と1つの刀が携えられていた。顔には白い髭が生えた仮面。仮面の額には穴が空いていた。そこには一つの目が覗いており、瞬きをしている。単眼ではなく、仮面には二つ目の穴がある。
異形ではあるものの、放つ雰囲気は消して邪悪ではない。直文はその彼に話しかけた。
「ここに来たのは偶然か?」
「……職場近くで結界を展開されれば、何事かと駆けつけるだろ」
「ああ、それはごめん」
直文が謝り、相手はゆっくりと下に降り立つ。相手は間違いなく半妖。直文の仲間なのだろう。名前も知らないため、依乃は仮面の彼と内心で呼んだ。
新たな存在に陰陽少女は驚く。仮面の相手は陰陽少女を見て、声をかける。
「お前は陰陽師か。革命派とは違うようだな。ということは、穏健派か」
「革命派……その呼び名をするのは私の仲間たちだけ。穏健派というのは……?」
「──……こちらでの呼び名だ。気にしないでくれ」
一瞬だけ少女に黙って、仮面の彼は直文を顔を向けて話す。
「どうしてここに結界を展開した」
「怪談の『まがりかどさん』と類似した事件が都市部で多発している。怪談の人為的発生について、少々の検証したくてね」
直文話を聞いて、仮面の彼は察したようだ。
「……なるほど」
直文は陰陽少女に向いて声をかけた。
「でも、穏健派の陰陽師が動いているのを見て確信は近づいたよ。君は、君達と対立している陰陽師の残りを探しているのだろう?」
「……そこまで把握している貴方方……本当の本当に何者なのですか……」
彼女はため息を吐いて、頷いた。
「そうです。私は革命派の生き残りの捕縛を任されたのです」
目的の吐くのは、敵でないと証明するのだろう。直文と仮面の相手は予想できたらしく、話の流れを作るために仮面の彼は聞く。
「何故、革命派を捕まえようとしている?」
彼の問に、陰陽少女は訳を話しだした。
「それは、人々に危害を出す革命派の生き残りを取り押さえるためです。一年前の夏……私達と対立していた陰陽師側の活動が急激に落ちこみました。相手が祀っていた謎の神がいなくなって、増していた力もなくなった。勢力も削られて……私達には好都合でした。ですが、急に弱まったことに私達と陰陽師のトップは不思議に思いました。革命派の力ある陰陽師が何人も行方不明になっているのですから」
陰陽少女の話を聞いて、依乃は思い当たることが多々ある。
攫われかけて茂吉が保護してくれている間、直文が一人で陰陽師の勢力を削り落としたと。何処までは聞いてはいなかった。彼女から事の詳細を聞いて、一年前の直文がどれだけ怒っていたのか理解する。また自身にそれほどの価値をしてもらうのかと思ったが、言えば「当然だ」と返ってくる気がし依乃は黙る。
仮面の彼は自身の仲間に呆れて、顔を押さえていた。
真実を語らず、直文は陰陽少女に話す。
「なら、協力しよう。俺は彼女を守るために動いているんだ。俺も敵の生き残りを狙っているし、捕まえるならば君にも都合がいいはず」
「えっ」
陰陽少女は驚きの声を出す。思ったよりも話せる相手で驚いたのだろう。仮面の彼も直文の提案に頷いていた。
「いいな、それ。俺も付き合うよ」
「いいのか? お前の方の仕事は……」
「事務業務は式神でもできるぜ」
「そうか、ありがとう」
感謝をするが、置いていけぼりの陰陽少女は戸惑いながら声をかける。
「い、いや、あの。ありがたいですが……その……私には仲間がいますし……」
仲間がいる発言で依乃は疑問を抱いた。
直文は陰陽少女より確実に強い。仮面の彼も同じぐらいだろう。陰陽少女は見たところ依乃と同い年ぐらい。彼女の実力はわからないが、人を追いかけるならば一人でないほうがいい。複数人いた方が効率が上がる。
「……あのー……」
陰陽少女に依乃は声をかけた。
「? なに?」
「あのね、ここに来たのは怪しいからなんだろうけど、仲間がいるのにわざわざ一人でここに来る必要ある? 仲間と一緒の方がまだ安全だと思うよ。大丈夫なの……?」
聞かれて、陰陽少女はびくっと震える。
「……えっ……えっと……それは……」
布で隠れて見えないが、目線が泳いでいる気がした。
命の危険があるならば慎重になるのが当然だ。妖怪退治を生業としているならば、余計にわかるはず。直文と仮面の彼は専門職であるため、よくわかっているだろう。陰陽少女にありえないという目線を送っているようだ。
目線が集中すると、陰陽少女は声を上げる。
「っ……! 女の子が怪しげな奴と二人っきりなのは危ないと思ったから、助けようと思ったの。間に入ってみればまさか……味方と思うわけ無いじゃん!」
涙ぐむ声で言われて、直文と依乃は呆然とする。仲間に連絡せず、状況の様子見もせずに突っ込んで来たようだ。唐突に退魔の札が飛んできたのも、考えもなしに突っ込んだのだろう。
ごつんと陰陽少女の頭にげんこつが入った。陰陽少女が頭を押さえると、彼女の背後には仮面の彼がいる。表情はわからないが、雰囲気と声色で怒っていると伝わった。
「それって、考えもなしに勢いで助けようとしたってことだよな? 緊急事態でもないのに勢いで助けようとするな。一息入れて考えるってことをしろ。命を大事にしろ!」
「っ……! 頭を殴らなくても良いじゃないですかっ!」
陰陽少女は食いかかるが、仮面の男はじっと彼女の顔を見る。
「確かに良くないさ。加減はしているとはいえな。だが、死ぬかもしれない仕事をしているくせに、その勢いはいただけないからげんこつをしたんだ。その言いグセからして、同じ職業の人間から何回も叱られてると見た」
「ゔっ……」
陰陽少女はビクッと体を震わせた故に図星のようだ。
初対面の女子にげんこつを食らわす彼もなかなかだが、何度か命知らずに突っ込でいる陰陽少女はもなかなかの人間だと直文と依乃は考えた。軍配は仮面の男性に上がっており、依乃もフォローしようがない。陰陽師少女はふるふると体を震わせて、鼻を啜っている。泣いているようだ。
仮面の彼は二人に顔を向けた。
「二人共、原因の陰陽師と『まがりかどさん』をどうにかするんだろ。どうするんだ?」
質問に依乃は挙手をした。
「えっと、それは、私が囮になっ──!」
依乃は言葉を詰らせた。遠くから真っ暗なものを感じる。いくつかの黒く恐ろしいもの。渦巻くものは自体は弱いが数が多い。直文が抱き寄せて
周囲に黒いものが現れる。霞んでおり、姿を取れないようだ。思いたるらしく、直文は声をかけた。
「……『まがりかどさん』、『まがりかどさん』。そこにいらっしゃいませんか」
黒いものは姿を取る。フードとズボン。サングラスとマスク。顔がない人間の出来上がり。
〘〘〘 い ま す よ 〙〙〙
男女、子供、老人、四方八方から様々な声色の返事が同時に来る。ただの確認の呼びかけが、『まがりかどさん』を具現化させるとは思えない。そもそも彼らがいるのは噴水の大きな広場であり、曲がり角ではない。陰陽少女は戸惑いを見せる。
「っ……なんで『まがりかどさん』が集まって来ているの……!? 曲がり角でもないのになんで……!」
「陰陽少女。多分、あいつの彼女の霊媒体質が作用している」
「……ええっ!?」
仮面の彼に教えられて、依乃に顔を向けて驚愕していた。強力な霊媒体質は初めて見たようだ。後天的に得てしまった体質。内側と外側による直文の力で治まっているが外部を守るお守りが外れたことで、シェルターの中身がさらされた。
器として魅力的であるからか、惹きつけられてやってきたようだ。『まがりかどさん』が一気に直文たちに向かってかけてくる。
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