7 旅館到着
趣がある旅館につき、入口の前で八人は降りていく。受付で部屋の案内をしてもらう。
女子は女子で泊まり、男子は男子で泊まる。女子はスイートルームの泊まりであり、男子はワンランク下の部屋である。
従業者の案内で部屋に入ると、奈央は表情を輝かせ拍手をしていた。
「わっ、わっ! すごーい! 本当にスイートだよ!?」
部屋の内装も凝っており、漆塗りのテーブルに座椅子。木造の柱の一つ一つがアンティークとも言える良さが出ていた。天井と床の内装も凝っている。テーブルと部屋の小物もいいものを使っているとわかる。空気も違う。外には露天風呂がある。
興奮する奈央の横で、依乃は感動とともに困っていた。
「えっええ……? こんな部屋私達で泊まっていいのかな……。先輩のときもこうでした?」
「まちまちさ。普通のときもあれば、良い場所のときもあった。けど、やっぱり時代の流れは感じるよね」
澄は慣れているらしく靴を脱いで中へと入った。最上級の部屋を案内を使うことに、真弓は言葉を失う。後に続いて靴を脱いで彼女達は入る。
荷物をおいて、従業者から食事の時間や部屋の説明を聞き終えた。
従業者が去ったあと、真弓は部屋の良さに何度も周囲を見回す。奈央は部屋にある高級な椅子を堪能し、依乃は部屋の中を確かめていく。澄は部屋のアメニティを見ている。
それぞれが部屋の中で自由行動を取っていると、ノックが聞こえた。澄が顔を上げて部屋の玄関の前にいく。
「はぁい、茂吉くんだね」
入口のドアを声をかけて開ける。茂吉は頬を赤くしてで入口の前に立っていた。
「……なんで、わかるのさ」
「自分がよく知ってるくせに」
してやったと笑う澄に茂吉は参ったらしく片手で顔を押さえた。横から直文が顔を出す。
「やぁ、入っても大丈夫かい?」
「直文さん。はい、大丈夫ですよ」
依乃の返事で、部屋にも茂吉と直文が上がってくる。奈央と真弓が集まると、茂吉と直文は二人並び、真弓に顔を向ける。
「じゃ、はじめまして。俺は寺尾茂吉。フェリーの出港前はトンチキな自己紹介して申し訳ないね。三善ちゃん」
「俺は久田直文。あのときは怖い目にあわせた。改めて、ごめんね」
それぞれの謝罪に真弓は首を横に振る。
「いえ、むしろ、こちらこそ、すみません。……ですが、陰陽師の私を誘っても良かったのですか……? 陰陽師の問題……退魔師界隈では厄介と有名ですよ」
真弓の疑問に直文は微笑む。
「ああ、構わない。保護している彼女を手を出そうとしているならば、俺たちを巻き込もうとしているも同然。ならば、相応の対応をするだけだ」
「俺もなおくんに同意。俺達喧嘩上等じゃないけど、買われた喧嘩は買うよ。平穏に過ごさせてくれないなら、色んな意味で
茂吉は意味深な笑顔を浮かべるが、真弓はわからなかった。しかし、依乃達三人はいっている意味がわかったらしく、表情は芳しくない。澄は故意に咳払いをして、茂吉に声をかける。
「茂吉くん。ここにきたのは話したいことがあるからだよね?」
「そう」
頷き、四人の少女に向く。
「ここの旅館に入った途端に、俺はすぐに式神で監視や盗聴されないように結界を張った。八一は旅館に怪しいやつがいないか探索中。啄木は心身を部屋で落ち着かせてる。せっかく遊びに来たのに申し訳ないが、今日の行動について直文たちと軽く話し合ったんだ」
仲間の一人を狙う存在がいるならば、行動に制限は出る。
革命派の陰陽師だろうと真弓は確信していた。所属している派閥の陰陽師達は、他者を巻き込むことを望まない。真弓は依乃を保護していると聞いて、もしやと考えていると直文が頭を下げる。
「再度だが、申し訳なかった。三善さん。俺達君の抱えている問題を知っている。……いや、君たちの言う革命派の一味の事件に巻き込まれたことがあるんだ」
「……はい。見てわかります。私が代わりに謝ります。すみません」
頷いて、真弓も謝罪をした。
革命派の事件に巻き込まれた依乃を保護した時点で、事情を知っているはずだ。真弓は黙っていたのにも理由があると理解を示している。信頼、信用していたのに裏切られたと思わない。理由があって話さず互いが不利益にならないよう、啄木が行動していたのが証拠だ。
謝られ、直文が戸惑う。
「君が謝らなくても……」
「いえ、同じ陰陽師として恥です。謝らせてください。それに、今回の保護の件に関しては啄木さんたちの方が信用できます。黙っていたことには怒ってません。……それ以上に、今の陰陽師協会は個人的には信用に値しませんし、有里依乃ちゃんの件は言いません」
トゲを含んで陰陽師協会の名を言う。反感を示した彼女の反応に、茂吉は指で頬を掻きながら苦笑する。
「うーん……三善ちゃん。素直すぎるな。そこまで協会への反感を示されるといっそ清々しく感じるよ。な、なおくん」
「ああ、動作や反応からも嘘を言っていない。信じられるよ。もっくん」
直文の判断に茂吉は微笑し、今日の予定を四人に話す。
「この後は観光って感じでこの土肥の街をまわるけど、基本は男女の二人組に分ける。四人で二手に分かれるよりかはより分散して、今日は陰陽師の動向と相手の数を知りたい」
三人は頷く。分散するほうが危険であると真弓は意見を言おうと考えたが、彼らは考えもなしで動いていない。茂吉が船でのドジに見せた行動がその一例だ。
真弓も後に続いて頷き、彼らを信じてみる。話を終え、茂吉は土肥の街に関する観光案内のパンフレットをもらう。
まだ午前中であり、お昼には早い。
それぞれが出かける支度を整え、啄木と真弓以外は旅館からでて観光地へと向かう。
直文と依乃は土肥の金山を見に。八一と奈央は富士見遊歩道というが場所は恐らく恋人岬。茂吉と澄は寺を巡る。真弓と啄木は話し合って決めてない。啄木のいる部屋の前につき、戸をノックふる。
「啄木さん。いる……?」
「ん……ああ、真弓か」
ドアの向こうから声が聞こえ、啄木が開ける。
啄木はメガネをかけておらず、来たときとは少しだけ違う服を着ていた。僅かに髪が濡れており、肩からタオルがかかっている。石鹸と洗髪剤の香りが鼻をくすぐり、真弓は顔を赤くする。
自身の状態を見て、啄木は申し訳無さそうに笑う。
「悪い。汗を流してたんだ。服は汗を吸ってたし、気持ち悪くて。上着とズボン以外着替えてた。悪いな。何なら、部屋に上がって待っててくれ。髪を乾かせば、すぐに準備はできるから」
「う、うん」
靴を脱いで、啄木が泊まっている部屋に入る。
机には啄木のメガネ。地元の観光本や難しそうな本がある。荷物をしっかりとおいてあり、用意された湯呑とお茶を使用したあとがある。洗面所でドライヤーの音が聞こえきた。
ものの数分でドライヤーの音が聞こえなくなる。洗面所で片付けの音が終えたあと、啄木は出てきた。
眼鏡をかけてない啄木は真弓はあまり見ない。眼鏡をかけてない彼は理知的よりかは男らしさが出ていた。頬をほんのり赤くして真弓は見てしまう。
啄木は苦笑して眼鏡に伸ばす。
「悪いな。真弓……って真弓?」
「……へ? あっ! ごめんなさい! 眼鏡かけてないの珍しくて……つい見てしまって……」
メガネをかけて、啄木は明るく笑った。
「ああ、なるほどな。けど、そう言われたのは真弓が初めてだ。仲間や安吾からは、眼鏡かけてないほうが見慣れてるっていうんだよ。眼鏡かけてる俺に違和感があるらしい」
「? 昔は眼鏡かけてなかったの?」
「ああ。昔は裸眼だ。医療の勉強を初めてからはメガネをかけるようになった。眼鏡かけなくても支障はないんだけど、細かい文字を読むときなんか重宝するんだ」
昔の啄木は眼鏡をかけていなかったようで、真弓は想像ができなかった。啄木は髪を結び直し、靴下を履く。啄木はショルダーバッグを身に着け、真弓に声をかけた。
「さて、そろそろ行くけど真弓。どこ行きたいんだ?」
「どこか……」
考えなかった。真弓は慌てて、パンフレットを開くが気になる場所が多く見つからない。啄木は近付いて、隣でパンフレットを見る。
「……ふーむ、気になる場所はいくつがあるな……。じゃあ、適当に回って行きたいところがあったらそこに行こう。それでいいか?」
「う、うん」
思いの外啄木が近く、存在をより感じられる。胸がドキドキする現象を不思議に思いながら、彼女は顔を赤くして頷いた。
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