7 拒絶は彼が望んでいた
好きじゃない。嫌い。大嫌い。非難の言葉を受け、茂吉は目を見開くもすぐに微笑みだけを浮かべた。
「だって、これは真実だもの。仕方ないじゃん」
「……っ!」
傷付きながらも、嬉しそうに笑う姿に澄は大分揺さぶられた。今の澄にとって、目の前の彼は知らない相手。しかし、彼女は彼の微笑みを見ただけで怒りを失わせた。
教室の戸が開く。先程見た男と別の男数人が入ってきる。茂吉の姿を確認して彼らは動揺を示す。
「っ!
茂吉は指を立ててに笑う。
「それは秘密です。……言ってみたかったんだよねぇ♪」
演技をして、二人に声をかける。
「二人とも、その鏡に急いで呪文をいいなよー。間違えずに言えば、確実に帰れるから」
「……アンタはっ!?」
男の呼びかけに、茂吉は笑みを保ちながら答える。
「んー? 後始末したあとに帰るから安心してケロ☆
それに、早くしないと鏡割られちゃうよ?」
最もの指摘に男は手鏡を拾って、水色の鏡に掲げて呪文を唱える。
「『鏡と現し世の水色鏡の間にある白い水晶。ホワイトパワーを開放し、紫をピンクの鏡に変えろ』……!」
二つの鏡は光出す。先程と違うのは水色の鏡から、声が聞こえて人が移りだしている。間違いなく外の世界。男は澄に声をかけた。
「おい、アンタも、はやくこっちに……!」
男は彼女に手を伸ばす。相手は鏡の中に吸い込まれて現実の世界に戻っていく。目の前にある鏡は普通の鏡になっているのに、驚いているだろう。鏡が光っている間ならば、通れそうだ。
男が完全に吸い込まれ、澄が動こうとすると顔の横に何かが通り鏡に刺さってヒビをいれる。鏡は光らなくなり、現実の世界を映さなくなった。ひびの入った鏡に自身の顔が映り、澄は振り向く。
茂吉は舌打ちをして、頭を掻く。
「あははっ、そっか、そっか。彼女、逃すつもりないんだー。あっはっはっ……☆」
笑うのをやめて口元を直線にする。男達は数人を茂吉は己の
瞬間、一人の敵の男が縦半分に断ち切られる。目にし彼女は言葉を失った。茂吉の片手にしている斧によって切られ、床に倒れて血を流す。
男達は何が起きたのか、理解してないのだろう。
仲間が倒れた状況そのものが理解できてない。茂吉は床を強く蹴って、斧で男一人の上半身を薙ぐ。斧で勢いよくその上半身を天井に突っ込ませた。激しい音を立てて、男の上半身は天井に刺さる。血の滴る上半に下半身はバランスを崩して床に倒れた。
「っなっ……なっ……!?」
この状況に残った仲間は顔色を変えた。茂吉は斧を床に刺して、両手から投げ飛ばし可能な手斧を出す。澄に近付こうとする男に向けて、茂吉は淡々と手斧を投げつける。斧がガツンと強い音を立てて黒板に刺さった。
飛んできた斧に当たらなかったが、男は動けなくなる。
「ん、で、どうするの? 変な動きでも力使っても俺わかるからね? まあ、使おうとしたら」
斧を持つもう一つの手を動かして、男の一人に刺さる。
「っぐぅ!?」
「このように殺るから。ああ、ただの手斧じゃないからそこは気をつけてねー♪」
明るい声で告げた。
仲間は駆け寄ると、斧に刺さった男は苦しげにうめき声を上げて倒れた。体を
彼らにとって、避けられるはずの手斧の攻撃だった。何かの力を使おうとして、動けずにいた可能性が高い。しかも、ただ手斧が刺さって苦しむほどの様子ではない。
「おい、おい……! しっかりしろ……!」
斧が抜かれるが、攻撃を受けた男の様子は余計に悪化している。
手斧に毒が塗られていたのだ。男は少しずつ震えが少なくなっていくが、それは良い意味ではない。その相手は人形のように動かなくなる。仲間は声を上げて、何度も男を呼ぶも返事はない。
その男の命は既に。
澄は
澄は腰をついて、呆然と目の前の惨状を見ている。
血の匂いと赤色で彼女の知らぬ記憶が思い起こされる。人を斬り裂いた感覚。手についた血に、虚ろな目。澄は目を潤ませていく。茂吉は斧を抜いて、肩に担いで男達に貼り付けた笑みを送る。
「やるって言うなら殺すよ♪
けど、その気が失せたらさっさと俺の前から去って☆
むしろ、去れ」
男達は何も話さず、木の葉を一枚出す。死んでいった仲間の遺体お共に姿が消えて、残ったのは穴が空いた天井と血だらけの床だ。
茂吉は指を鳴らすと斧が消える。澄の目の前に来てしゃがんで目線を合わせる。
「大丈夫ー? 巻き込まれたようだけど──」
「……やだ」
拒絶の言葉に彼は目を丸くした。澄は目から涙を溢れさせて頭を抱えて口を開く。
「やだっ! やだっ! 嫌だっ……嫌だっ……!! いや……いやぁぁっ!」
顔を俯かせた彼女の悲鳴が響く。澄の中で湧き上がる罪悪感に自己嫌悪。その悲痛の声に茂吉は笑みを消して真剣な表情になる。
「……君、大丈夫かい? 何処か調子の悪い」
伸ばされる手を澄は視界に入れる。逞しいしっかりとした肌色。触られるとその手を穢してしまうと考え、彼女は震えた。
「やだっ! こっち来ないでっ!」
バチンッと強い音がする。
茂吉は一瞬間を置いた。彼は払い除けられた手と怯える澄を交互に見ている。彼女は気付いて、しまったと汗を流す。澄は震えながら感謝を口にしようとする。
しかし、喉から突っかかって感謝が出ない。
呆然とその手を見つめて握りしめて、彼は微笑む。
拒絶された、これでいいのだと言うように。胸の上を掴み、茂吉は嬉しそうに笑った。
「ああ、それでいい。君はそれでいいんだよ。こんな血生臭い日常なんて似合わない。君は今の君の日常を送っていて」
優しい声。その声を聞いて澄は夢を思い出す。顔をあげると夢で見た優しい彼と茂吉が重なった。
「【大丈夫。後は俺が何とかするから】」
「……えっ」
額に人指が当てられて、茂吉は記憶を消す言霊を使う。
言葉とともに澄はやってくる強烈な眠気に頭を押さえ、片手を床につけた。
眠くなり、重なった笑顔がぶれていく。手を伸ばそうとするが、彼女の
腕の中で眠る彼女を穏やかに見た。お姫様抱っこをして澄を抱え、変化をして茂吉は目を細める。
「ここから出るまえに、
言霊を最後に吐くと、彼の足元から強風が吹き荒れる。彼の足元がえぐれていき、天井に穴が空く。周辺に取り付けてある窓と教室の中にあるものが、風に飲まれていく。彼の周囲に大きなつむじ風ができていき、学校中の備品や廊下。建物を飲み込んでいく。すると、周囲の風景から
周辺の鏡の欠片は旋風に飲まれて消えていく。彼はひび割れた空間の天井を見つめて
まるでひび割れた様子が己のように見えたのだろう。
「転」
術を使用して、空間から消える。
茂吉は学校の門の前に降り立ち、
外は紫の光ではなく、夕焼けの光が外を照らす。乗り物の音や生き物の声がする現実の世界だ。彼は校門前近くにあるカーブミラーをみた。
彼女の近くには、紫の鏡はない。かたんと何かが落ちる音がし、茂吉は下を見ると紫の手鏡が落ちていた。複数のヒビが入っており、茂吉は勢いよく踏みつけた。
びぎっと大きな音がします、グリグリと踏み潰す。
「
踏み付けるをやめて、茂吉は息をつく。校門の方から声が聞こえて、顔を向けると直文が慌ててやってきていた。校門の扉を開けて潜り、彼の前に来た。
「茂吉! やっぱり、お前だったか」
彼は表情を取り繕い、にこやかに話す。
「やっほー☆ なおくんだったかー☆ 良かった良かった!
ほら、高島ちゃん。助けておいたよー♪ そっち、外から出た男の人は保護った?」
「ああ、近くの公園で寝かせておいた」
「そっかそっか! 良かった良かった!」
「……茂吉。お前……無理してないか?」
「ん、なんのこと?」
心配そうに聞く相方に、茂吉は何気なく誤魔化す。
「……とりあえず、彼女を保健室に運んでほしい。……依乃と田中ちゃんがとても心配していたんだ」
直文は溜息を吐いて話すが、茂吉はニコニコしながら首を横に振る。
「嫌だよ。直文が運べばいいじゃん。俺、このあと用事が」
彼の前にネームプレートを出される。学校の関係者が入るときに使用されるものだ。茂吉は表情をくずし、彼は眼鏡をし直して話す。
「運んでほしい。それに、状況を仲間に
有無言わせるつもりはないようだ。茂吉は小さく舌打ちをして、ため息をついてやる気のない返事をした。
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