8 安全地帯の確保
花火と麒麟がまだ駿府城公園にいる頃、狐と向日葵が『偽神使』の件を処理しようとし始める前。
茂吉は葵タワーから身隠しの面をして様子を見ており、澄は自身のやるべきことのために動いていた。
後輩たちに接触しようとする陰陽師たちを阻むこと。とある男女二人組が駅から駿府公園へと歩いていく。カップルのように腕を掴んで歩いているが、カモフラージュだろう。彼らが恋人同士ではなく、陰陽師であることは組織の情報網から知っている。
澄は影でいつもとは違う姿で変化して見せた。大人の姿となった澄であり、化粧や髪を長くしている。
駿府城公園に入ろうとする前に澄は声をかけた。
「あのー、すみません」
「? はい、なんでしょうか」
「実は見たいパフォーマンスがありまして、神部さんというか、阿部さんいうか……こんなふうに似たような名前の日本人アーティストの方がパフォーマンスしている場所ってどこでしょう?」
澄の質問に男女の二人組は戸惑った。
眉を八の字にしながら困った演技をしながら、彼女は意地の悪い質問している。澄の口にするアーティストなど存在しない。近い名前の人物がいたとしても、分かる人しか答えられない。男女の陰陽師は気ままに立ち寄った観光客か地元の人間を装おうとしただろう。
「ええ、えっと? 神部さん? その名前のような人……ですか?」
困惑する男の陰陽師に澄は頷く。
「はい、似たような名前のパフォーマンスを見たくて……どこでやっているかご存知ありませんか?」
二人は少し離れて、話し合いを始めた。
大道芸が本当に好きな人はガイドブックやパンフレットを買い時間を把握する。楽しむ目的の人ならばガイドブックを買うだろう。陰陽師たちはガイドブックをしていない。つまり、澄の質問に答えられないのだ。だが、スマホがあるならばそれらを用いて検索で調べられる。
予想通りスマホで検索し、陰陽師の二人組は戸惑いながらも教えてくれる。
「もしかして、この方ですか? このスマホ画面にある……」
「っ! そうです! ええっと、場所は……」
スマホを出し検索するふりをして、澄はメッセージアプリを起動させる。
グループラインで引き止めておく旨を簡単に伝え、事前に用意してあった検索結果の画面を開く。
「あっ、あそこか……わざわざすみません」
「い、いえ……わかってよかったです」
と対応する女の陰陽師に澄は話しかける。
「お二人はもしかして、静岡の大道芸ワールドカップは初めてですか?」
「はい。こんなにも賑やかとは驚きです」
「私は四年前始めてきたのですが、すっごく楽しくて今ではこの季節になったらこのワールドカップを見るのが定番になっているのです……」
その時、愛宕山城方面と安倍川の方面から良くない気配が生まれた。陰陽師たちも一瞬だけ目を丸くし、澄はスマホのバイブに気づきつつ二人に話し続けた。
「──だから、多くのパフォーマンスに見どころがあるのでカップルでも楽しめるから結構良いと思いますよ。けど、今回はガイドブックを買いそこねて……つい困ってお声かけして……本当にすみません」
頭を下げると、男の陰陽師は慌てて首を横に振る。
「いえいえ、お気になさらず、では」
陰陽師たちは駿府城公園の橋を渡り、中に入っていく。そのタイミングで身隠しの面をした二人が空を飛んで行くのが見えた。
澄は人の目が向いてない一瞬で元の姿に戻り、スマホを手にする。操作しメッセージアプリにて、直文の返事を見た。そこには【依乃を予定通りの場所へと送る。作戦開始だ】と書かれている。
引き止めておくことは正解だったらしく澄は笑みを作る。駿府城公園に入った二人をどうするか考えていると、スマホの画面が茂吉からの通話を知らせる。
操作をし耳を当てると、茂吉の声が聞こえた。
《もしもし、澄かい?》
「茂吉くん。そうだよ」
《メッセージ、見たよ。ナイスだ。直文がうまく行動できた。海岸に飛んでいくのを見たよ》
「見ていたということは、『偽神使』の誕生の瞬間も」
《ああ、見た。八一と啄木がいれば大丈夫だろうけど、作り手の陰陽師はいるだろう。俺はどちらかのヘルプに入る》
「……じゃあ、私は邪魔にならないように奈央たちの安全確保に努めるよ」
《さっきの陰陽師たちは慌てて探すだろうが、そのままにしておくように。仲間が多分回収していくだろうから》
「了解。じゃあ、私は奈央と三善さんの安全を確保しておく」
《任せた。無理はしないように》
難なく会話を済ませ、通話が切れる。澄はスマホを仕舞いながら不思議そうにつぶやく。
「……仲間?」
仲間という存在について、思い当たる存在は安吾がいる。だか、澄の中で違和感がある気がした。しかし、違和感を指摘しない方が良い傾向になると直感し彼女は疑問を蓋する。
すべき行動として、奈央と真弓の安全地帯確保に向かう。転移の印の位置は澄が手にしており、澄は仮面をした。すぐに変化をして走り出した。茂吉たちのように身体能力を奮える訳では無い。神足通ほどの奈央ぐらいの身体能力は余裕で出るが、全力は出せない。
人に当たらぬよう走り、少し細い道路につく。ビルとマンションの間にあるが、その間を蹴り登っていく。人外の力を引き出して壁を蹴って登っていく。言霊を使用し力を奮っているわけでない故に、身体を動かす分なら支障はない。
高いビルの上に澄は着地する。顔を上げ、見える範囲の町並みを見る。
駿府地域は普通だが、空気が少しだけ違う。少し違うだけであり、その差異がわかるのは組織の半妖たちだけだ。素質がある陰陽師の真弓も気付かず、違和感なく『儀式』シリーズを展開しているらしい。
澄は忌々しいそうに声を出す。
「……後輩たちに危険な目に合わせたあれをよもやここまで完成度を上げてくるとは……」
拳を強く握る。
後輩二人と仲良くしてくれる真弓の扱いに関して、澄は怒りを覚えていた。奈央と真弓は守れる。依乃も守りたいが自分のできる範囲は狭い。直文に任せる他なく、仮面をかぶり直しながら息をつく。
「見られている可能性はあるといえど、私は私の役目をするしかない」
走り出して、ビルの上を飛び乗って彼女は考える。
安全地帯。転移範囲として申し分ない場所。人はいるであろうが、大道芸を行っている公園よりかは人は少ない。いくつかの場所はあるが、問題なく紛れる場所は一つある。人を隠すならば人の中、ちょうど『儀式』シリーズの範囲から外れ、『偽神使』が頭上を通る可能性がある場所だ。
地図を思い浮かべながら、東海道の道路を飛び越える。ホテルの屋根の上に降り立ち、狭いビルの場所を見つけては壁を蹴り屋上に登る。駅ホームの屋根を飛び移って駅をあとにして住宅街へと向かう。
あとは住宅街の屋根の上を走って飛び越えていくだけ。人外パルクールとも言える事をしており、普通は目立つ。身隠しの面が必須な時代だと考えながら、少し長く異動した後、彼女はある場所に辿り着く。
少し歩いた後、彼女は面を外した。目の前に見える光景に息切れをしながらふぅと息をつく。
「登呂公園……登呂遺跡到着」
芝生の先には弥生時代の竪穴式住居や高床式建物などが再現されている建物がある。当時の水田なども再現されていた。
更に奥には博物館や公園などもある。登呂遺跡は教科書にも乗ったことがある遺跡。一部有料などあるが、基本的には無料で見れる。公園が近くにありピクニックもできるが、登呂遺跡をどう感じるかは個人次第と言えよう。
見えないように仮面を仕舞う。登呂遺跡の気が多い場所の広場につく。
「……ここは程よく住宅街も近い。厄介事、向こうも起こしたくないはずだ」
澄はその近くに二つの転移用の目印をおいて、刀印を組み呟いた。
目印が一瞬だけ光る。転移場所を設置し終えると一つが光り出した。
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