平成之半妖物語 一幕

アワイン

🎆1 序章

誰かへの手紙

 あの日の君へ

 もうあの日から随分と時がたった。過ぎ行く時間は早いのに、過去には追いつけない。あの日に別れてから、未来に行くのはだいぶ早かった。

 けど、あんな手紙を寄越すなんてズルいよ。渡された時は驚いたし、読んだときは涙の大洪水だったんだから。……君の手紙に書いてあることが本当なら俺は嬉しいよ。

 幸せだ。本当に幸せだった。……あの手紙を読み返すだけでも俺は幸せになれるよ。

 もし許してくれるならば、未来の君を守らせてほしい。俺が君に降りかかる凶を祓う。君が幸せになるように導く。だから、どうか影から守らせてくれないだろうか──




 男性はボールペンの動きを止めた。何を思ったのか、テーブルにボールペンを置いて手紙を書くのを中断する。デジタル時計を見ると『PM11:36』となっている。夕食から時間が経っており驚いた。

 夢中になって書き続けていたらしく見返す。内容は恥ずかしく照れ臭くなって笑う。男性は窓の外から夜空と月を見た。近づいて窓の戸を開ける。風が入り込む。夏特有の空気を感じて、男性は唇を動かした。


「……夏が来る。ああ、花火の季節だな」


 夏の風物詩の一つである花火。壁にかかっているカレンダーに目を向ける。西暦2005年。日付に赤い丸がついていた。彼は花火の季節になると、休みをとって花火が打ち上がる場所へと向かう。


「……今年も綺麗だといいな」


 口許の微笑みは穏やかであった。




🎆 🎆 🎆


この手紙の背景が気になる方はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816927863026858574/episodes/16816927863026883425

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