ex 任務お疲れ様 第五回桜花反省会
「直文が戻ってきたから、元気よく、明るーく『任務お疲れ様! 第五回桜花反省会』と言いたいところだけど……」
茂吉は腕を組み、復帰した直文は何とも言えない顔をしていた。
シェアハウスのリビングでは、直文が元気になったことにより反省会も兼ねてテーブルの上には多くのものが予定されている。豪華な食事とケーキ、お酒など。
直文は現世に戻っていつものように過ごしている。が、いつものように過ごせていないのは二人。
八一と啄木だ。八一は難しい顔をしており、啄木は苦しそうな顔をしている。
仕方ないと言えよう。八一は相方の三代治が動き出したことに懸念しており、啄木は相方の安吾の存続が危ぶまれているからだ。
直文と茂吉は顔を見合わせる。茂吉は仕方なさそうに息をつき、二人に声をかけた。
「八一、啄木。今悩んでても、この先暗雲が立ち込めるだけだ。
考えるなら食え。食べたものは考える力を助ける。悩むなら悩む余裕を作る時間を作れ。余裕は悩みの解決の糸口になる。今は英気を養うとき、そうだろう?」
言われて、八一は表情をほぐし苦笑した。
「狸に言われるとはなぁー」
「おっ、喧嘩なら買うぞー☆」
明るく笑って見せる茂吉に八一は手で狐を作って笑う。
「残念、品切れですコン♪」
「じゃあ、仕方ない!」
笑って返す茂吉に、八一は「一本取られたな」と笑う。二人のやり取りを見て啄木は笑みを作る。
「ありがとうな、茂吉。今は英気を養って安吾を連れ戻す方法を探すよ」
頷く啄木に、茂吉は笑みを浮かべる。
「けど、糸口らしい糸口なら教えてやれるよ。清水区にある忠霊塔。独特な神社の千木をモデルにしたモニュメントあるのわかるだろ? 啄木」
「ん? ああ、あれか? 老朽化が激しいから……十年後ぐらいに撤去されそうだけどそのモニュメントがどうした?」
茂吉の言う忠霊塔とは、西南戦争から太平洋戦争までの戦没者と戦災殉難者の御霊が祀られている場所だ。啄木の言う通り、十年後にはモニュメントの老朽化により撤去され公園として新たに生まれ変わる。
聞かれた茂吉は笑みを深くした。
「あいつ、去年からあの辺りで散歩しているのをよく見かけたよ。出かけるときも忠霊塔に行くって言ってた。静岡県で忠霊塔というと話に上がるのはあの辺りだから、あの辺りで安吾に関わった子が近くに住んでるかも?」
「──恩に着る。茂吉」
感謝する啄木に茂吉は笑顔を浮かべるだけだ。恐らく茂吉を誤魔化しに利用した安吾への仕返しと、啄木への餞別の情報だろう。
直文は三人に頭を下げた。
「皆、俺の作戦に乗ってくれてありがとう。改めてお礼を言いたい。
啄木も、本当にすまなかった。安吾の件については俺にも責任が」
「気にするなって。お前を攻める気はないし、安吾の独断だってある」
啄木が遮り、優しく慰めた。
「独断で助かった部分もあるから、責任を感じてるんだろ? この問題は、俺と安吾自身の問題だ。気を病むな。直文は有里さんを守ることだけに集中しろ」
「……うん、ありがとう」
気遣いに感謝をし、直文は嬉しそうに笑う。暗くなった雰囲気が明るくなったことで、茂吉が手を叩いて雰囲気を明るくさせた。
「とりあえず、今は元気になろう! なんせ、今は俺主催の飲み会で俺御手製の料理ばかりなんだ。損はさせないよ」
テーブルの上にあるケーキに野菜。肉料理と魚料理。大皿に乗っており、凝った料理ばかりである。直文はおかしそうに相方にツッコミを入れる。
「得するのは、茂吉だけだろ。この食いしん坊め」
「ははっ、そうとも言う。じゃ、早速お酒も開けて……」
茂吉は笑いながら酒瓶を机の下から出すが、そこにラベルが貼られてない。三人は疑心のある表情をした。酒瓶に液体が入っているだけと分かる状態。見た目から未開封の新品であることもわかる。直文は恐る恐る出所を聞く。
「……なぁ、茂吉。その酒瓶。酒名とか乗ってるラベルかないんだがどこで見つけた……?」
「ラベルがないのは俺も気になったんだけど、これ安吾の部屋にあった新品の酒瓶なんだよね。多分安吾の秘蔵の酒なんだろーなぁと思って、ちょろまかしてきました☆」
「最低だな」
「なおくん、ドイヒー」
直文は即批判し茂吉は嘘泣きをすると、八一が間にはいる。
「まーまー、おふざけはそこまで」
と宥めるが、八一は悪い狐の顔をしてほそくむ。
「けど、秘蔵の酒ってことはつまり美味しい酒ってこと。ならば、誤魔化しの被害にあった茂吉は賠償の品として受け取っていいもの……ってことになるよなぁ?」
「「ならないだろ」」
直文と啄木はすぐに突っ込むが、茂吉がすでに開けて四人の小さなグラスに注いでいた。瑞獣コンビは口をあんぐりとさせる。気付いたときはすでに遅しであった。
グラスを手に茂吉は意地悪い笑みを作る。
「まー、この酒は俺達が有効的に飲もうよ!
安吾のバカやろーっていう悪口も兼ねてね!」
言われ啄木は破顔して、グラスを手にする。
「っは、確かにな。あのバンゴーになにかしないと気がすまないしな」
「さすが、たくぼっくん! 飲めや飲めやだな」
八一もグラスを手にし、啄木の肩を組む。啄木は特に安吾に対する鬱憤は溜まっているのだろう。直文は仕方なく付き合おうと息をついて、グラスを手にする。
「わかった。俺も付き合うけど、乾杯の音頭は俺が取らせてもらうよ」
その場にいる全員からの異論はなく、首が縦に振られる。直文は深呼吸をし、口を開ける。
「……じゃあ、お疲れ様! 乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
全員はグラスを掲げて、乾杯をする。そして、食事を取りながら適切に飲酒をしていった。
だが、彼らはラベルの中身の正体について話し合うべきだった。安吾の置き土産の正体は神すらも酔わせるとんでもねぇものであったのだから。
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