4 大崩海岸の騒ぎ
(※注意
現在舞台となっている廃墟のある大崩海岸の一部は陥没がひどく、道路が崩落しております。故にバリケードが張られ、そこを通るトンネルを通行止めとなっております。また通るのも危険が伴い、廃墟に入ると罰せられる可能性もあります。ガチな心霊スポットであるため、行くことは勧めません。
尚、注意書きを見て興味本位や物好きとして行く場合は自己責任とさせていただきます。責任は取りません。お気を付けください)
バイクでカーブがきいた坂を登り、トンネルを潜った。風景目的で通るもの以外、車通りは少ない。心霊スポットとしても有名である故に、別のルートで迂回するものが多い。トンネルを抜けた。県道でもある道路を通りながら奈央は空を見る。太陽が傾きつつ、黄昏時が近付く。
黄昏時は妖怪が出やすくなると聞いた。走らせていると、奈央はこの先にある場所に気づいた。
「ちょ、八一さんっ! あそこって、かなり昔廃業した……!」
「大丈夫だ! 身隠しの仮面と面は私達はわからないし人通りは少ないしな。……まあ、人が乗ってなく勝手に爆走するバイクって噂にはなるだろうけど」
「なんで小声なの!? というか、私達で怪談作ってどうするのさっ!?」
見えない人からすると、人の乗ってないバイクが勝手に爆走するのはホラーである。二人のやり取りはコメディである。混沌とした状況に、八一はバイクのブレーキをかける。止めて片足を地面をつけた。少し離れた場所に八一はバイクを止めて降りる。彼は奈央をおろして、周囲を見回した。
目的の場所まで歩いて、奈央は嫌そうな顔をする。離れたところに、また別の廃墟があるがここは違う。
玄関には見良館と書かれた古びた看板ランプがおざなりに置かれていた。
大昔にあった廃墟の民宿でありいわくつきの話をよく聞く。奈央は顔を引きつらせている。玄関は壊れており、空いている。
廃墟であるせいか、幽霊が中を通り過ぎていくのが見えた。ブルッと向日葵少女は震えた、八一は気にせずに入ろうとするが、奈央は立ち止まる。怖いのもある。だが、平然と一人では何処かに行こうとする姿は、死に行こうとするあの時に重なった。奈央はごっくんと息を呑み、汗を流しながら八一の手を握る。
「待って!」
「うぉっ!?」
驚いて、八一は振り返った。
「っどうした? 奈央」
「……その……こわくて……」
顔をうつむかせる。与えられた神通力を持ってしても、八一の顔はわからない。仮面のせいだろう。奈央は戸惑うと、八一はしばし彼女を見て仕方なさそうに頷く。
「それもそうか、君はこっち側になれなくて当然だ」
表情は仮面をしていてわからないが、行動で彼は示した。歩み寄り、彼女の前で手を出す。
「ほら、手を繋いでいこう。これなら少しは怖さも紛れるだろ」
奈央の心情を八一は察しているのかはわからない。だが、手を繋いでくれるのは嬉しく彼女はぎこちなく頷く。
彼の手を握ると、強く握り返されて引っ張られる。彼女は転けそうになるが、何とか体勢を整える。転ばぬように八一は手を伸ばしかけていたが、安心して手を引っ込めた。彼が気遣って歩幅を合わせてくれる。強く握られた手から放さない意志を感じた。彼は彼女の心情に察しがついているのだ。奈央は理解すると、感謝と暖かな気持ちが湧いた。廃墟の中が暗いとこは八一が火の玉を出して、周囲を照らす。
八一の導きに従いながら、彼女は中に入っていく。
埃臭く、潮風が吹いてくる。どこかで崩れて風が中に入ってきているのだろう。その風にのって、腐臭がしてくる。錆びた血の匂いで、鼻の中にまとわりつきそうだ。奈央は思わず鼻を抑え、八一は舌打ちをした。
「……この匂い……まだ真新しいな」
八一は彼女の握る手を強くし声をかける。
「奈央。私が先方で歩く。絶対に部屋の中を見るな」
「う、うん……」
足元の瓦礫や崩れそうな場所は八一の手を借りて、降りていく。
客室のあった通りにつく。匂いがきつくなり、八一は廊下の先に血だらけになった部屋に気付く。廊下まで血がはじきとんでおり、そこで何かが行われたと見てわかる。奈央は怖さから体を震わせて、八一は握る手を強くした。
「……奈央。部屋の近くまで来たら目を閉じろ。軽度とはいえ、神通力の
いつも以上に真剣だ。確実に良くない案件であるのは間違いない。障害物をどかしながら二人は歩く。血の部屋まで近付いてき、奈央は目を閉じた。鼻も片手で摘んで、歩いていく。
部屋の前に着いて八一は足を止めて、歩みを止めるように声がかかる。
「……ついたのですか?」
「ああ、ついた。……君が目を閉じていて大正解だ」
部屋のすべてが赤く染まっている。
血生臭く、血溜まりもまだ残っている。昨夜人がいたのだろう。畳の上に赤い血で描かれた逆さの
儀式を行っていたようだ。廊下には崩れてできた穴がある。あそこから生成の怪異が出ていったようだ。八一は部屋を一通り見て、険しい顔をする。
「……聖水用意しときゃよかった。……だけど、粗方見てわかる。ここはあの『だょたぉ』が生まれた場所。……しかも、外法での誕生。術者の痕跡はない。食われた可能性が高いか。だが、材料はどこで調達した……?」
二人が遭遇した『だょたぉ』は人間が元となっている。ニュースや情報でも行方不明となった人間の情報は出ていない。背後からゾワッと悪寒を感じた。八一は彼女を抱きかかえて、走り出す。
「……ここに、長居は不要だなっ! 奈央! 歯ぁ食いしばってろ!」
崩れて空いている大きな壁の穴に向けて、彼は飛び込んだ。穴の先は崖であり、海の下へと真っ逆さま。奈央は目を開けて、落ちる状況を理解して悲鳴を上げた。彼女が悲鳴を上げて目を強くつぶる。最中、八一は何かをつぶやく。
頭から落ちて行くかと思いきや、彼は体勢を整えてバシャンっと音を立てた。水溜りに勢いよく足を突っ込んだような音。大分浅い水溜りの音だ。
水中でないことに驚いて目を開けた。八一は奈央を抱えて、海上を地面のように立っている。
直接海風を感じて、奈央は驚くしかなかった。
「えっ、ええっ……!?」
「海でも地面のように立てるように術をかけておいたの。……さて」
八一は崖の方を見つめる。東海の親不和と言われる大崩海岸が海の上で一望できる。しかし、その廃墟の穴から黒くて細長い化け物が現れる。
【だょたぉたぉだゎだゃだゃだゅたぉたぉだょ】
鳴き声を上げながら、八一たちを見つめている。奈央は直視しないように顔をそらしていると、彼は溜息を吐いた。
「……奈央の為にも早く終わらせるか。後でお叱りは受けるとして……」
お叱りと聞いて、奈央は一瞬だけはてなを浮かべる。八一は『だょたぉ』を見つめて。
「
八一の言霊に反応して、『だょたぉ』と見良館の建物に真っ白な炎が
廃墟の建物自体もいつの間に術をかけておいたようだ。
焦げ臭い匂いがする。黒い煙も空へと立ち登る。燃える旅館と『だょたぉ』を見て八一は笑っていた。
「いやあー、はっはっはっ、やっぱり、一気に片を付けるには焼却がいいなぁ。あ、周囲に被害は出ないように調節はしてあるから安心して」
「わ、笑えない……!」
「うん、普通なら空き家の放火って逮捕案件だ。良い子の皆は絶対に真似するな。人の命を取る場合もあるからな。奈央もするなよ」
「しないよっ!? こんな危ないことしないよっ!?」
ツッコミを入れた。『だょたぉ』の真っ黒な姿は小さくなり、炎の中で溶けて消える。中からは十数の白い蛍が現れて、空へと立ち上っていった。
黒い蛍は悪霊の魂であると聞いた。白色であるのは普通の人間の魂だ。多くが普通の人間であったらしく、彼は蛍の姿を見て眉をひそめた。
「……普通の人間が犠牲になった。連れてこられた……って感じじゃないな」
八一が指を鳴らすと、建物の炎が消える。廃墟があった場所が跡形もなくなっていた。燃えカスが残らないほどの火力であったらしい。八一は走り出して、容易に飛び上がる。
少女を抱えての
奈央は気付いて、八一に声をかける。
「……八一さん。あれは……?」
「……ふーん、なるほど」
彼はバイクに
「奈央、バイクに乗れ。しっかりと私につかまって。詳しいことは巻いてから話す」
「あっ、う、うん!」
ヘルメットをして、奈央は急いでバイクの後ろに乗る。バイクのエンジン音に気づいて、背後から声が聞こえた。
「っ!? おい、お前ら。待て!!」
バイクが動き出し、物凄い速度で焼津市につながるトンネルに向かって走り出す。数人が残り、彼らは車に乗って追いかけ始めた。トンネルを抜けた先には、ホテルがある。八一は
「
トンネルを出る前に、二人に一瞬だけ
黒い車は大きな道路を突っ切る。町中に入る際、顔の布は取ってあるらしい。八一は変化を解いて仮面を取る。奈央も布とヘルメットを取って、クルマの走って行った方向を見る。
呆然として思いつくことを話す。
「……今……もしかしてバイクに乗ってる私達の姿が見えなかった……?」
「大正解。とはいえ、隠したのは一瞬だけ。相手は陰陽師だからこういう術はすぐ見抜くよ」
陰陽師と聞いて、奈央は八一に顔を向けた。仮面を消したあとであり、狐は笑みを作る。奈央は目を丸くした真顔だったからだ。
「その顔、察しがついたった感じだな」
「……馬鹿な私でもわかるよ。あの人達、
仲間となったあと、奈央は二人から現状と起きている近況を聞いた。
依乃は
ここで留まっているわけにはいかず、八一はヘルメットを出した。
「とりあえず、すぐにここから去ろう。遠回りになるけどいいか?」
彼の
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