1章 初級冒険者

第6話 一番緊張したのは第一声でした



この世界に来て早二年。

ついに俺は人間社会に参加することに成功した。

いや、まだ街に入っただけなんだけどね。

まず街門で少し入国審査があった。

言葉は......通じました!ありがとう!母さん!

どうやらここは都市国家というやつで街自体が一つの国であるとのこと。

武器を携帯していないことで不審な目で見られたけれど、最初の問題は身分証明できるものが何もなかったことだった。

次に入国税も払えなかった......まぁそこは共通金貨と持っていた金貨を変えてもらう事が出来たので何とか支払うことが出来た。

入国税を何とか払えたことで身分証明書も仮発行してもらうことになったのだが、そこでさらに問題があった。

発行してもらう際に水晶に向かって魔力を込めなくてはいけなかったのだ。

門兵さんに魔力操作が出来ないことを告げると、とてもかわいそうなものを見る目で見られた後ものすごく丁寧に対応してもらえた。

一先ず身分証明書は仮発行のさらに仮発行のようなものを出してもらった。

門兵さんには色々と御迷惑をおかけして申し訳ない......。

最後に困ったことや知りたいことがあったら衛兵の出張所か冒険者ギルドにいくといいと教えてもらえたので今は冒険者ギルドを目指している。


「最初はどうなるかと思ったけど、門兵さんがいい人で助かったなー。」


『そうですね、知りたかった冒険者ギルドの事もそうですが金貨を換金できることも分かりましたし幸先がいいですね。』


そう言ってシャルは辺りを見渡した。

ちなみにシャルは今体長30センチ程の姿になり、俺の横を歩いている。


「とりあえず冒険者ギルドだな。面白そうだ。その後は交易所に行って少し金貨を交換してから宿を決めよう。」


貨幣は、銅貨、銀貨、金貨とその上の貨幣もとあるそうで国ごとに純度や重さが違うそうだ。

金貨以上は大陸共通貨が存在し基本的にそちらを使うことが多いようだが銅貨、銀貨にかんしてはその国ごとに違うらしく基本的に他の国に行くと使えないし、レートが複雑で交換してもらえないことも少なくないらしい。

一般人は金貨まで知っておけば大丈夫と言われた。

因みに入国税と身分証明書の仮発行で銀貨1枚と銅貨27枚だった。

持っていた金貨を共通金貨1枚と交換してもらい、お釣りが銀貨98枚と銅貨73枚だった。

お釣りの枚数が多すぎる、金貨は使いにくそうだな......。


「とりあえずの資金も何とかなりそうだし、生活は何とかなりそうだね。まぁ思っていた以上に大きな街だけどここなら最初の拠点にするにはよさそうだ。魔力操作と身分証明できるようになれれば最初の目標はクリアかな。」


外の森にいるグルフにも状況を伝えないとな。


『畏まりました。最初に冒険者ギルドに向かうということは魔力操作について師事する人物を探すということでしょうか?』


「その情報も欲しいけど、冒険者ギルドに登録したら大抵の国や街で身分証明が出来るそうなんだ。身元の証明ができるなら取っておきたいんだよね、これからの旅には絶対必要だと思うんだ。」


今持っている仮証明書は3日で効力を失うし、再発行にまた銅貨20枚程度かかるらしい、貰った金貨にはまだまだ余裕はあるがお金を稼ぐ手段がない以上無駄遣いは避けたい。

証明書が期限切れした状態で衛兵に見つかると罰金として銀貨5枚だそうだ。


『なるほど......しかし人通りが多いですね。体も小さくしているので先が全然見えません。』


「確かに賑やかな街だね、ここがメインストリートなのかな......?シャルはちょっと蹴られそうで怖いな......俺の肩に乗らない?それで遠くも見えるようになるよ。」


『そんな恐れ多い!仮に蹴飛ばされたとしても逆に相手を吹き飛ばしますのでご安心ください!』


「安心できませんね!?俺の精神安定の為にもここにいてください!」


シャルを抱き上げて肩につかまらせる。

頬にあたるもふもふが気持ちいい。


『ふわぁぁ!ケ、ケイ様!?』


「シャルはふわふわで気持ちいいなぁ。」


抱き上げながら背中をわしゃわしゃ撫でる。


『ケイ様!下ろしてください!』


「まぁまぁ、とりあえず背中側に回ってもらっていいかな?進行方向見ながら進んだほうがいいでしょ。」


下ろすつもりがないことが伝わったのかシャルを背中側に回そうとするとバランスを取りながら回り込んでくれる。


『ケイ様に運んでもらうなど......。』


「たまにはいいじゃないか。さて、もうそろそろ冒険者ギルドが見えてきてもいい頃だとおもうけど......あ、あれかな?」


門兵さんに聞いた建物が見えてきた。

さて、楽しみでもあるけど不安もそれなりにある。

所謂お約束展開の巣窟だ......。

しかし待っていただきたい。

こちとら神獣様から絡まれたら即死のお墨付きをもらっている。

物語の主人公たちみたいに素敵な能力を授かっているわけでも、機転で切り抜ける素敵な頭脳を持っているわけでもない。

ただ俺の肩には3メートルを超える狼の頭を目にも止まらぬ速さで踏み砕く護衛......保護者......世話役......まぁそんな感じの方がいる。

......戦力は十分なのかな......?人任せ100%だけど。

いや、この世界の人なら誰でもそのくらい出来るって感じで母さんからは聞いている。

大丈夫、俺は目立つタイプじゃないしこういうのにありがちな女の子の連れもいない。

うん、するっと入って、ささっと登録して、さくっと魔力操作について相談しよう。



「おいおい、お前みたいなひょろいにーちゃんが冒険者登録だぁ?そりゃ冒険者なめすぎじゃねぇか?あぁ!?」


はい、無理でした!

ここでテンプレ乙っていうところまでセットでテンプレですね、ありがとうございました!

おかしい、なんかもう、そういう決まり事でもあるかの如く流れるようなスムーズさで絡まれた。

ギルドにつきました。

受付カウンターのおねーさんに話しかけました。

冒険者登録したいと申し出ました。

書類を書きました。

身分証明書を提示しました。

後ろから罵声を浴びせられました、今ここ。


「おい!聞いてんのか!?」


振り返ると筋骨隆々のスキンヘッドのおっさん。

腰には剣を一本佩いている。

身長は180cmを超えているだろう、俺より頭一つ分くらい縦に大きくその腕は俺の太ももくらいあるんじゃなかろうか......。

母さんにそこそこ鍛えてもらったとは言えあなたに比べれば確かにひょろいと言えますね。


「あ......あの......レギさん。」


受付のおねーさんが何かおっさんに話しかけている気がするがおっさんにはきこえてないようだ。

止めてくれるのなら是非止めて頂きたい。

もしこのおっさんが俺に手を出す素振りを見せようものなら俺の肩から強烈な一撃が飛び出すだろう。

そしてその結果どうなるか俺にはわからないが引き起こされる事態は間違いなくろくでもないことだろう。


「ぼーっとしてんじゃねぇよ!」


「レギさん!待ってください!これを見てください!」


「あぁ?」


レギさんと呼ばれたおっさんに受付のおねーさんは何かを見せているようだ。

振り返ってみてみると、それは俺がカウンターに置いた身分証明書だった。

それは個人情報なのですが......?


「あぁ......?って......それはまさか......。」


ん?

俺の身分証明書は何かおかしいのか?

おっさんの方に顔を向けると、おっさんは目がこぼれんばかりに見開いている。


「............すまねぇ!!」


俺と目があった瞬間おっさんは腰を90度曲げて勢いよく謝罪をした。

余りの挙動の速さにびくっと身構えてしまった。


「......えっと......これは一体......?」


「すみません。ケイさん。これは新人さんへのテストの一環でして......。」


「あぁ、なるほど。突発的なアクシデントへの対応力とかその辺の確認ですか?」


「はい、そうなのですが。ケイさんの身分証明書に問題がありまして......。」


「問題ですか?街門のところで発行してもらったものなのですが。」


「あ、すみません。身分証明書自体は問題ありません。ただその内容が......その、失礼ですがケイさんは魔力をもっていないのですか?」


「そんなことが身分証明書に記載してありましたか?」


「説明されませんでしたか?こちらの身分証明書自体がそういう方専用の証明書になっているんです。」


証明書そのものが?

門兵さんはそういうことは言ってなかった気がするけど、聞き逃してたかな......?


『そのような説明はありませんでしたが......制裁してきます。』


まって!ダメだからね!?

ってシャルに声かけられないから肩に顎を載せているシャルを両手で抑える。

母さんみたいにこっちの考えは聞こえてないからちょっと不便だ。


「そうだったんですね。えっと、魔力自体はあると言われているのですが、魔力操作に難がありまして。冒険者登録が出来たらその辺を相談させてもらおうと思っていたのですが......。」


「申し訳ありません。冒険者は危険な仕事が多いので魔力が扱えない方は登録することができないんです。」


「なるほど、言われてみれば当然ですね。」


そりゃそうだ。

推定この世界最弱だろう人間が出来るような仕事ではないだろう。

手っ取り早く身分証明書が欲しかったからとは言えないしな......。

ということは先に魔力操作を出来るようにしなければならないわけだ。


「でも困ったな、魔力操作を教えてくれるような方に心当たりはありませんか?」


「それだったら俺に任せてくれ!」


後ろから大きな声がかかる。

あ、はげのおっさんの事忘れてた。

振り返るとおっさんはまだ頭を下げていた。

しまった、このまま放置してたのか。


「あ、すみません。頭を上げてください。僕は気にしていない、というか試験だったんですよね?」


「絡んだことに関してはそうだが、そもそも魔力を使えない奴を脅しちまったことに対する謝罪だ。」


えっと、魔力使えない貧弱な子を脅してごめんなさいってことかしら......?

そういえば門兵さんもすごい可哀相なものを見るような目で見てたな。


「あぁ、そちらも気にしていません。それより先ほど魔力操作について任せてほしいとおっしゃっていましたが。」


「あぁ、いい腕の魔術師の知り合いがいるんだ。そいつを紹介させてもらいたい。」


「それは助かりますが......。」


「もし先ほどの事をお気になされないとおっしゃって下さるのでしたら、レギさんの提案を受けて頂けませんか?見た目はアレですが、実績も身元もしっかりしている方ですので。」


俺が迷ったように言うと受付さんがおっさんのフォローに入る。

それにしても見た目はアレって中々ひどいことをおっしゃいますな、この受付さん。


「そうですか、分かりました。是非よろしくお願いします。」


「あぁ、任せてくれ。俺はレギ。冒険者ギルドに所属する下級冒険者だ。」


「僕はケイと申します。改めてよろしくお願いします。」


こうしてレギさんに知り合いの魔法使いの方を紹介してもらえることになった。

冒険者ギルドには登録出来なかったが、最大の目的である魔力操作について目途が立ったのは幸先がいいと言えるね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る