第132話 誰の眷属?



『すまない。実は私も妖猫の神域の位置は分からんのだ。仙狐の方は大まかな位置ならわかるのだが。』


「そうなのですか......。」


......くっ......妖猫様に次会いに行きたかったけど、ダメか......。


『妖猫は最後に神域を作る予定だったのでな......仙狐なら分かるかもしれぬが、状況にもよるな......。』


神域を......作る?


「神域と言うのは何か役目があって作られたものなのですか?」


『あぁ、詳しくはお前の母に聞くと良い。それを教えるのは親の役目だろう。だが一つ言えることは神域とお前は関係があると言える。それは神子としてのお前ではなく、この世界に来た人間としてのお前だ。』


「僕がこの世界に来たことと神域が......?」


『あぁ、折を見て天狼の所に戻るとよい。色々と話を聞けるはずだ。今回その事を伝えていいかと天狼から聞かれていてな、天狼には全てお前の采配に任せると返答しておいてくれ。』


「畏まりました。」


母さんから何を聞けるのだろう?

帰る方法とかではないと思うけど......俺がこの世界に来た原因......?


『話がそれたな......まぁ必要な話ではあったが。さて話を戻そう。仙狐がいるのはここより遥か東の地だ。』


東......一番行きたくなかった方角だ......。

困ったな......母さんの所に戻るとなると真逆に進まないといけないし......戦争をやっている地方に行くのも不安だ......。

まぁ急ぐ必要はないし、一度母さんの所に戻ってからでいいか。

東に行くことは......レギさん達に相談しよう。

いくら手伝ってくれるとは言え、紛争地域にまで一緒に来てくださいとは気軽に頼めることじゃない。


「東の地のどの辺りでしょうか?」


『海まではいかぬ。黒土の森と呼ばれる場所があってな、その近辺にあるはずだ。』


「黒土の森ですか......。」


応龍様の知っている地名ってことは四千年前にそう呼ばれていたってことだ......森も......残っていればいいけど......。


『ここより東北方面ではあるが......私なら飛んで三日程だっただろうか?』


応龍様の移動速度が分からないから大体の距離すら計れない......クレイドラゴンさんより速いよね......?

ある程度覚悟はしていたけど、神域を探すのは中々難しいそうだ。


『仙狐は幻影魔法の使い手だからな......すまないが、簡単には見つからないだろうな。』


更に難易度が跳ねあがった......。

これ本当に見つけられるかな......?


「頑張って探してみます......。」


『あまり力になれなくて済まない。何かあればいつでも神域に来てくれ、出来る限り手を貸そう。』


「ありがとうございます。でも何故そこまで言ってくれるのですか?」


母さんの昔馴染みではあるのだろうけど、その神子だからと言って、初めて会ったに過ぎない俺にここまで便宜を図ってくれるというのも不思議な感じがするのだけど......。


『ほっほっほ。あの頑固娘の子と言うのも勿論あるが、我らにはお主を手助けしなければならない理由があるのよ。』


「理由ですか?」


『これは先程の話と繋がっているからな、お前の母に聞いてくれ。』


「......分かりました。」


『それと、天狼から話を聞いた後でもう一度私の神域に来て欲しい。手間をかけるが協力して欲しいことがあるのだ。』


「分かりました。お世話になっていますし、是非協力させて下さい。」


一方的にしてもらうだけじゃ心苦しいからね......返せるときに恩は返しておかないといけないんだけど......方々に迷惑をかけて、現時点で返しきれないくらい恩が膨れ上がっているような......。


『さて堅苦しい話はこのくらいか?次は色々と話を聞かせてくれるか?天狼の事や外の世界の事、お前自身の話をな。』


そう言った応龍様は雰囲気を柔らかくする。


「はい!では、僕がこの世界に来たところから......。」


神域を出てからの話は母さんにも今度しないといけないし......ここで応龍様に話をしながら纏めていこう。




『はっはっは。中々面白い経験をしてきたようだな。しかし、あやつの子とは思えぬほど慎重な動き方をする。』


俺の話が一段落したところで応龍様が非常に機嫌が良さそうに笑う。


「母さんからは細心の注意で事に当たれときつく言われていますが。」


『......ほう。猪突猛進娘がな......自分を反面教師と考えたか。』


「猪突猛進......母さんがですか?」


『昔の話は絶対にするなと釘を刺されているからあまり言わぬが......身体強化の魔法は単純に強力だからな。一気に突っ込んで敵を制圧、多少の怪我は回復魔法で治してすぐに次へ。そういう戦い方を好んでおったな。』


「なるほど......。」


確かに母さんはそういう戦い方が出来そうだし......手っ取り早いのも分かるけど......。

母さんが俺に教えてくれた戦い方はとにかく正面から立ち会わずに側面から回避を重視。

相手の戦闘力を削ってから止めを刺すといったやり方だ。

真正面から突っ込んで力でねじ伏せるって言うのとは逆だね......。


「僕の場合は神域にいた頃は魔力が使えませんでしたし......基本的に戦いというか危険からは絶対に逃げろと言われていました。」


『魔力が使えない状態で戦うのは自殺以外の何物でもないだろうな。赤子にすら負けるのではないか?』


「母さんにも世界最弱の存在だと言われました。」


『はっはっは。無事ここまでたどり着けて良かったな。そこに控えている影狼......シャルと言ったか。』


俺の後ろに控えていたシャルが一歩進み出て頭を伏せる。


『お前のような忠勤に励む眷属に仕えられてケイもさぞや鼻が高いであろう。改めて言う事でもないと思うが、これからもケイに良く尽くしてやってくれ。お前がいなければ、今日ここでケイと会うことは出来なかったであろうからな。』


シャルが深く頭を下げて先ほどの位置まで下がる。

恐らく応龍様に念話で何かを言ったのだろう、応龍様が何度か軽く頷いているのが分かった。


『お主の眷属は見事だな。私の眷属の中にもその者程の実力者は一人しか思い当たらないな。』


シャルってそんなに凄いのか......もしかして母さんの眷属の中でも一番強いんじゃ。

族長の子供って言っていたからてっきり族長の方が強いのかと思っていたけど......神域の外と違って争う必要がないから族長だから一番強い必要はないのかな?


「そうなのですか。影狼の族長の子と母から紹介してもらっていましたが、そこまでとは知りませんでした。母は自分の眷属の中でも最高戦力を僕に付けてくれていたのかもしれませんね。」


『恐らくそうだろうな......だが、今その者はお前の眷属だろう?もう少し能力を把握しておくべきではないか?』


「そういうものですか?」


確かに仲間の能力の把握は必要かもしれないけど......ある程度の強さは把握している。

ただ他の人がどのくらいの強さなのか分からないから基準がなぁ......ん?


「......私の眷属?」


『どうかしたか?』


「シャルは母の眷属であって私の眷属ではないですよ?」


『何を言っている。その者はお前の眷属だろう?』


......?

どういうこと?

疑問符を浮かべながらシャルの方を見ると目を丸くしている。

あれ?


『ケイ様、私はケイ様の眷属です。マナス、ファラも同様です。』


......今初めて知る衝撃の事実!

シャルとマナスとファラが俺の眷属でした!

あれ?グルフは?

っていうか眷属って具体的にどういうものなのかな?


「......グルフは?」


『グルフは眷属ではありません。ケイ様が望まれるなら眷属に出来ますが、まだ実力的に不足しているのでもう少し成長してからのほうが良いかと思います。』


グルフは意図的に眷属になっていない感じなのか......でもみんないつの間に眷属になったのだろう?

何か条件があるのかな?


「そっか......その辺はまた今度話を聞かせてもらえるかな?」


『承知いたしました。』


「すみません、応龍様。お話の途中で。」


『いや、構わない。しかし、知らずに眷属にしていたという事か。まったくあの娘は......色々と抜けているではないか。』


応龍様にとっては母さんも娘みたいな感じってことなのだろうか?


『まぁその辺はまた改めて天狼から話があるだろう。さて、もう少し外の世界の話を聞かせてもらえるか?私の眷属は神域の外にいるとは言え、あまり世にはかかわらないようにさせているからあまり知っていることが多くなくてな。』


「私もまだそこまで世間に慣れているわけではないですけど、それでよければお話しします。」


『頼む、お前が今度連れて来る友人とやらにも興味がある。少し聞かせよ。』


応龍様のリクエストに応えて、今度は身近な人たちの話をすることにした。

応龍様にも色々話を聞いてみたい事もあるけど、まずは母さんに話を聞いてからのほうが良いかもしれない。

色々と口止めされているっぽい感じもするしね。


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