第217話 魔道具の問題点



「ナレアさん、大丈夫ですか?」


先程から何かを悩んでいる様子のナレアさんに声を掛ける。


「......あぁ、大丈夫じゃ。」


「さっきの魔道具で何か気になることがあるのですよね?」


「......うむ。ちょっとまずいことに気付いてしまってな。」


「何か大きな欠陥でも?」


「いや、欠陥ではないのじゃ。人間以外の生物の視覚を共有出来るという点で少し気になってのう。」


「便利でいいと思いますが......。」


ファラとの視覚共有はかなり便利だと思うけど......何が問題なのだろうか?


「うむ、確かに便利でいいと思うのじゃが......この魔道具は元々龍王国での襲撃者が持っておったものを妾とアースで独自に解釈して開発したものじゃ。」


「......流石お二人だと思いますが......。」


「うむ、称賛は嬉しく思うが......あの襲撃をしでかした連中が動物と視覚を共有出来るようになるのじゃぞ?」


激しく危険な感じがしてきた......。


「それは確かに危なそうですが......普通の動物や魔物じゃぁ魔道具を起動できないんじゃないですか?」


「確かに動物側から魔道具を起動させるのは難しいかもしれんが、遠隔での起動や時間経過による起動をさせれば何とかなるかも知れぬのじゃ。それが実現し、訓練した魔物を使えばファラ程とは言わぬが今よりも遥かに機密に近づきやすいじゃろうし、先ほども言ったように監視対策の魔道具に反応しないのじゃ。」


「......もし、あの時襲撃を仕掛けてきた連中がその手の実験を始めていたとしたら、相当な脅威になりそうですね......。」


ファラのお陰であらゆる場所のネズミ君達に協力させている俺達が言うのもなんだけど......。

動物の斥候やら密偵は......非常に便利で、される側からしたら防ぐのが難しい。

どんな動物が使われるか分からないとなるとすべての生物を疑ってかかる必要がある。

今ファラは魔道具を首輪のようにしているがもっと小さくすることだって可能かもしれない。

そうなると......ただの野生の動物なのかどうかの区別もつかなくなる。

虫辺りにその魔道具を付けられるようになったら......もう防ぎようが無いかもしれない。

蟲使いとか魔物使いとか......そういう人達っているのだろうか?


「うむ、我らはそいつらのやっていた事の後追いじゃからな......既にそういったものを完成させている可能性も否めないのじゃ。」


「物凄くゾッとする話ですが......僕達も同じことやっていますよね......。」


っていうかそれ以上の事をやっている気がする。

完全に統率されたネズミ君達の軍団......意思の疎通も完璧だ。


「そうじゃな。よくレギ殿達が冗談でケイがその気なら......と言っておったが、龍王国で相手がやったことを考えると碌なことにはならぬじゃろうな。」


「かと言って......警戒のしようがないですよね?相手の素性も狙いも......襲撃者が自害したせいでほとんど何も分かっていないのですから......」


「うむ......じゃがヘネイにはこの話を通しておいた方がいいじゃろうな。しかし普通の方法では手紙は届くかどうかわからぬな......アースなら距離的にはすぐに届けられそうじゃが。」


いくらアースさんが気さくな方とは言え、完全にスケルトンだからな......王都に行くのは不可能に近い。


「アースさんにお願いするのは厳しいと思いますけど。」


「あやつがいなくなっては妾も困るからのう......こういう時の為にアースの元にネズミを何匹か配置してもらっておくかのう?」


「あぁ、それはいいかもしれませんね。ネズミ君が了承してくれるならアースさんの所に常駐してもらいましょうか。」


アースさんの許可も必要だと思うけど......世話の必要はないから多分大丈夫だと思う。

ファラの部下は清潔にも気を使ってくれるしね。

今度ファラとアースさんに相談してみよう。

アースさんとの連絡は簡単に出来るけど、そこを起点にヘネイさんとの連絡も取りやすくなれば色々と都合がいいかもしれない。


「とは言え、それは今後の事になるからのう。とりあえず今回はどうやってヘネイに連絡をしたものか......今回の件が終わればグルフ達に届けてもらうかのう?」


「そうですね。グルフと......マナスに行ってもらいましょうか。マナスだったらヘネイさんも会ったことがあるので大丈夫だと思いますし。」


「では、後ほど頼むとするのじゃ......む、どうやらファラが到着したようじゃな。視覚の共有が始まったのじゃ......なるほど、これがアザル兵士長か。」


ナレアさんが目を瞑り、ファラから送られてくる視界に集中しているようだ。


「ふむ、聞いていた通り......随分と不機嫌そうにしておるのじゃ。」


ナレアさんが目を瞑ったままぶつぶつと呟く。

......ここではないどこかを見ながらぶつぶつ呟くナレアさんか......。


「ん?何やら不快な感じがするのじゃ。」


「......。」


完全に別の場所を見ている上に、俺は一言も発していないのですがね......。

......いや、アザル兵士長が何やら不快な行動を始めたのかもしれないな。

裸踊りとかかな?


「これは恐らく、ケイが目を閉じた妾の事を厭らしい目で見ているに違いないのじゃ。」


「違いありますね。」


見ていたことは事実だけどさ。

厭らしいと言うよりも、ちょっとアレなものを見る目だけど......。


「む?不快度が増したのじゃ。やはりケイが原因なのは間違いなさそうじゃな。」


「......。」


まぁ、今更驚きませんけどね......?

多分魔力的な何かで俺の思考はきっと読まれているんだ......。

しかし......それを制限する術を得る必要があるよね......。

どうしたものかと考えているとナレアさんが目元を抑えて手にしていた魔道具をテーブルの上に置く。


「......少し目が疲れると言うか......なんとも不思議な感覚がするのじゃ。あまり長時間使い続けるのはまだ無理の様じゃな。」


「大丈夫ですか?」


「うむ、問題ないのじゃ。疲れる感じはするが、ケイも試してみるかの?」


「はい。手に持って起動するだけでいいですか?」


「うむ。目を開けていると自分の視界とファラの視界が混在して、何ともおかしなことになるので目は閉じた方がいいと思うのじゃ。」


「了解です。じゃぁ、使いますね。」


俺はテーブルの上に置かれていた魔道具を手に取り目を瞑ってから魔力を流し込む。

すぐに光を感じ目の前にファラの見ているであろう光景が見えてくる。

そこに広がっていたのは......一つの部屋。

書斎だろうか?

背の高い本棚が壁際に並び、中にはびっしりと本が詰まっている。

窓際に置かれた高級そうな机にも本が積まれているが......本を読むための机というより執務の為の物といった感じの机だ。

部屋の中にいる人物は一人。

今は本棚を眺めていてこちらに背を向ける形になっている為顔は見えないが、あれがアザル兵士長なのだろう。


「見えてきました。」


「問題ないようじゃな。違和感を感じ始めたらすぐに魔道具の使用をやめるのじゃぞ。」


「わかりました。」


俺は視界の方に意識を集中する。

後ろ姿なので人相等はまだ分からないけど......想像よりも細いな。

物凄く強くて、ダンジョンで怪我一つ負わない戦士って話だったからごりごりのマッチョ姿のおじさんを想像していたのだが......ちょっと......いや結構想像と違ったな。


「意外と細身ですね。」


「そうじゃな。妾が想像していたよりも若いようじゃしな。」


「そうなのですか?今背を向けているのでまだ顔が見えないのですよね。」


「ほう、妾が見ておった時は机に座っておったから顔が見えたのじゃがのう。」


顔を見るのが目的だから振り返ってもらいたいけど......何やら本を探しているようでその気配は全くないな。


「ファラが位置を変えないってことは、結構頻繁に机から立ち上がるのかもしれないですね。すぐに机に戻ると思いますが......。」


そこまで言った所でアザル兵士長が手を伸ばし一冊の本を手に取って机に戻っていく。


「あぁ......動きました。顔が見えそうです。」


頭を掻きながら机に戻っていくアザル兵士長。

男性にしては結構髪が長いな......女性のセミロングとショートの中間くらい?

金髪で肩に掛かるか掛からないかくらいの長さがある。

男性にしてはって言ったけど......カザン君は結構どころか、かなり長かったな。

カルナさん状態のロングヘアも自前の髪を普通に下ろしただけだもんな。

そんなことを考えていると椅子に座ったアザル兵士長の顔がこちらを向いて、ようやく見ることが出来た。


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