第244話 あの時のあいつら
ナレアさん達が領都を発ってから数日、毎日定期連絡は欠かさずに行っていたのだが今日は少しナレアさんから報告があるという。
『奴等の歯になっていた魔道具の解析が完了したのじゃ。』
「あぁ......口の中のアレですか......結局全員仕込んでいたんですよね。」
『うむ。しかし......ロクでもない効果を及ぼすのじゃ。正直、自分の口の中には絶対に仕込みたくないのう。』
「一体どんな効果だったんだ?」
心底嫌そうな声で言うナレアさんにレギさんが問いかける。
『起動すると毒を発生させるのじゃ。強力な毒ですぐに死に至る。』
「自決用か......。」
『うむ。そんなものを自分の歯に仕込んで......間違って起動でもすればその場で終わりじゃな。解毒剤を持っているのかどうかは知らぬが......少なくとも解毒用の魔道具は持っておらぬようじゃったな。』
うっかり起動したら即死って......怖すぎるのだけど。
奥歯に毒を仕込むってよく物語とかで見たことあるけど......それより安全なのかな?
ってかあの手の話でよく思うのは......奥歯に仕込んだ毒ってどうやって使うんだろ?
食事中にうっかり、とかないのかな......?
そんなしょうもないことを考えていたが、その間もナレアさんの話は進んでいる。
「それで、思い出したことがあったのじゃ。龍王国の時の襲撃者。あやつらの死因は毒じゃった。」
「あぁ、そう言えばそうだったな。」
『毒の出どころが分からなかったこともあって、自殺か他殺なのかは分からなかったようじゃが......この魔道具を使っていたのかもしれぬ。』
「......ナレアさんは龍王国の襲撃者たちも檻の構成員だと考えているのですか?」
『まだ確証はないが......恐らくはそうじゃろうと考えておる。口内に仕込んだ魔道具もそうじゃが......今回回収した魔道具は解析をしなければ効果が分からない物が殆どじゃった。一般に出回っているような魔道具であれば、妾は一目で大体の効果が把握できるにも拘らずじゃ。』
一目で魔道具の効果が分かるってのはどのくらい卓越した技術なのか......少なくとも俺の目には羊皮紙に掛かれた大きな魔術式ならともかく、魔晶石の中に転写された魔術式はすべて同じものに見える......。
『口の中に仕込まれていた毒の魔道具は一回限りの使い捨て、一度発動してしまえば魔晶石内の魔力を全て使い切りただの石に戻る。これは魔物の体内に入っていた魔道具と同じ仕組みじゃな。魔術式としては別の物じゃったが隠蔽の仕方は同じと言える。』
なるほど......確かに同じ魔術師......もしくは同門や同じ組織の作った魔術ならその辺は似通っていてもおかしくはない。
「そう言った魔道具の隠蔽っていうのは珍しいのですか?」
『そうじゃな......基本的に魔晶石は貴重じゃからな。そのような勿体ない使い方をする物ではないのじゃ。よほど魔晶石や資金に余裕があったとしても、中々そういう発想は出てこないじゃろうな。』
神域産の魔晶石は魔力量も豊富で......魔力の補充も俺なら可能だけど......普通、魔晶石はダンジョンか攻略済みのダンジョン跡地から発掘するしかない。
それ以外の場所でも極まれに採れるらしいけど......基本的にはダンジョン関係だけだ。
そのダンジョンも発生してすぐに攻略してしまっては魔晶石は大して取れない、しかし長年存在し続けたダンジョンは中にいる魔物もボスも強力になる。
当然攻略は一筋縄ではいかない......普通はレギさん達から聞いているように時間と人員、お金を多く使い攻略する物だ。
そうやって手間暇かけて攻略したダンジョンから採れる魔晶石をほいほい使い捨てにするような魔術式は、そうそう組めないだろう。
そんな代物を檻は構成員をも使い捨てにする魔道具として使っている。
人員も魔道具も......使い方が勿体なさすぎる。
そんな組織が複数あると考えるよりも、同じ組織と考える方が自然か。
一体どれほどの規模の組織なのやら......。
『やはり、ヘネイに連絡を取った方が良さそうじゃな。』
龍王国のヘネイさんか......確か動物とも視界が共有出来る魔道具の事を伝えようとしていたんだっけ?
「すぐにグルフ達に行ってもらいますか?」
『難しいところじゃな......正直妾自身が足を延ばしたいところでもあるのじゃが......アザル兵士長達を捕らえたとは言え、まだグラニダから戦力を離すのは得策とは言えぬ。分体を送れるマナスならともかく、妾やグルフはまだここを離れない方がいいじゃろうな。』
「確かに......そうですね。」
回収した魔道具の中にまだ危険な代物があるかもしれないし、その辺の解析も必要だろう。
ナレアさんが今龍王国に行ってしまったら、魔道具への対処がかなり後手に回ってしまう。
アザル兵士長達が手持ちの物以外で魔道具を何か仕掛けていた場合、かなり困ったことになるのは想像に難くない。
特に領主館辺りはアザル兵士長が常駐していたわけだし、何か仕掛けられていてもおかしくはない。
「そういえばナレアさん。よく口の中に仕込んであった魔道具に気付きましたね?覗いたんですか?」
『......覗くわけないじゃろ。気色悪い。魔道具を検知する魔道具を使っただけじゃよ。武装解除をする時は必須じゃな。レギ殿達も持っておるじゃろ?』
「あぁ、常備してるぜ。」
『私も持ってるよー。』
「初耳......だと思うのですけど。」
そんな魔道具があるって話は聞いたことがないような......あるような......でも常備しているって話は聞いたことが無い。
「すまん。確かにケイに教えた覚えがないな。対人戦において魔道具切り札......一般的には切り札だってことは理解してるな?」
「えぇ。」
レギさんの説明に頷く。
俺は今まで魔道具を使って戦う人をナレアさんくらいしか知らないけど......魔道具とは本来切り札として、ここぞって時に使うものだって話を以前にも聞いたことがある。
効果もさる物ながら高価な物だからという面が大きいとも。
「それでだ......対人戦ってのは基本的にロクでもない理由で発生することが多いだろ?」
「えぇ。まぁ......対人戦に限らず戦闘は基本的にそうだと思いますけど。」
俺の揚げ足取りの様な返答にレギさんは軽く笑うと言葉を続ける。
「確かにな。まぁ対人戦において、襲い掛かってきた奴の身ぐるみを剝がすのは常識だ。」
「み、身ぐるみをですか?」
それって強盗なんじゃ?
「盗賊にせよ、襲撃者にせよこちらの命を狙って襲い掛かってくるんだぞ?最低でも倒したら武装解除するだろ?」
「あぁ、それは確かにそうですね。」
倒した相手の装備をそのままにする意味はない......寧ろ手痛い反撃を受ける要因を排除するのは当然の事だ。
「そういう場合に、相手が隠している魔道具を調べるのに使うのがこの魔道具だ。」
そう言ってレギさんは指にはめている魔道具を見せてくれる。
正直レギさんには似合わない、ちょっとかわいいデザインの指輪だなぁと思っていたけど......魔道をを検知する魔道具だったのか。
「まぁ、これはそこまで性能のいいものじゃないけどな。」
『妾という魔術師とケイの魔晶石があるのじゃから、いつでも良い物を作れるのじゃぞ?』
「ははっ、それもそうだな。こいつは思い入れがあったから使っていたが、そろそろ代え時だな。」
そう言ったレギさんは感触を確かめるように手を握ったり閉じたりしている。
何かを思い出しているだろうレギさんはとても穏やかな顔をしている。
『......。』
何やら通信用の魔道具の向こう側がキャイキャイと騒がしい気がするけど......もしかしてその指輪についてリィリさんが語ったのだろうか......?
よく聞き取れないけど非常に楽しそうなナレアさんの声と慌てた感じのリィリさんの声が聞こえて来た。
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