第245話 忘れていませんでしたとも!



「ところでセンザの街は今どんな感じですか?」


魔道具の向こう側が落ち着くのを待ってから声を掛ける。


『おぉ、すまぬのじゃ。中々興味深い話だったので盛り上がってしまったのじゃ。うむ、センザは今どんどん人が集まって来ておるな。』


「人がですか?」


「うむ、セラン卿達の呼びかけに応えてといった所じゃな。それと明日、カザンが声明を出すそうじゃ。その後、領都に向けて行軍を開始とのことじゃ。妾達はカザン達の後に領都に向けて発つ。」


「人が集まると言っても、まだアザル兵士長を捕らえると決めてから十日くらいしか経っていないですよね?そんなにすぐ集まるものですか?」


『元々集め始めていたということもあるじゃろうが、別に兵力を集めておるわけでは無いからのう。主要な人物が取り急ぎ馳せ参じた、といった所じゃな。』


「なるほど......。」


『行軍と言っても基本はセンザの兵じゃからな。地方軍や辺境軍が勢ぞろいして轡を並べるわけでは無いのじゃ。そもそも戦闘が目的ではないしのう。儀式のようなものじゃ。』


復権したっていうデモンストレーションが目的ってことか。

そういう分かりやすさが大事ってことだね。


『領都に着くまでは半月ほどかかるはずじゃが......既に領都内での敵対勢力は排除が済んでおるようじゃかならな。アザル兵士長の率いていた兵はコルキス卿によって領都より移動させられておる。』


「そうなのですか?」


『聞いたところでは、こちらの勢力下の地方軍に名目上は上役として分散配置しておるようじゃな。明日のカザンの声明と同時に大多数が捕縛される手筈じゃ。』


「なるほど......。」


『ちなみにカザンもセラン卿もエルファン卿も死にそうな顔になっておったのでな。薬を飲ませながら疲労回復魔法を少し掛けてやったのじゃ。その甲斐あって多少は顔色が良くなったが......本当に休まず動き続けておるようじゃな。やることが多いのは分かるが、今奴らが倒れてしまっては意味がなくなってしまうというにのう。』


ナレアさんが少し呆れたような声で言っているけど......仕方ないと思っている部分が多そうだ。

上の人達が忙しそうなのは......それを実際見ていない人たちには理解出来ないことだよなぁ。


『今はナレアちゃんやケイ君の回復魔法があるからいいかもしれないけど......私達がグラニダを離れたらカザン君倒れちゃうんじゃない?』


魔道具の向こうからのんびりした口調で不穏なことを言うリィリさんの声が聞こえてくる。

しかし、話を聞くに今のままだと遠からず訪れそうな未来だな......。


「魔法を込めた魔道具を作って渡しましょうか......ナレアさん、以前カザン君達の魔力量は結構あるって言ってましたよね?それって魔法系の魔道具も使えますよね?」


『うむ、一度に何度も使うのは難しいとは思うが......恐らく問題ないじゃろう。』


「疲労回復の為の魔道具を使って、魔力が全部なくなってしまっては本末転倒ですよね......一度試してもらいましょうか。」


センザの街に初めて行った時にナレアさんお手製の魔道具をいくつか渡しておいたけど......魔法を込めたものは渡していなかったからな......。


『それがいいじゃろうな。一気に回復する物より回復力向上の方が良いかも知れぬがのう。一気に回復する物を渡したら魔力の限界まで無茶をしそうじゃからな。』


「確かにそれはそうですね......。」


無理をさせない様に渡そうとしているのに、渡したことによってよりいっそう無理をされては本末転倒だ。


『そう言えば、ケイよ。以前ノーラに空を飛べるようにしてあげるとか約束しておらなんだか?』


......言われてみれば......ノーラちゃんに約束していたな。


「も、勿論覚えていましゃにょ!?」


『ノーラに伝えておくのじゃ。』


「やめてください!?今!今作ります!」


俺は懐から革袋を出し、その中に入っている神域産の魔晶石を手の上に出す。

とりあえず宙に浮くだけの魔法を籠める。

あまり高く飛べるようにしてしまうと危ないので、とりあえず五十センチ程浮くだけの代物だ。

二つ目の魔晶石には、前後左右に歩く程度の早さで移動出来る魔法を込めた。

この二つを使えば、ふよふよと低速で宙を飛ぶことが出来るはずだ。

きっとノーラちゃんはあの時の模擬戦で見せたように、空高くまで飛ぶことを望んでいるのだろうけど......いきなりあれは危険すぎる。


「出来た!出来ました!動作確認もしておくので、ノーラちゃんが領都に来る頃には渡せますよ!?」


『約束を忘れておったのでないのかの?』


「まさかー。ノーラちゃんとの約束を忘れるなんて、とんでもない!」


『そうじゃよなぁ。とんでもないことじゃ。』


『うんうん、ケイ君がそんな人でなしじゃなくって私は安心したよ。』


因みに俺は今現在、全く安心できていません。


『ところでケイよ。妾、前から欲しい本があるのじゃが。』


『私は食べてみたいご飯があるんだよね。でも食材の確保が凄い大変なんだー。』


『俺は最近予備の武器がへたれてきてなぁ。』


「勿論皆さんの相談にもしっかり乗らせていただきますよ!」


レギさんまで参加してくるとは予想外だったけど......。

そんなことを考えているとトントンと肩を叩かれる。

そちらに目を向けるといつも通りマナスが肩に乗っていたのだが......何故かいつも身体を拭いてあげている布をこちらに差し出している......。

マナス......君もか!?

まぁ要求が可愛いし、いつもしてあげていることだから全然問題ないけど......いつもより入念にしてあげるとしよう。

ふと気になって反対側の肩に掴まっているシャルに目を向けると......つぶらな瞳でこちらを見ながら尻尾がパタパタと揺れていた。

口には出さないけど、物凄く期待されている気がする。

シャルにも入念にブラッシングをしてあげるとしよう。

窓際にいるファラは......目を瞑って俺達の話を静かに聞いているように見える......でも、何やら髭がぴくぴくしているような......。

まぁ、マナスやシャルにだけやってあげるって選択肢はないよね。

最近三人にもゆっくりと構ってあげられなかったしな......グルフもだけど......一先ず今傍にい三人をしっかり労わろう。

グルフは領都に戻ってきたらいっぱい遊んであげるとしよう。


「......一気に魔道具を作ってしまいましたが......ノーラちゃんが使う前にナレアさんも試してもらえますか?一応安全を考慮して大人の膝くらいの高さまでの浮遊と、歩く速度くらいの横移動が出来る物を作ったのですが......。」


『ふむ、そのくらいであれば安全面は問題なさそうじゃが......少しノーラの希望とは違うのではないかの?』


「それはそうですが......いきなり魔道具で空高く飛ぶって言うのは危ないと思いますし......まずはこの魔道具で練習ってことで何とかなりませんかね?」


『そういうことであれば納得してもらえるとは思うが。次の段階の物も必要になるのう。』


「それは構いませんが......魔術式の無いタイプの魔道具を大ぴらに使うのはまずくないですか?」


『確かにのう......では偽装用の魔道具を妾が作るのじゃ。それと同時に使う様にすればある程度は誤魔化せるはずじゃ。魔術師自体数が少ないしのう。それにノーラであれば扱いに気を付けるように言っておけばしっかりと守るはずじゃ。』


確かにノーラちゃんであればその辺はしっかりしそうだ。

ただ飛ぶことに関してはテンションが上がって無茶しそうなイメージが払拭出来ないし......段階を踏んでもらおう。


「そうですね。ではいくつか高度や速度の段階を踏んだ魔道具を作っておきます。偽装用の魔道具はお手数ですけどナレアさんお願いします。」


『うむ、そう難しいものではないからのう。領都で合流する前には用意するのじゃ。』


「ありがとうございます。」


これでとりあえずノーラちゃんとの約束は守れそうだ。

すっかり忘れていたけど、約束を破ることにならなくて良かった......。


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