第163話 帰郷
「この先が神域って所か......。」
神域の結界を目の前にしてレギさんが目を細めているが......特に周囲の森と何も違いはないはずだ。
妖猫様の空間魔法とは違うらしいけど......どうやって結界を作っているのか聞いてみようかな?
「レギさんとリィリさんは神域に来るのは初めてですね。僕としては少し暖かくて心地のいい場所なのですが......。」
そう言ってナレアさんを見る。
ナレアさんは少し考えてレギさんたちに言う。
「心地良いとは言いにくいのう......とにかく魔力の濃度が凄いのじゃ。ダンジョンのような嫌な感じではないのじゃが......常に巨大な何かに押しつぶされそうな......凄まじい重圧を感じるのじゃ。」
「「......。」」
「いや、そこまで脅さないでくださいよ。大丈夫ですよ。強化魔法で色々と軽減できるようなので、もし辛かったら言ってください。強化を強めにするので。」
「レギ殿は魔力が少ない方じゃからな、最初から少し強めに魔力に対する抵抗をかけておいた方がいいのじゃ。」
「分かりました。」
ナレアさんのアドバイスに従ってレギさんに強化魔法をかけてから肩にいるシャルに話しかける。
「そろそろかな?」
『はい、一瞬だけ結界に穴を開けてもらえます。すぐに閉じられるので合図をしたら急いで中に入ってください。』
「了解。合図をしたらすぐに進んでください。」
「了解じゃ。」
ここを出て一年程が経過しただろうか?
随分と久しぶりのような気もするし、ついこの前ここから出てきたような気もする。
不思議な感じはするが......うん、母さんに合うのは楽しみだ。
やがてシャルから合図を出された俺たちは、急いで神域へと飛び込んだ。
久しぶりの母さんの神域はやはり暖かくて心地よい、非常に過ごしやすい気候だ。
ぱっと見た感じ母さんは近くには居ないみたいだけど......。
「「......。」」
レギさんとリィリさんが絶句しているようだ。
「どうしました?」
「......いや。ナレアの言うことを肌で感じているところだ。」
「うん......これは凄いね......魔力の濃さが......まるで水の中にいるみたいに抵抗を感じるというか......。」
「ダンジョンのように肌に刺さるような嫌な感じでは無いのじゃがのう。」
ナレアさんがそう言った瞬間、一陣の風が吹き木の葉が舞い上がる。
そして懐かしい気配と共に白く美しい狼が俺達から少し離れた位置に姿を現した。
『ようこそ、私の神域に。歓迎しますよ。そして、おかえりなさい。ケイ。』
「ただいま帰りました。母さん。」
俺は母さんに近づき抱きしめる。
母さんは俺の頬に顔を擦り付けると一度だけ鼻を鳴らした。
「話したいことは沢山ありますが、まずは紹介させてください。外の世界で出来た僕の仲間達を。」
俺は母さんを伴って皆の所に戻る。
「皆さん、こちらが僕の母の神獣で、天狼。セレウスです。」
皆にそう紹介すると母さんは少し驚いたようにこちらを見た後向き直り、皆に頭を下げる。
何か驚くようなことを言っただろうか?
「母さん、こちらはレギさん。僕が外の世界に出て以降ずっとお世話になっている方です。レギさんのお陰で外の世界で無事に生きてこられたと言っても過言ではありません。」
「初めまして、天狼様。ケイはそう言ってくれていますが、私の方こそケイには世話になりっぱなしです。」
『セレウスと呼んで下さって結構ですよ、レギ殿。息子がお世話になっています。』
そう言ってお互いに頭を下げる。
こういうときって微妙に手持ち無沙汰になるというか、次に紹介する人のタイミングが難しいなぁって思うのは俺だけだろうか?
「こちらはリィリさんです。とても優しい方でいつも助けて下さります。リィリさんとはダンジョンで出会ったのですが......少し相談したいことがあるので後で話を聞いてもらえますか?」
「初めまして、セレウス様。リィリと申します。ケイ君がいなければ私はこうして生きていることは出来ませんでした。ケイ君と出会う切っ掛けを作ってくださったセレウス様にも本当に感謝しております。」
そう言ってリィリさんは深く頭を下げる。
『そうでしたか。息子が貴方を助けることが出来た事は誇らしく思いますが、私は何もしていません。息子とそしてなにより貴方が身命を賭して頑張ったからこその結果だと思います。先ほど息子が言っていた相談したい事というのは出来る限りお力になりたいと思いますので、よろしくお願いしますね。』
ゆっくりと頭を上げたリィリさんは嬉しそうに微笑む。
それを見た母さんも穏やかに笑っているように見えた。
「彼女はナレアさんです。色々なことを知っていて非常に頼りになりますが......自分の興味があることになると周りが見えないくらいのめり込むことがあったり、たまに抜けているので目を離せないですね。」
「......おい、ケイ。なんで妾だけそんな紹介なんじゃ。」
ナレアさんが睨みながら言ってくるが......素直に紹介しただけですよ?
『ナレア殿、息子と仲良くしてくださってありがとうございます。それと、息子が不躾なことを言って申し訳ありません。』
あ、しまった。
母さんに謝らせてしまった......。
「顔を上げて頂きたい、セレウス様。ケイとは気の置けない友人であり妾もつい軽口を叩いてしまうのじゃ。妾の方も不作法を許してほしいのじゃ。」
ナレアさんがフォローしてくれたが......反撃しますねと宣言もしているようにも聞こえる......。
それに気づいたであろう母さんもナレアさんに向かいこくりと頷く。
後が微妙に怖いな......。
俺はその後、マナス達を紹介して最後にシャルの事を母さんに伝える。
『陰に日向に、よくケイを支えてくれました。これからも眷属として良くケイに仕えてあげてください。』
母さんに労われたシャルは深く地面に伏せ動かなくなる。
その姿を嬉しそうに見た母さんは踵を返す。
『皆さん、どうぞこちらへ。仮宿に出来る程度の場所は用意しています。』
「ありがとうございます。母さん。」
『......折角お友達がうちに来てくれたのに、カ〇ピスは出せませんね。』
「それって僕の記憶から読み取ったやつですよね......まぁ久しぶりに飲みたい気もしますけど。」
並んで歩いていると母さんが冗談を言ってくる。
多分小学生くらいの頃の記憶から引っ張ってきたネタだろうけど......母さんがそんな茶目っ気を出すなんて......結構喜んでテンション上がってくれているってことかな?
そのまま暫く母さんの案内に着いて行くと、俺にとっては懐かしい川の近くの洞窟まで来た。
ここも俺がいた頃と全く変わっていないようだが、木で作ったテーブルや椅子が増えているな......。
母さんが作ったのだろうけど......どうやって作ったのだろうか?
『適当に座ってください。お茶を用意しますね。』
そう言って洞窟に母さんは向かう。
「手伝います。」
俺が母さんに続こうとするが座って待っていなさいと俺の事を制される。
「本当に母親なんじゃな。」
ナレアさんが洞窟に消えていった母さんの後ろ姿を見送った後ぽつりと呟いた。
「うん......想像していたよりもずっとお母さんって感じだったよ。」
「あぁ、驚いた。」
「それに、セレウス様に会ってから神域の重圧が軽くなった気がするよ。」
「言われてみれば確かにそうだな。」
「何か強化魔法を掛けてくれたのかもしれぬのう。」
「なるほど......適切な強さで強化してくれたってことかな?」
皆が母さんに対する感想を言っているが......なんか夏休みとか誕生日会を思い出すな......。
「それにしても静かな森だな。」
レギさんが辺りを見渡しながら言う。
「そうだね......生き物の気配が全然感じられないって言うか。自然は凄い豊かなのに不思議な感じ。」
『この神域には私の魔力が満ちていますので。普通の生物は生きていくのは難しいのですよ。勿論全くいないと言う訳ではありません。魚や鳥なんかはいますよ。』
母さんがお盆を片手......ではなく尻尾に乗せて戻ってくる。
尻尾の毛まで強化しているんだろうな......。
母さんが持ってきたお盆を受け取り、皆の前にお茶を置く。
『それではケイ、話を聞かせてもらえますか?』
話したいことは沢山ある。
それに聞きたいことも。
でもまずは順番に。
神域を出てすぐ、グルフとの出会いから話していこう。
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