5章 東の地
第162話 という夢を見たんだ
「実はな......俺達離婚するんだ。」
......夢か。
俺がまだ日本にいた頃の......圭佑だった頃の思い出だ。
両親に離婚すると言われた時の事のようだけど......。
「しようと思うっていう相談じゃなく、離婚するっていう報告?」
「あぁ、決定事項だ。」
「......ちょっとよく分からないんだけど......俺の目には二人とも、息子的にはちょっと引くくらい仲が良く見える。」
「当然だ。俺は母さんを愛している。」
「勿論私も父さんを愛しているわ。」
この時俺はついに両親の頭がおかしくなったと思ったんだ。
とりあえず思春期の息子の前でいちゃつく二人の事は普段からちょっとおかしいとは思っていたけど。
「実に混乱してくれているようで何よりだ。突然言った甲斐がある。」
「今日一番の驚きはいただきね!」
「今日一どころか今年一番......俺の人生で一番驚いていると思うよ。」
「経験が浅いな。」
「そういうのいいから話進めてくれないかな?納得させてくれるんでしょ?」
夢の中だから当然ではあるけど......相変わらずおちょくるような物言いだ。
「納得するかどうかは分からないな。」
「そうね、私たちの話を聞いて何を感じ、どう考えるのかはあなた次第。そしていつも言っているわね?」
「自分のやりたいように、自分で考えて、自分で決めろって?」
「そうだ。好きに生きればいい、言ってくれれば手伝いはするし決して邪魔はしない。父さんも母さんもそうやって来た。」
「そして勿論、それが不安だって言うなら......自分で決めたくないって言うなら私たちがガッチガチに固めたレールを牽いてあげるわ。それを自分で選んだのだから文句はないでしょう?」
零か百かって極端すぎるだろ......まぁ、相談や手伝いを頼むのも俺の意志で出来るのだから文句は全くないのだけど......。
「分かったよ。とりあえず、また話が逸れているから離婚について聞かせてよ。」
「そうだな。まぁ簡潔に言うとだ、俺と母さんは偽装結婚の様なものだったんだ。」
そう、ここ時点で俺の人生一番の驚きは塗り替えられたのだ。
短い王座だったな......離婚話。
「嘘でしょ?」
「まぁ落ち着け。あくまで様なもの、だ。」
「昔はね、結婚こそ人生の目指すところと言わんばかりに結婚、結婚って言われていたのよ。」
「父さん達は当時結婚に全く興味がなくてな。だが家族は結婚しろと煩い。そんなことよりもやりたいことがあるっていうことを全く理解してもらえなかったんだ。」
「自分たちの価値観こそ絶対っていうことね。押し付けられるほうはたまったものじゃないでしょう?」
そう言って肩をすくめる両親はだからこそうちは今の教育方針なのだと言っているように見えた。
「それで父さんは思ったわけだ、似たようなことを言われて辟易としている女性がいるんじゃないかってな。」
「母さんも考えたのよ。同じ境遇の人であれば面倒なことを抜きに出来るんじゃないか、ってね。」
「そんな捻くれた二人が上手いこと出会ってしまった......つまり口煩い親族を黙らせるために結婚したと。」
「そうだ。お互いの合意もあるし、届け出も正式なものだから偽装結婚ではない。あくまで様なものだ。」
「家族を黙らせるために同じ家に住んでいるけど殆ど二世帯住宅のようなもの、当然口座も別だし支払い関係もそれぞれね。」
ルームシェアより深くて遠い関係って感じだな。
「そして結婚して数年も経つとな......今度は子供はどうした、となるわけだ。」
「よくある話だとは思うけど......いざ自分の身に降りかかると面倒くさいものよ。DINKsで押したかったのだけれど。」
DINKs......子供を作らない夫婦だったっけ。
「......もしかして俺は。」
この時俺は更に驚きを更新することになるのかと思ったのだが......。
「あぁ、すまん。お前は間違いなく俺達二人の子供だ。」
「そうよ、私がお腹を、お父さんが腕を痛めて生んだ子よ。」
「手首が砕ける寸前まではいったな。まぁ母さんの方が痛かったのだからそのくらいはいいさ。」
とりあえず実の子ということは分かったのだが、両親のイチャイチャは本当に見えないところでやってもらいたいと思う。
夢にまで出てくるしな......。
「つまり言われた通りに子供を作ったと?」
「いや、そうじゃない。まぁなんだ?それなりに長いこと一緒に暮らしていればな?」
「言われてから気づいたのだけれど、丁度あなたがお腹にいたのよ。」
「はっきりと自覚したのはその時だな。俺は母さんを愛していると。」
「私も同じね。貴方とお腹の子に深い愛を感じたわ。」
相変わらず......なんとも言いづらい両親だ......いや、夢なのだから当たり前か。
「まぁそんな感じで無事にお前も生まれて......後はお前の知っている俺達だ。」
「......まぁ二人が結婚した経緯と俺が生まれるまでの流れは分かったよ。それでどうして離婚って話になるのかな?」
「お前が生まれる前にな、二人で話し合ったんだ。」
「あなたが私達の手を必要としなくなる年齢、大体成人くらいまで育てたら離婚しましょうって。」
「......なんで?」
どう考えても説明する気がないとしか思えないような説明だ。
いや、実際困惑する俺の姿を見て楽しんでいたのだろう。
......俺の周りこんな人ばっかりだな......あっちもこっちも。
「つまりだ、俺たちの結婚には愛がなかった。」
「ただの体裁の為だけの結婚だったって言ったでしょ?」
「それは聞いたけど......。」
「結婚生活が幸せならそれでもいいって言う人もいるが......。」
「どうせならお互いが愛し合った結婚をやりたいと思ったのよ。」
「それってつまり......もう一度結婚するために離婚すると?」
俺がそう言うと二人は大きく頷く。
我が意を得たりって感じだが......微妙にイラっとするのは何故だろうか......?
「とは言え、再婚は分かれてすぐ出来るもんじゃないからな。」
なんか女性は何日か日を開けないと結婚出来ないって法律だかなんだかあったっけ?
「それでね。あなたももうすぐ大学生でしょ?一人で暮らすのは問題ないわよね?」
「まぁ、家事は出来るから大丈夫だと思うけど。」
「父さんも母さんも別々にだが、暫く海外に行くことになってな?丁度いいタイミングだから離婚して、日本に戻ってきたら再婚しようと思ったんだ。」
「......切っ掛けとしていいかもしれないね。ってか海外に行くって初めて聞いたんだけど?」
「俺はアメリカ。」
「私は中国よ。」
「反対方向だね......言葉は大丈夫なの?」
「「問題ない。」」
両親のスペックは俺が思っていたよりもかなり高いようだ......。
まぁ、俺も今では二か国......二世界語使えますけどね!
「一人で暮らして、これから先どうして行きたいかゆっくり考えると良い。俺たちはそうやって生きてきたし、それに伴う努力もしてきた。」
「過程も結果も楽しめるようなものを見つけられると、私たちも嬉しいわ。」
両親の言葉が頭の中で響き耳に残っているような感じがするな......。
俺はゆっくりと目を開けて横を見る。
横に寝ているのはナレアさん。
寝袋から這い出て深呼吸をする。
ナレアさんが横に寝ていると言っても別に色っぽい話ではない。
野営中のテントの中で並んで寝ていただけだ。
レギさんたちは夜明け前の見張り番で外にいるが話し声が聞こえる。
俺達は今、母さんの神域に向かって移動中だ。
今日の昼過ぎには神域にたどり着く予定で、今いるのはグルフが暮らしていた森の中。
正直、森の中なんてどこも同じに見えるから懐かしさは感じないけど......神域に帰るってことで昔の夢でも見たかな?
ナレアさんはまだ目が覚め無ようなので俺は音を立てないように気を付けながらテントの外に出る。
テントの外に広がる森は......やっぱりどこも同じにみえるね。
レギさんたちがこちらに気づき手を挙げて挨拶をしてくる。
二人が並んでいる姿を見て、両親に言われたことを思い出す。
「......やりたいこと、か。今はこの世界の事を思う存分見て回りたいってところだけど......。」
あの両親ならそれも有りって言いそうだな。
その後の事は......まぁその時になってからでいいだろう。
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