第32話 初めてのダンジョン



「どういうことだ!村長!ダンジョンだと!?」


「レギさん!落ち着いて下さい!まずは話を聞かないと!」


ダンジョンと聞きレギさんが血相を変えて村長さんに詰め寄る。

しかし、ここは村長さんから詳しい話を聞かないことにはどうすることも出来ない。


「ぐっ!す、すまない、村長。詳しく聞かせてくれ。」


「は、はい。実は村近くの洞窟がつい先日ダンジョン化しました。村の呪い士が気付きすぐにギルドに連絡したのですが、まだ査定の方も来られておらず。公表しないようにとだけ......口止めをされていたのです。」


「なるほど、それで俺も知らなかったわけだ......。」


査定とかのシステム的なことは気になるが今は確認している場合じゃない。

大人しく村長から話を聞こう。


「ですが、村の中では既に噂になっておりまして......それを聞いた子供達がダンジョンに入っていったと......。」


「そのダンジョンはどこだ!?」


「村の西です!警備して頂いていた畑の先に川があってそれを遡れば見えてきます!」


それを聞くとレギさんが駆け出してしまった!


「レギさん!待ってください!まだ聞くことが!それに武器は!?」


そんな俺の言葉も聞こえていないのかレギさんは走り去ってしまう。


「くそっ!村長さん、洞窟に入った子供は何人ですか!?」


「五人です!まだ幼く足も速くないのでそんなに奥まで行ってはいないと思いますが......。」


「わかりました!他の人には決してダンジョンに近づかないように厳命してください!僕たちが戻らなかったらすぐにギルドに連絡を入れてください!」


「承知いたしました!何卒、何卒子供たちを!」


「はい!必ずみんな連れて戻ります!」


俺はそう叫ぶと急ぎ宿に戻りレギさんの武器を掴んでダンジョンへと急いだ。




身体強化魔法を使いダンジョンまで急行したが、途中レギさんに追いつくことは出来なかった。

流石に人気のある昼間に昨夜のような速度で動けば大事故になりかねない。

ある程度速度を抑えた動きが今の俺にはもどかしいものに感じられた。

川を遡るとすぐに洞窟を見つけたもののレギさんの姿はまだ見当たらない。

もう中に入ってるのか......武器もなしで突っ込んでいくなんて、レギさんの行動とは思えないけど......早く追いつかないと......。

洞窟に入ろうとしたところでシャルに声を掛けられた。


『ケイ様、ここから先はダンジョンです。今まで相手してきたものとは別次元の強さの者が出る可能性もあります。準備も足りません、今は中に入ってしまった者たちを急ぎ回収して離脱するべきです。』


「うん、分かったよ。シャル。深入りはしない、あくまで子供たちの救出が目的だ。」


『承知いたしました。危険な場所です。最大限注意を払ってください。』


「了解、行こう。シャル、マナス、頼りにしてるよ。」


こうして俺たちは初めてのダンジョンに踏み込んだ。




肌がすこしピリピリとする気がする。

ダンジョンに蔓延する魔力のせいだろうか?

外の光は届かないにもかかわらず少し薄暗いといった程度の明るさがあり、子供たちが簡単に入れてしまったのもこのせいだろう。

視覚強化によって通路のかなり奥まで見通すことが出来たため、すぐにレギさんの背中を見つけることが出来た。

良かった、まだそんなに奥まで行っていなかったようだ。


「レギさん!大丈夫ですか!?」


「っ!あぁ......にーちゃんか。」


俺が声をかけると弾かれたように振り向くレギさん。


「武器も持たず危険ですよ。斧を持ってきました。」


「......あぁ、すまねぇ。」


何かレギさんの様子がおかしい......心ここにあらずというか......顔色も非常に悪い。


「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが......気分が悪いようだったら入り口まで戻ってください、子供たちは必ず連れて戻りますので!」


「......いや、すまねぇ、大丈夫だ......急いで進もう。」


そういってレギさんはダンジョンの奥へと足を進める。

レギさんを止めようとしたが、その時奥から何かが聞こえた。

恐らく......子供達の声だ!

俺とレギさんは通路を駆け抜ける。

通路の先に広間が見えてくる。

この位置から子供たちは見えないが声が聞こえる、ここから見えるのは中央に二足歩行する狼のような魔物が三匹。

足を止めることなく一気に広間に躍り出る。

手前の壁際に子供が三人、こちらとは反対側にある通路の傍に一人。

だがそれを襲うように手前に二足歩行の狼が二匹、奥には一匹いて今にも襲い掛かりそうだ!


「奥の子は僕が!レギさん手前の子供たちをお願いします!」


レギさんの返事を待たずに部屋の中央を突っ切る形で奥へと走る!


「シャル、マナス中央の三匹を頼む!俺は奥に突っ込む!」


『承知しました!』


シャルとマナスが魔物に飛びかかると同時にすり抜けるように中央を抜ける!

奥にいた一匹は子供を狙うのをやめて急接近する俺に向きなおる。

スピードを緩めることなく突っ込む俺に対し長い爪で横薙ぎに斬りつけてくる。

その攻撃を滑り込むように掻い潜り相手の足を切りつける!

そのまま相手の背中側に抜けて急制動、体を起こすと同時に足を斬られバランスを崩した相手の首をめがけてナイフを滑り込ませる。

同時に魔力を流し魔道具として起動、それによってナイフの刃がばらばらになり刃先が六十センチ程先の中空に留まる。

隙間だらけの刃のかけらがそのまま魔物の首に吸い込まれ抵抗を感じることなく通り過ぎる。

次の瞬間魔物の首がゴトリと落ち、そのまま体ごと魔力となり霧散する。


「大丈夫!?怪我はない?」


壁際に座り込んでいる男の子に声をかけると、がくがくと縦に首を振る。

ぱっと見たところ怪我は無さそうだ、よかった。

魔道具の起動を止めナイフを元のサイズに戻す。

デリータさんの作る現代の魔道具とは違い俺が母さんから作り方を教えてもらった魔道具は魔法の効果を魔晶石に込めることで作られる。

この魔道具には妖猫様の加護により使える空間魔法が込められていた。

空間魔法によりナイフの刃をばらばらにして伸ばす、刃のかけらの隙間の何もない場所は固定化されているとかで見えない刃として使える。

......本当はもっと詳しくシャルが説明してくれたんだけど、ちょっと理解できなかったのでとりあえず伸びるナイフとして理解することにした。

そのことを伝えたら伸びてるわけではありません、と説明二周目に突入しそうになったのでまた今度お願いしますと逃げました。

っと今はそれはどうでもいい、シャル達の方に目を向けるとあっさりと倒したようで魔物の姿は既に消えて、二人がこちらに向かってきているところだった。

レギさんの方は......


「レギー!」


子供の悲鳴が響く。

慌ててレギさんの方に目を向けると丁度敵を倒した所だったようで、魔物が魔力に戻っていった。

魔物が近かったから思わず叫んじゃったのかな?

そんなことを考えた次の瞬間レギさんが崩れ落ちた。


「レギさん!?」


慌てて傍にいた男の子を抱きかかえレギさんの元へ走る。

子供達がレギさんに泣きすがっている。

倒れたレギさんの腹部は血で染まり肩も抉れているように見えた。


「ごめん!レギさんを治療するからちょっとどいて!あまり離れちゃダメだよ!シャル、マナス周囲警戒お願い!」


抱えていた子を下ろして、子供たちをレギさんから離す。

レギさんの傷はかなり深い、でもまだ辛うじて息はある。

一気に魔力を込めて治療魔法を行使する......。

大丈夫、絶対に治せる......。

子供たちの鳴き声が響く中、回復魔法を続ける。

幸いすぐに傷は塞がり、血色もよくなってきた気がする。

傷を治すだけじゃなくて血も補填しているのかな......?

すごいな回復魔法......サイキョーか?


「......ぐ......ここは......?......俺は、生きてるのか?」


程なくしてレギさんが目を覚ます。

大事なくて良かった......。

後はみんなでダンジョンを出るだけだね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る