第31話 死因は交通事故



シャルに先導されて敵の感知範囲外を回り込んでいく。

音を立てないように静かに動こうとはしているが、やはり難しい、シャルやマナスからは音が全く聞こえていないというのに......。


『ケイ様、この位置で大丈夫です。』


「ありがとう、シャル。じゃぁマナス、レギさんに伝えてもらえるかな?」


マナスはすぐに跳ねて了解してくれる。

恐らくレギさんの所でも跳ねてくれただろう。


「じゃぁ感知範囲ぎりぎりまで近づいてレギさんが仕掛けたらこっちも急行しよう。シャルとマナスは相手を逃がさないように牽制する感じでお願いしていいかな?」


『承知いたしました......ケイ様、魔物は頑丈なものが多いので普段より多めに魔力を込めて強化をしてください。』


「うん、わかった。それと今回は戦闘中に適宜身体強化をかけてみる。危険がない範囲でまた見ててもらいたいな、でも最優先はシャル自身の安全だからね?」


『......留意しておきます。』


......身の安全方面の話だけ、シャルは言うこと聞いてくれないよなぁ......。

ため息交じりにシャルの頭を撫でる。

ついでにマナスも。


『ケイ様、魔物があの人間に気づいたようです。まだ戦端は開いていないようですが、足を止めて警戒しているようです。』


やっぱり警戒心が強いか、自分たちより数が少ないのに安易に襲い掛からない......。

ただこちらの目的は駆除であって撃退じゃない。

このまま警戒させて逃がすわけにはいかない。


『あの人間が魔獣に向かって動き始めました、仕掛けるようですね。』


まぁそうなるよね、ぎりぎりまで引き付けてたら畑に被害が出るし......。


『この辺が奴らの感知範囲ぎりぎりといったところです』


距離は五十メートルといったところかな?

視覚を強化しているのでビッグボアの姿は視認できている。

ビッグボアって言うくらいだから物凄いデカいのを想像していたけどそこまでデカくないようだ。

シャルの元のサイズくらいか、少し小さいくらいかな?

肉厚だから少し大きく見える気もするが、グルフ程大きくはない。


「レギさんがぶつかったらこっちも一気に突っ込むよ。」


距離は五十メートル程、魔力で身体能力が上がっていても一瞬で距離を詰めるなんて出来ない距離だ。

でもそこに身体強化魔法を使えば話は変わってくる。

今までよりも多く魔力を込めて身体強化をする。

魔道具の起動は接敵してからでいい。

今は気づかれるよりも早く接敵、出来れば不意を突いて相手の機動力を奪いたい。

狙いはレギさんと距離のある方だ。


『ケイ様、こちらから見て左側の個体に仕掛けるようです......始まりました!』


シャルの言葉を聞いた瞬間、全力で地面を蹴り一気に接敵......!

しようと飛び出した次の瞬間、迫るイノシシのお尻!

回避もブレーキも間に合わない!

激突、もみくちゃになる俺とイノシシ、遅ればせながら発動させる思考速度の強化。

回る視界、一瞬見えるレギさんの後ろ姿、すごい勢いで飛び込んでくるシャルと遅れて二体のマナス。

次の瞬間襟首をシャルに咥えられてイノシシから引きはがされる。


『ケイ様!ご無事ですか!?お怪我は!?』


「......びっくりしたぁ。ありがとう、大丈夫だよシャル。色々込めすぎたみたいだ。ごめんね、心配させて。」


『いえ......御止することが出来ずに申し訳ありません。全身への強化魔法が無ければ大変なことになる所でした......。』


確かに......五十メートルを一瞬で走り抜けたんだ、時速にしたらどのくらいだ......?

まぁそんな勢いで激突したんだ、下手したらミンチだったね......。


「そう、だね。ごめんね、シャル。魔法の行使はもっと慎重にしないとね。」


分裂していたマナスが一体に戻りながら俺の肩に上ってくる。

マナスも心なしか慌てて追いかけてきてくれていたような気がする。


「マナスも心配かけてごめんね。」


マナスを撫でながら少し考える......最近少し魔法に慣れてきたから油断していたんだ。

油断はしないようにって頭で考えるだけじゃダメなんだ......気を引き締めよう。

ってしまった、魔物はどうなった!?


「シャル!魔物は!?」


『......既に死んでいます。あの人間も打ち取ったようですね。』


そっか、魔物は二匹とも......いや、レギさんはともかく俺の方は交通事故に巻き込んだようなもんだけど......。


「にーちゃん!大丈夫か!?何があった!?」


「すみません、レギさん。勢いをつけすぎました、そちらは大丈夫ですか?」


「俺の方は問題ないが......怪我はないのか?」


「えぇ、魔力のお蔭で問題ありません。」


「魔力でって......いくら何でも頑丈になりすぎだろ......どんな体してるんだよ......。」


「あはは、いや、びっくりしました。こっちのビッグボアも討伐、と言ったら語弊がありますが......死んでいます。あ、毛皮とかの損傷がほとんどないんで上質な素材になりますかね?」


「死んでんのかよ......まぁ、いいか。なるほど、確かにこの状態なら毛皮は綺麗に取れそうだな。そこそこの値段になるだろう。」


「解体はレギさんがやるんですか?」


「いや折角村にいるからな、猟師に任せるつもりだ。綺麗にやってもらえばそれだけ価値もでるからな。」


「なるほど、では村の方に運びますか。夜明けまではまだ少しありますが。」


「その前に作ってもらったメシでも食いながら一休みしようぜ。落ち着いたら異常も見つかるかもしれねぇ、とりあえずもう潜む必要はないし、灯りをつけて体を調べたほうがいい。尋常じゃないぶつかり方だったからな。」


「そうですね......怪我をしていないとも限らないですね。」


「ってか、してないほうがどうかと思うぞ?」


『大丈夫です!怪我は一切ありません!全て調べさせていただきました!』


うん、ありがとうシャル......全部?

とりあえずレギさんが倒したビッグボアの傍に交通事故にあった方を運んでおく。

その間にレギさんが火をおこし腰を下ろしている。

レギさんが倒したほうは斧で斬られているため血の匂いがするが、少し離れているしまぁ大丈夫かな?

俺も精神的に図太くなったもんだ。

そんなことを考えながらレギさんの向かいに腰を下ろす。


「メシ食ったら血抜きだけしておくか。そういえばにーちゃん、そういうのは大丈夫か?飯食った後に吐くのもあれだろ?」


「山奥育ちですから、大丈夫ですよ。」


母さんや街への移動中にシャルが狩った獲物を食していたしね。


「それもそうか。じゃぁ飯食ったらやるか、やれるなら片方は任せたいが、いけるか?」


「えぇ、多分大丈夫だと思います。やり方は習ったので。」


何故か母さんからやり方は教えてもらっている。

母さんが料理をしているところは見たことないけど......血抜き必要なのかな......いや、俺の為かな?


『私もやり方は知っているのでいつでも聞いてください!』


シャルが尻尾を振りながらこちらを見上げてくる。

狼って血抜きするのかしら......?

とりあえず実践したことはないのでシャルにアドバイスをもらいながらやってみよう。




翌日、血抜きをしたビッグボアを村の猟師の所へ持っていき解体を依頼した。

その後村長の所へ行き、二匹のビッグボアの討伐を報告。

素材は半々という契約だったが肉は全て村に提供した。

結構大きいイノシシだったので食べられる部分も多いだろう、肉は熟成させた方がいいそうで帰りに少しだけ分けてもらう事になっている。

報告も終わり宿に戻る途中、今後の予定を話し合った。

街に戻るのは明日、今日はゆっくり休んでからの出発となった。


「まぁ、ガキどもと約束しちまったしな。」


そんなことを言いながらレギさんは頭を掻いていた。

宿でレギさんと別れベッドに潜り込んだが、流石に思いっきり寝ると夜眠れなくなってしまうので少し仮眠をとるだけにして起きることにした。

少し頭が重い気もするが明日に備えて夜早めに寝れば問題はないだろう。

シャルとマナスを肩に乗せ、眠気を振り払い部屋を出たところで丁度部屋から出て来たレギさんと会った。


「よぉ、にーちゃん眠そうだな。」


「あはは、流石にまだ眠いですけど。夜寝られなくなると明日がきついので......。」


「そうだな......眠気覚ましに散歩にでも行くとするか。」


「そうですねー、昼御飯は抜いたほうがよさそうです。食べたら余計眠くなりそうです。」


「そうだな、夜まで我慢するとしよう。」


そんなことを話しながら宿を出たところで血相を変えた村長さんと鉢合わせる。


「レギ殿!ケイ殿!あぁ!お願いします!どうか、どうか!お助け下さい!」


そう言うと村長さんは勢いよく頭を下げる。

俺もレギさんもあっけにとられるがすぐにレギさんが問いかける。


「どうされました?村長。落ち着いて話してください。」


「子供......子供たちがダンジョンに!」


「なんだと!?」


レギさんの怒号が響き渡った。


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